問題文
わが国でも公共サービスの提供に際して公共施設が必要な場合に、民間資金や民間の技術を活用して、民間に施設整備と公共サービスの提供を委託するPFI制度が定着してきた。PFIについて以下の問いに答えよ。
(1) PFIにおける発注者側の利点と事業者側の利点をそれぞれ説明し、さらに、このPFIを成功に導く重要な項目を3つ挙げ、項目ごとに説明せよ。
(2) PFIで事業者側が応札する際に空気調和設備の担当責任者として留意すべき事項を3つ挙げ、項目ごとに説明せよ。
(3)PFIに潜むリスクを空気調和設備の範囲で2つ挙げ、その内容と対応策について述べよ。
模範解答1 簡易答案形式
(1)-1<発注者注者側の利点>
① 初期費用の低減が可能
民間の資本を利用できるため、初期費用が低減でき本来の公共サービスに資金を使うことが可能となる。
② 長期的に優れたシステムの採用が可能
設計から施工、運営まで含めた評価であるため、長期間で事業運営技術を評価することが可能となり、LCCの最小化など恩恵を享受できる。
<事業者側の利点>
① 受注範囲が広がることでの収益向上
設計から施工、維持管理まで行うことで従来の設備工事のみの場合と比較して受注範囲が拡大して収益が向上する。
② 長期間の契約による安定経営。
長期契約により安定的な収入が得られ、人員の計画的な配置が可能となる。
(1)-2<成功に導く重要な項目>
① 当事者の役割および責任分担を明確化
発注者側が必要とするものを明確にした上で、当事者間の役割や責任分担を明確にして、変動要素を考慮した費用の負担に関する取り決めを行う。
② 公共施設として省エネルギー性に優れたものとすること
採用するシステムはトップランナー製品の採用や自然エネルギーの利用など省エネルギー性に優れたものとする。
③ リスクの適正評価
リスクを過大に見積せず、設備の重要性を考慮しリスクを定量評価できるものとできないものの区別を明確にする。
(2)PFI応札時に空気調和設備の担当責任者として留意すべき事項
①事業目的(財政負担の縮減、省エネルギー等)を把握して、考えられるリスクと責任分担を明示し、変動要素に対する費用負担の考え方に留意する。
②高断熱材や高効率モータなどのトップランナー製品に加えて、外気冷房の採用など自然エネルギーの利用を積極的に提案し優れた省エネ提案とする。
③施設の重要性に応じた過剰設備とならない提案とする。リスクの定量化が困難な事項は発注者側に予め明示して、応札時に過渡なリスクテイクは行わないようにする。
(3)潜むリスクと対策
リスク1.公共サービスの利用度が想定と異なることによる委託料の変動
対応策1.事業者への委託料を基本料金と従量料金に分けて、変動が予想される公共サービスの利用に関しては、柔軟に対応できる料金体系とする。
リスク2.事業終了時の周辺環境や撤去条件の変更など定量化が困難なリスク
対応策2.事業終了の一定期間前に、双方で修繕費用、撤去・原状回復費用の確保手続きについて取り決めるようにする。
模範解答2 答案形式
(1)-1<発注者注者側の利点>
①初期費用の低減が可能
民間の資本を利用できるため、初期費用が低減でき本来の公共サービスに資金を使うことが可能となる。
②長期的に優れたシステムの採用が可能
設計から施工、運営まで含めた評価となるため、長期間での事業運営技術を評価することが可能となり、LCCの最小化、民間事業者の経営上のノウハウや技術的能力などの恩恵を享受できる。
<事業者側の利点>
① 受注範囲が広がることでの収益向上
設計から施工、維持管理まで受注できることで従来の設備工事のみの場合と比較して受注規模・範囲が拡大して収益が向上する。
② 長期間の契約による安定経営
長期契約に安定的な収入が得られ、人員の計画的な配置が可能となるなど、長期的視野に立った安定的な経営に貢献できる。
(1)-2<成功に導く重要な項目>
①当事者間の役割および責任分担の明確化
発注者側が必要とするものを明確にした上で、当事者間の役割や責任分担を明確にする。
② 省エネルギー性に優れたものとする
発注者である公共団体は、地球温暖化防止に対する法律により、率先して省エネルギーに取り組むことと規定されている。また事業の合理性を市民に対して説明する責任がある。このためシステムは、トップランナー製品や自然エネルギーの利用など省エネルギー性に優れたものを採用して、LCCの最小化により費用対効果の高いものとする。
③ リスクを適正評価し信頼性を高める
設備の重要性を考慮のうえ、機器故障時の影響度を適正に評価して、空調熱源の複数台設置、遠隔監視による予防保全、汎用機器の採用による故障時の短納期対応等にてリスクを低減することで信頼性を高める。
(2)応札時に空調設備の担当責任者としての留意事項
①冗長性、応答性の高いシステムの採用
発注仕様が仕様規定である民間工事と異なり、PFIは性能規定となる。このため、温湿度条件や運転時間などの変動に追従する必要があり、システムは冗長性や応答性を高めたシステムとする。
② 省エネルギー、LCCの最小化提案
高断熱材や高効率モータなどのトップランナー製品に加えて、外気冷房の採用など自然エネルギーの利用した優れた省エネ提案とする。また、LCCの最小化のために、電力負荷パターンに即した電力小売事業者の選定候補を盛り込んだものし、設備費低減については経済産業省などの補助金の利用を提案する。
③ 過剰設備とならないようリスク評価する
公共施設であることから、災害時にも電気、空調が必要となるが、施設の重要性を考慮してリスクを定量的に見積り、過剰設備とならないようにする。その際、VFM(Value for Money)での評価により、従来方式とPFI方式を比較した際に、結果として公的財政負担の縮減となるようにする。
(3)潜むリスクと対策
リスク1.委託料の変動に関するリスク
契約が長期であるため公共サービスの利用頻度の変動により、委託料が想定と異なることがある。変動要素に対する委託料の考え方の取り決めが必要である。
対応策1.委託費用を基本・従量料金制とする
事業者への委託料を基本料金と従量料金に分けて、変動が予想される公共サービスの委託料に関しては、料金体系を細分化する。
リスク2.周辺環境変化など定量化が困難なリスク
周辺環境や法規制の状況などリスクの定量化が困難な場合がある。例えば契約終了時、設備の撤去条件が変わり、設備の再利用が困難になることが考えられる。
対応策2.流動性のあるシステムの採用
システムは汎用性、流動性のあるものとする。例として機器はユニット化し、配管等は極力、単一材料を採用することで機器や配管財の再利用を容易にする。