H28年 建設・施工 Ⅱ-2-2問題 模範解答と解説
問題文
幅10m、厚さ3m、高さ10mの鉄筋コンクリート橋脚の施工に当たり、以下の問いに答えよ。
(1)発生しやすい初期ひび割れの原因を3つ挙げ、それぞれについて概説せよ。
(2)(1)で挙げた3つの原因のうち2つについて、初期ひび割れを防ぐため、施工計画段階で検討するべき事項及び施工時に実施すべき対策を述べよ。
発生しやすい初期ひび割れ
1−1セメントの特性によるひび割れ
コンクリートは、硬化時に膨張し冷却時に収縮を起こす。外部と内部の収縮の差によりひび割れが発生する。これを内部拘束ひび割れという。先行して打設したコンクリートに新しいコンクリートを打設する場合先行して打設したコンクリートの拘束を受けひび割れが発生する。これを外部拘束ひび割れという。
1−2沈下ひび割れ
構造物の鉄筋の上は、沈下が拘束されるため、コンクリート表面のタンピングが不足すると上面鉄筋に沿ったひび割れが発生する。壁とスラブを連続して打設する場合、壁コンクリートの沈下を待たずにスラブコンクリートを打設すると接合部にひび割れが発生する。施工不良が原因である。
1−3乾燥ひび割れ
コンクリート表面に亀甲状のひび割れが発生する現象で発生原因は初期養生の失敗により表面が急激に乾燥したためである。冬期の吸熱養生においても直接熱風が表面にあたりひび割れが発生することがある。
2-2.施工計画段階で検討すべき事項
橋脚の大きさからマスコンクリートとして計画す必要がある。マスコンクリートでは、配合の検討・養生の検討を行う必要がある。また、FEM解析を行い、必要に応じてひび割れ誘発目地も検討する。
2-2.施工段階で検討すべき事項
乾燥ひび割れ対策として、湿潤養生を行い、アクアカーテンなどを採用し、水を20度前後になるように管理する。防寒時の養生として、脱型後一気に外気にさらすのでは、なく保温養生して徐々に温度を下げる。
解説
この問題では幅、厚さ、高さの3Dに相当する3つの寸法が提示されており、こうした立体的な構造物に対して、どの部位に最もひび割れが発生しやすいかを考察した回答が必要となります。
問い(1)ではひび割れの原理を3つ挙げてそれぞれについてメカニズムを説明します。
問い(2)では、(1)で選定した3つの原因に対して2つを選定し詳述します。ただしその説明は、①施工計画段階と②施工時の2段階で述べることが求められています。こうした要求の項目に従って、2-1,2-2と章立てしてそれぞれ述べていくわけです。
1.ひび割れの原因の概説
(1)内部拘束によるひび割れ
対象のコンクリートでは、平面的な広がりがあり厚さが80㎝〜100cm以上であり、部材内部での温度差が発生する。この時の温度差が20℃以上になると、ひび割れが発生する可能性が高くなる。また、水和熱の高い内部が先行して自己収縮するため、ひび割れは、外周部から内部に向かい発生する。ひび割れの発生位置は、矩形橋脚の角部付近になるため、この橋脚では、幅10mの中心部5mの位置になる。
(2)外部拘束によるひび割れ
躯体底部の部分においては、既存のコンクリートとの打ち継ぎ目や既設の地盤と接する状態となる。このとき新設部分では、水和による自己収縮により既設との境界に引っ張り力が発生する。このためコンクリートが拘束されひび割れが発生する。構造物は高さ的に3m程度毎に合計3回程度に分割して施工されるため、橋脚の打継部において打継方向と直角の縦方向に橋脚中心において、ひび割れが発生する。
(3)乾燥収縮ひび割れ
橋脚の柱頭部の地上10mの位置では、施工完了後には地表面部や地下に比べて、直射日光を受けることに加えて、風の影響も受ける可能性が高い。このため乾燥収縮が発生し、コンクリートにひび割れが発生する。ひび割れ位置は、収縮する距離が最大となる橋脚中心に、縦方向に発生する。
2.初期ひび割れ防止の検討事項と実施時の対策
(1)体積変化による拘束の低減
①誘発目地の設置
設置位置は詳細な温度応力解析により決定するが、一般的には躯体寸法が大きいいところを、2〜3m以内程度の寸法なるように分割する。これにより発生する温度応力(主に引っ張り力)が過大になるのを防ぐ。
②打設ブロックの大きさの低減
体積が一様に収縮変化するコンクリートでは、部材寸法のうち最も長い寸法部分の体積変化が最大になるため、引っ張り力も大きくなる。よって一度に打設するブロックを分割して小さくすることで、発生する温度応力を小さくする。
(2) マスコンクリートの水和熱の低減
コンクリートの水和熱による温度差を小さくすることで発生する引っ張り力を低減して、コンクリートのひび割れを低減する。最も高温になる部分は躯体表面から最も遠い位置になる。対象の躯体厚さ3mでは中心部分から半分の位置(1.5m)でパイプクーリングにより冷却する。
解説
この解答では「幅10m、厚さ3m、高さ10mの鉄筋コンクリート橋脚」と具体的に寸法が与えられたことから、構造物の力学的にひび割れの発生しやすい場所を特定して原因を述べています。単なる構造物とは違って形状が与えられるとモーメントやせん断力によってひび割れの発生する場所が特定できるからです。こうした出題者の意図にきめ細かくこたえることがエンジニアの能力であり、そのような出題者の採点意図が伺えます。
初期ひび割れ防止の検討事項と実施時の対策では、検討によって生じる問題点や困難な検討内容、それから対策によって新たに生じる課題の解決などに言及します。
(1)初期のひび割れの原因
初期のひび割れには,コンクリート打設後コンクリート上面にすぐ発生する①沈降ひび割れ,②コンクリート表面に発生する乾燥収縮ひび割れ,③マスコンクリートに伴う温度ひび割れがある。
①沈降ひび割れは,コンクリートが硬化する際,ブリージング水がコンクリート表面に浮き上がる。その際,鉄筋下には,ブリージング水と同時に空気が溜まる。コンクリート上面が硬化する際,その空隙にコンクリートが沈降し鉄筋に沿った形でひび割れが発生する。
②乾燥収縮ひび割れは,コンクリートが硬化する際,コンクリートが乾燥し水分が蒸発する。更にコンクリートが収縮することによりひび割れが発生する。また,先に打設したコンクリートに後打ちのコンクリートが拘束されて,後打ちコンクリートが硬化する際ひび割れが発生する。
③温度ひび割れは,コンクリート断面が大きい場合,内部面は,硬化の際熱が発生して膨張を続けようとする。しかし,外部面は,外気温に左右されて冷やされ収縮する形になる。内部コンクリート面に外周コンクリートが拘束されて,外周コンクリート面にひび割れが入る。
(2)-1初期ひび割れを防ぐための施工計画段階での検討
乾燥収縮ひび割れの施工計画段階での対策は,細い径の鉄筋をコンクリート表面に細かいピッチで配筋を行う。また,コンクリートは,粗骨材として石灰石を使用し,単位セメント量を減し,膨張材を混入する配合計画とする。 温度ひび割れの施工計画段階での対策は,まず,使用するセメントの種類,施工時期,コンクリート打設厚さのケースにより温度解析を行う。0.3mm以上の有害なひび割れが発生しないかどうか解析を行い,セメントを中庸熱ポルトランドセメントを使用するのか,低熱ポルトランドセメントを使用しなければならないのか,普通ポルトランドセメントでもよいのか確認する。コンクリート打設厚さと合わせて検討する。
(2)-2初期ひび割れを防ぐための施工時実施すべき対策
乾燥収縮ひび割れを防ぐための施工時実施すべき対策は,コンクリート打設後,コンクリート表面が急激に乾燥をしないようコンクリート表面にビニールシートで被い湿潤養生を行う。型枠のせき板についても所定の強度が発現するまで解体しないのは当然であるが,急激な乾燥を防止するために一定期間保持する。
温度ひび割れを防ぐための施工時実施すべき対策は,外周部と内部の温度差が発生しないように,外気温に左右されないように型枠を保温する。打設完了後,打継面に0.3mm以上の幅のひび割れが発生した場合は,樹脂注入を行ってから次の打ち重ねの打設を行う。
解説
初期のひび割れの原因3つとありましたので、①②③と記号をつけて3つを列記するのが良いでしょう
検討すべき事項は計画段階と施工段階の3段階で問われています。計画段階では材料の仕様等計画内容に相当することをあげ、施工段階では工法、手順、施工法について述べます。いずれもただ普通にやる方法ではなく工夫して改善する方法を提案します。この工夫して他者よりも貢献する姿勢が技術士にふさわしいと評価されるわけです。
複数リフト施工となる当該マスコンクリートの橋脚の施工に当たり、発生しやすい初期ひび割れの原因と防止のための各段階における検討事項及び実施対策を述べる。
初期ひび割れ原因
【原因1:セメントの水和熱による温度応力】セメントの水和熱によるコンクリート内部の温度上昇と部材表面部の温度差により、部材に引張応力が生じ、内部拘束温度ひび割れが発生する。また、一旦温度上昇した部材が温度下降により収縮する段階で、打設済みコンクリート(既設リフト)に拘束され、外部拘束温度ひび割れが発生する。
【原因2:ブリージングによるコンクリート面沈下】凝結時、ブリージングによるコンクリート面の沈下が、固定された水平鉄筋などで局部的に阻害され、鉄筋に沿って沈下ひび割れが発生する。
【原因3:コールドジョイントの発生】打設延長の長いコンクリート工などにおいてコンクリートを連続して打ち重ねる場合、境界面の締固め不足や先行層の凝結により、先に打設した層と一体化が出来ずコールドジョイントが生じ、境界面に沿ってひび割れが発生する。
初期ひび割れ防止の検討事項と実施対策
-1温度ひび割れの防止
【施工計画段階の検討事項】
- 計画される施工条件下での「温度ひび割れ解析」を行い、温度ひび割れ指数が1.5以上となるコンクリート材料・配合及びリフト高などを適切に定める。
- セメント材料は、水和熱の小さい低熱あるいは中庸熱ポルトランドセメントなどを検討する。
- AE減水剤などによる単位水量の低減を検討する。
- 必要に応じて、コンクリート材料のプレクーリング、あるいは打設後のパイプクーリング等検討する。
【施工時実施事項】
- 生コンクリートは出荷から1.5時間以内に打込む。
- 受入れ管理温度を設定し、超過したコンクリートを排除する。
- 炎天下のコンクリート打ち込みは回避する。
- 型枠存置期間を通常より長い1週間以上とし、脱型後もシート等で養生する。
-2沈下ひび割れの防止
【施工計画段階の検討事項】
- AE減水剤などによるブリージング量の低減を検討する。
- 実施工に見合った適切な打設リフト高さを検討する。【施工時実施事項】
- 打込み速度を1m/Hrとし、締固め4名を配置して適切な締固めを行い、急速な打込みをしない。
- 一層の打設厚さを0.6mとし、1.5時間以内でターンする。