問題文 Ⅲ-1
ZEBとは1次エネルギー換算でバウンダリー(敷地境界あるいは建築面積)における1年間のエネルギー消費量と再生可能エネルギー生産量が正味でバランスする建物(net Zero Energy Building)である。ZEBの定義と実現可能性については、グローバルな視点から見ると様々な議論が存在する。これらを考慮した上で、次の設問に答えよ。
(1)技術者としての立場で多面的な観点から、新築・改修計画及び運用段階を問わず、ZEBの実現における課題を抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうち、最も重要と考えられる課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対応について述べよ。
模範解答1 (簡易答案1) 添削履歴8 作成日2020/6/10 衛生部門 建築物環境衛生管理 専門事項 ビル空調
1)ZEBの実現における課題抽出と分析
①ビルのBCP対策の一環としてのZEB技術の活用
・太陽光発電、地熱利用HP等の省エネ技術⇒BCP対策、自立型エネルギー
・外気冷房、フリークーリング等のパッシブ空調⇒緊急時の冷房技術
②快適性による生産性向上を指向したZEB技術の普及
・個別快適性を高め、生産性を向上させる省エネルギー手法の採用。
・個別生産性を向上させることで人件費低減をし、ZEB普及を計る。
③冷房・換気・照明の省エネを重点としたZEB技術の普及
・今後成長の見込めるアジア市場でのZEB活用
・亜熱帯、低緯度地域に対応した冷房技術開発
2)最重要課題(快適性による生産性向上を指向したZEB技術の普及)
①タスク・アンビエント空調でのZEB技術普及
無駄なエネルギーの削減。
居住域に限定した空調をし、非居住域の室温設定を緩和して省エネルギーを計る。
②パッシブ空調でのZEB技術普及
自然エネルギーを利用し、必要エネルギー量を削減。
自然換気(クールチューブ、ナイトパージ)、外気冷房での省エネルギーを計る。
③放射熱空調でのZEB技術普及
高効率空調でエネルギーを有効に使用。
放射熱効果により居住者体感を調整し、室温設定を緩和して省エネルギーを計る。
3)新たに生じうるリスクとそれへの対応
リスク;省エネルギー技術が進行し、太陽光発電等の自然エネルギー由来の熱・電力が余剰になる。
対応;蓄熱槽、蓄電池への熱・電力貯蔵
ZEB定義見直し;再生可能エネルギーのオフサイトの発電、余剰電力の売
電、スマートグリッド構築による再生可能エネルギーの地域利用等を取込
模範解答1 (簡易答案2) 添削履歴4 作成日2020/6/20 衛生部門 建築物環境衛生管理 専門事項 ビル空調
(1)ZEB実現における課題の抽出と分析
①ビルのBCP対策の一環としてのZEB技術の活用
BCP対策はビルの付加価値向上には欠かせない要素として認知されている。ZEBの創エネ技術である太陽光発電、地熱利用HP等は自立型熱源としてBCP対策としても役立つ。ZEB技術をBCP対策の一部として取込んで普及を図っていく。
②快適性による生産性向上を指向したZEB技術の普及
ZEB技術は、個別快適性を高めて生産性を向上させる事が可能な省エネルギー手法である。オフィスワーカーの生産性向上が施主へのインセンティブとなり、その普及にも貢献する。
③冷房・換気・照明の省エネを重視したZEB技術の普及
冷房を中心としたZEB技術を今後成長の見込めるアジア市場へと展開する。暖房を中心とした欧米のZEBと対抗して、亜熱帯、低緯度地域への冷房技術の開発をする。
(2)最重要課題(快適性による生産性向上を指向したZEB技術の普及)
①タスク・アンビエント空調方式にZEBを応用して省エネルギーを図る。
居住域の温湿度環境を改善して個別要求を満足させ、非居住域の空調を緩和する。また、ZEBの機能である高効率空調により、一次エネルギーの有効利用と快適性を両立させるシステムとする。
②ZEBの基本的機能でパッシブな自然エネルギー空調をする。
ZEBの省エネルギー要素である、パッシブな自然エネルギーを活用した空調負荷の低減をする。ナイトパージ、クールチューブにて熱負荷削減をし、外気冷房にて省エネルギーを図る。また、外皮断熱性を向上させ外乱要素を低減して、負荷変動の少ない温湿度環境を保ち、快適性を向上させる。
③再生可能エネルギーをZEBで活用し無駄なく一次エネルギー消費量を低減する。
ZEBの汎用的省エネルギー要素である太陽光発電パネルや地中熱HPにより、創エネルギー量を増やす。再生可能エネルギー活用にて一次エネルギー消費量当たりの生産性を向上させる。
(3)新たに生じうるリスクとそれへの対応
省エネルギー技術と太陽光発電等の創エネルギー技術が進行していけば、ZEB達成が比較的容易な中小規模建物の発電量が余剰するようになる。電力固定買取制度が終了し、そのようなビルが多くなれば売電価格が下がってしまい、施主の経済的損失が発生するリスクがある。
解決策として、ZEB定義の見直しを行い、余剰電力処分方法を電力会社への売電以外の方法も認める。中小規模、大規模ビル、家庭間での直接取引にて、売電単価を現状電力に見合ったものとすれば、余剰問題は解決する。
模範解答1 (完成答案) 添削履歴2 作成日2020/6/25 衛生部門 建築物環境衛生管理 専門事項 ビル空調
(1)ZEB実現における課題の抽出と分析
①ビルのBCP対策の一環としてのZEB技術活用
BCP対策はビルの付加価値向上のためには欠かせない要素として認知されている。そして、ZEBの創エネルギー技術である太陽光発電、地中熱HPは自立型熱源としてBCP対策としても役立つ。ZEBにてエネルギーセキュリティー向上させ、BCP対策の一部として取り込んで、活用していく。
②快適性による生産性向上を指向したZEB技術普及
ZEB技術は、個別快適性を高めて生産性を向上させることが可能な省エネルギー手法である。非均質的空調、個別対応的空調手法にて快適性を重視した健全な省エネルギー空調をすると共に、創エネルギーにより一次エネルギー消費量を低減する。オフィスワーカーの生産性向上とランニングコスト低減にて施主のインセンティブを高め、ZEBの普及をしていく。
③冷房・換気・照明での省エネ重視のZEB技術開発
我国は高温多湿地域が多く、潜顕熱分離空調等の除湿技術発展には適した風土がある。冷房除湿空調を中心としたZEB技術を今後成長の見込めるアジア市場へと展開し、普及をしていく。暖房を中心とした欧米のZEBに対抗して、亜熱帯、低緯度地域への冷房、換気、照明を中心としたZEB技術の輸出をして、世界貢献を目指していく。
(2)生産性向上によるZEB技術の普及の解決策
①タスク・アンビエント空調をZEBに応用する。
タスク域の温湿度環境を改善して個別要求を満足させアンビエント域の空調を緩和させて省エネを図る。温度設定を高めに設定しても快適性は維持できるため熱源機の運転効率の向上となり、省エネルギーに繋がる。また、ZEBの機能である高効率空調にて一次エネルギーの有効利用と快適性を両立させるシステムを構築して、オフィスワーカーの生産性を向上させる。
②ZEBの基本機能で自然エネルギー空調をする。
ZEBの省エネルギー要素である、自然通風を活用して空調負荷の低減をする。ナイトパージ、クールチューブにて熱負荷削減をし、外気冷房にて省エネルギーを図る。また、外皮断熱性を向上させ外乱要素を低減して、負荷変動の少ない温湿度環境を保ち、快適性を向上させる。
③再生可能エネルギーをZEBで活用する。
ZEBの汎用的省エネルギー要素である太陽光発電パネルや地中熱HPにより、創エネルギー量を増やすことで無駄なく一次エネルギー消費量を削減する。再生可能エネルギーの利用技術は年々進歩しているためZEBの目的である創エネルギー産業を発展させて、一次エネルギー消費量当たりの生産性を向上させる。
(3)新たに生じうるリスクとそれへの対応
①新たに生じうるリスク
様々な省エネルギー技術が開発され、太陽光発電パネルの効率向上など創エネルギー技術が進歩していけば、ZEB達成が比較的容易な家庭住戸、中小規模ビルの発電量が余剰するようになる。電力固定買取制度にて再生可能エネルギー設備を導入した建物が多く存在するが、制度期間が終了すれば、余剰電力量が過剰となり売電価格が低下して、施主の経済的損失が発生する事が予想される。
②リスクへの対応
解決策として、ZEBの定義の見直しを行い、余剰電力処分方法を変更し、電力会社へ売電する以外の取引も行えるような制度を導入する。
電力会社を含めた発電主体に対し、発電量に見合った再生可能エネルギー供給枠を決める。そして、再生可能エネルギー発電量が余剰した住戸、ビルの電力を市場にて売買できるようにする。
またこの考えをさらに推し進めて、民間企業が仲介してユーザー間での直接電力取引を推進する。そうすることで、再生可能エネルギー電力を商品化する。更に蓄電設備をそれぞれの住戸、ビルに設置してAI機能を搭載させることで、自動的に電力の過不足を調整するシステムとする。余剰分電力はまとめて売電する。
再生可能エネルギー電力を電力会社、家庭住戸、中小規模ビル、大規模ビルの間にて市場取引できる制度にて、余剰問題は解決する。
解説
(1)課題の分析のしかたについて
ZEBの概念、目的、意義の理解が浅いと難問となります。こうした問題では十分下調べをするようにしてください。
ZEBについて今後提案すべきことの1つは、「日本の風土をふまえた技術」です。
ヨーロッパで開発されたこの指標は、暖房が中心です。一方日本は亜熱帯に位置しますので、冷房中心にならざるを得ません。
この問題文に書かれていた「グローバルな視点」とは、そのようなことを意味していたのです。
(2) 解決策の提案、方策の考え方、書き方などについて
ZEBについて、定義だけでなく、使い方を深く知ることです。
ZEBとは概念的なものであり、固有の省エネ技術に限らず、省エネ技術と再生可能エネ利用技術の組合せをいうものです。
とはいってもZEBの内容から離れて省エネを論じても仕方ありません。解決策の項ではひたすら省エネの提案になりがちですかが、しかしそれでは答案になりませんので、解答のそれぞれにおいて「ZEB」の意味を分析して課題を述べるようにとしてどうしております。
(3)リスクの導き方、書き方などについて
再生可能エネを導入した場合にどんな問題が生じるか、先入観なしに分析する必要があります。
この受講生様も、当初頭の中で想像されていたのは大規模案件での問題だったそうです。
しかし、最終的にはエネルギーが余剰することに思い至ったそうです。
実際に調べてみると、既にこのようなリスクが現実化してきているような記事も確認されています。
リスクについて考えるときは、制限を設けずに広く見渡すことです。このZEBのリスクも対象を中小規模、家庭住戸まで広げて判明しました。ZEBなんて一般的に良いことばかりと考えられがちですが、しかし、再生可能エネが行き過ぎた場合には弊害が発生することがあるのです。リスクを探すときには先入観は禁物だということです。
そして、解決策の最終的な仕上げ段階でいつも申し上げるのは「市場原理を変革するような提案は高度なコンピテンシーとして認められる」とということです。専門家たるものは、ただ仕事をこなすだけでなく、何についても変革を提案しなければなりません。このZEBの問題はそのような継続研鑽をしているかが問われたものだと考えます。
同時に回答内容が空調技術からは発散したり、外れないように注意してください。
模範解答2 (簡易答案1) 添削履歴5 作成日2020/8/14 衛生部門 建築物環境衛生管理 専門事項 換気・空調
1.ZEBの実現における課題:50%以上の省エネ+再エネを加えて100%目指
1)負荷削減:空調に起因するエネルギーは全体の約60%、照明に起因するエネルギーは約30%あるので、これらの負荷を削減が効果的。自然換気や昼光利用が容易な平面計画。高性能断熱材、高性能断熱材の利用等、建築設計と横断的な対策を実施
2)設備システムの高効率化:エネルギー削減を大きくするには、室内使用条件に応じた温湿度条件の設定や、高効率なヒートポンプ利用、空調エネルギー約30%を占める搬送動力の低減が必要。
3)再生可能エネルギーの有効利用:定義での敷地内での再エネを活用。一般的に普及している太陽光発電を太陽熱、地中熱を利用。熱源機を排熱も放出するので排熱も利用する。エネルギーの自立化によりBCP性能の向上も図る。
2.設備システムの高効率化の解決策
1)タスク&アンビエント空調:アンビエント空調に放射空調とデジカント外調機を利用する。タスク空調天井面にパーソナルファン設置し体感温度を1℃低減。放射空調の熱源は地中熱と太陽熱を利用。デジカント空調機の吸収材の再生用の熱源には太陽熱を利用。外調機は、CO2制御を採用。エネルギー削減効果は約60%期待。
2)ヒートポンプ空調機の高度利用:外気処理用に直膨型全熱交換器、内部負荷処理用に天井隠蔽型空調機を採用。外調機と内部処理空調機を協調させ、負荷が少ない時は内部処理空調機を停止する。空調機の蒸発温度・凝集温度は、外気温度、設定温と測定値の差分、膨張弁の開度情報により自動的に変化させる。外調機にはCO2制御を採用。従来方式よりエネルギー削減効果は60%期待。
3.新たに生じうるリスクと対応策
1)システムが複雑し性能が発揮しないリスク
システムが複雑化することで、試運転調整がうまくできず、設計上でエネルギー削減効果があっても、運用上で想定したほどランニングコスト低減しないリスクが考えられる。
2)対策:高度な空調システムの調整や試験の方法が確立していない事が原因。試運転調整のマニュアルや機能性能試験の標準仕様を整備。又、チューニングや計測ポイントが容易なように、センサーの無線化技術を向上。
模範解答3 (簡易答案1) 添削履歴6 作成日2020/8/14 衛生部門 建築物環境衛生管理 専門事項 換気・空調
1.ZEBの実現における課題:
1)設計段階でのエネルギー削減:建築での平面計画、断熱性向上、日射遮蔽により負荷削減。自然換気や昼光利用による自然エネルギーの採用、未利用エネルギーの採用や高性能システム採用により大幅の省エネ。太陽光の再生可能エネルギーを利用しエネルギー収支“0”を実現。
2)運用段階でのエネルギー削減:BEMSによりエネルギー消費性能をより把握し、フォールトを発見し改善点を抽出。そして必要により計測ポイントを追加。そしてチューニングにより設定値や運転時間を改善する。又、自然換気の優先利用等、使用者の協力も図る。
3)ZEBの定義の定期的な見直し:我が国は50%以上の省エネと敷地内の再生可能エネルギーを利用によることが定義。しかしハードルが高ければ、実現の意欲が減速。敷地外の再生可能エネルギーを加えるなど定義を定期的に見直す。
2.設計段階でのエネルギー削減の解決策
1)空調でのエネルギー削減:建物の約60%を占める空調エネルギーを削減する。 高性能断熱材利用+エネフローウィンドの採用。自然換気利用や、輻射システム+デジカント空調機+パーソナル吹き出し口を組み合わせて、タスク&アンビエント空調の採用。期待効果は最大60%の省エネ。
2)照明電力の削減:建物の約30%を占める照明電力を削減する。照明:昼光利用+自動調光+自動角度調整ブラインドを組み合わせる。期待効果は最大80%省エネ。
3)外壁面の太陽光パネル設置:3000㎡・10階建ての建物で、外壁面の1/4太陽光パネルを設置すると、単位面積あたりの原単位の寄与率が屋根面設置より約3倍の効果を発揮。
3.新たに生じうるリスクと対応策
1)中間期の再生可能エネルギーが余剰となり無駄になるリスク:ZEBが普及により、エネルギー消費が少ない中間期かつ好天時に創出したエネルギーが系統に接続できなくなるリスクが考えられる。
2)対策:建物内では、蓄熱システムやEVの蓄電効果を利用する等の蓄電池システムを設置。広範囲の対策では、系統に接続できる容量の見直し。将来的には大規模蓄電池システムや余剰電力、水素による変換により対応する。
(1)ZEB実現における課題の抽出と分析
①ビルのBCP対策の一環としてのZEB技術の活用
BCP対策はビルの付加価値向上には欠かせない要素として認知されている。ZEBの創エネ技術である太陽光発電、地熱利用HP等は自立型熱源としてBCP対策としても役立つ。ZEB技術をBCP対策の一部として取込んで普及を図っていく。
②快適性による生産性向上を指向したZEB技術の普及
ZEB技術は、個別快適性を高めて生産性を向上させる事が可能な省エネルギー手法である。オフィスワーカーの生産性向上が施主へのインセンティブとなり、その普及にも貢献する。
③冷房・換気・照明の省エネを重視したZEB技術の普及
冷房を中心としたZEB技術を今後成長の見込めるアジア市場へと展開する。暖房を中心とした欧米のZEBと対抗して、亜熱帯、低緯度地域への冷房技術の開発をする。
(2)最重要課題(快適性による生産性向上を指向したZEB技術の普及)
①タスク・アンビエント空調方式にZEBを応用して省エネルギーを図る。
居住域の温湿度環境を改善して個別要求を満足させ、非居住域の空調を緩和する。また、ZEBの機能である高効率空調により、一次エネルギーの有効利用と快適性を両立させるシステムとする。
②ZEBの基本的機能でパッシブな自然エネルギー空調をする。
ZEBの省エネルギー要素である、パッシブな自然エネルギーを活用した空調負荷の低減をする。ナイトパージ、クールチューブにて熱負荷削減をし、外気冷房にて省エネルギーを図る。また、外皮断熱性を向上させ外乱要素を低減して、負荷変動の少ない温湿度環境を保ち、快適性を向上させる。
③再生可能エネルギーをZEBで活用し無駄なく一次エネルギー消費量を低減する。
ZEBの汎用的省エネルギー要素である太陽光発電パネルや地中熱HPにより、創エネルギー量を増やす。再生可能エネルギー活用にて一次エネルギー消費量当たりの生産性を向上させる。
(3)新たに生じうるリスクとそれへの対応
省エネルギー技術と太陽光発電等の創エネルギー技術が進行していけば、ZEB達成が比較的容易な中小規模建物の発電量が余剰するようになる。電力固定買取制度が終了し、そのようなビルが多くなれば売電価格が下がってしまい、施主の経済的損失が発生するリスクがある。
解決策として、ZEB定義の見直しを行い、余剰電力処分方法を電力会社への売電以外の方法も認める。中小規模、大規模ビル、家庭間での直接取引にて、売電単価を現状電力に見合ったものとすれば、余剰問題は解決する。