問題文
東北地方太平洋沖地震による東日本大震災を契機に,再生可能エネルギーの利用が注目されている。地質技術者として開発事業に係る立場で,以下の問いに答えよ。
(1)再生可能エネルギーの必要性を化石エネルギー並びに原子力エネルギーと比較しながら説明し,再生可能エネルギーを2つ取り上げ,それぞれの原理と利点について説明せよ。
(2)(1)で取り上げたうちの1つについて技術的課題を述べ,あなたの考える課題の解決方法を説明せよ。
(3)(2)で取り上げた再生可能エネルギーについて,社会や環境への問題点を述べるとともに,それらの問題を解決するためのあなたの提案を述べよ。なお,その提案を実現する上での解決すべき問題点・リスクを含めて記述すること。
模範解答
(1)再生可能、化石、原子力の各エネルギーについて
(1)-1再生可能エネルギーの必要性
①温室効果ガスの削減:再生可能エネルギーは、化石燃料と異なり、温室効果ガスであるCO2の排出が極少量であるため、温室効果ガスの削減に大きく貢献できる。
②持続可能なエネルギー:原子力エネルギーは使用することにより生み出される、放射性廃棄物の最終処分場については決まっておらず、処分法についても研究段階である。再生可能エネルギーから生み出される廃棄物は極少量で、処分も簡易であることから、原子力エネルギーと比べ、持続可能性の観点から優れている。
③非常時のエネルギー確保:化石エネルギー、原子力エネルギー共に、資源の99%以上を海外に依存している。
これは戦争等の理由で、化石エネルギーの輸入が途絶える非常時、甚大なリスクが生じることを意味する。再生可能エネルギーは、枯渇するリスクは少なく、純国産であることから、安定的なエネルギーの観点から優れている。また、再生可能エネルギーの多くは分散型エネルギーのため、震災等の非常時、最低限のエネルギー供給基地としても有利である。
(1)-2地熱エネルギーと風力エネルギー
地熱エネルギーは火山活動に起因する地熱により温められた熱水・蒸気を取り出し、タービンを回すことにより電気エネルギーを得ている。地熱発電所稼働後は、安定した電力を天候、日照時間等に関係なく供給出来ることから、ベースロード電源として使用することも可能である。
風力エネルギーは、風力によりブレードを回転させることにより、風による運動エネルギーを電気的エネルギーに変換するシステムである。他の再生可能エネルギーに比べ開発・設備費用が少なく、投資に対するコスト回収期間も短い利点がある。
(2)地熱エネルギーの技術的課題と課題解決方法
(2)-1地熱エネルギーの技術的課題
①地中から取り出す熱水・蒸気と同等の流体を地下で循環・供給させ、地熱流体の収支バランスをとること。②温泉帯水層とは独立した地熱貯留層を開発することである。①の理由は無駄の無い循環的使用によって、持続可能な発電として、長期の発電エネルギーを最大化させるためである。②の理由は周辺住民を含めたトータルの公益性を高めることである。「地熱発電と温泉との共生」が特に地熱発電では求められる。
(2)-2 (2)-1の技術的課題に対する解決方法
①の解決策としては、地熱貯留層となる断層・断裂帯の形状を明らかにする。そして、生産井、還元井を掘削し、坑井試験を通じ、地下温度、流体の流動性(透水性)、噴出(生産)、注水(還元)可能量から、生産井と還元井を結ぶエネルギー収支バランスが成り立つ貯留層管理を行う。資源量の算出に関しては30年以上の期間、安定出力が続くことを目安とする。
②の解決策としては、温泉帯水層に影響させないため、温泉帯水層と地熱貯留層の流動位置、特性、温泉水、地熱貯留層内熱水の地化学分析を通じた、流体の循環経路の精度を上げることである。
(3)地熱エネルギーにおける問題点とその解決・提案
(3)-1地熱エネルギーの社会や環境への問題点
①の問題点としては、貯留層に新たな水みちを作ってしまい、周辺の地下水利用に異常を生じてしまうこと。貯留層温度が低下するリスクが生じることである。
②の問題点としては、精度を上げた結果、データ内容が細部にわたる詳細なものとなり、結果判断に更なる調査項目が加わり、検討期間が延長された結果、発電所稼動開始が遅延することである。
(3)-2問題解決のための提案
①の解決策として、地下水利用影響が生じた生産・還元井箇所の配置、深度の変更を行う。それでも、地下水利用へのリスクがあるため、変更後に噴出試験と、周辺地下水モニタリングを実施し、地下水利用に影響のない、控えめな規模の開発にしていく。
②の解決策として、地熱開発後に得られたモニタリングデータが開発前と比較して、統計的な許容範囲(95%の信頼区間等)であることを示していく。モニタリング結果でも、例外的と思われ判断が難しい問題に対しては、流体解析を実施し、温泉帯水層への影響が無いことを定量的に明らかにしていく。
解説
作成中