鉄道設計技士試験模範答案 鉄道車両 業績論文1「連接車両」

〇〇鉄道株式会社〇〇形連接車両の設計〇〇年〇月

1.業務概要、実施時期

2015年3月、〇〇鉄道株式会社における、新構造(3車体連接2台車)の〇〇形車両を導入するにあたり左右振動の低減の為、車体間及び台車左右動ダンパの減衰力向上等をおこない、乗り心地を大幅に向上させた。

2.私自身の役割

 台車蛇行動における左右振動低減対策の特定、計画立案から施工、乗り心地評価・検証までを実施した。

3.技術上の課題、解決方策及びその理由

3.1 技術上の課題、問題点

①          左右振動が大きいことで乗り心地を害した。その原因は、車体間ダンバが、車体間の斜め位置に取付けられていて伸縮方向に有効に作用していなかった。

②          著大左右振動が集中する3〜6Hzに対して、このダンパは減衰力が弱かった。

③          車体と台車の左右ストッパ隙間が狭く、軌道からの左右動が直に車体に伝達していた。

3.2 私自身が採った方策とその理由

①車体間ダンパ取付位置の変更

最急曲線R61の車体間伸縮量167.92㎜に対して斜め位置での伸縮量は76㎜なので、全ての伸縮作用の約半分量しか、減衰効果が得られていない。そのため、車体間伸縮方向に合わせ、ダンパ取付位置を斜め位置からレール方向に変更することで、減衰力を有効に働かせた。

取付位置変更に伴うストローク量設定は、車体間変位角を算出する必要から、設計仕様上の最急曲線R61に対する車体間変位角4.8

新型車両

63°を求め、三角関数を用いてX=(970㎜×SIN(4.863°)+480㎜÷COS(4.863°)-480㎜)×2=167.92㎜と定めた。

②ダンパ減衰力の向上

全線の乗り心地評価にて3〜6Hzの低速振動域に著大左右振動加速度が集中していたので、車体間及び台車左右動オイルダンパに小径オリフィスを採用することで、減衰力の向上を図った。(0.5→4.9kN/5cm/s)

(特性図の新旧・・・別添資料。本番は論文挿入)

③          左右動ストッパの隙間を3㎜から6㎜へ拡大

台車が車体に対し、安全な範囲である程度動けるようにするため左右動ストッパ隙間を車体低床部と車輪が接触しない範囲内で6㎜に設定した。

4.技術的成果

対策の結果、著大左右振動加速度(P-P)5.8m/ssを2.1m/ssまで低減、そして全線での乗り心地係数3超「非常に悪い」を1.5〜2「普通」まで抑制した。

5.現時点で技術的に改善すべき点

乗り心地係数は、1.5〜2「普通」まで改善されたが、依然として左右振動の発生頻度は、この範囲内で多く発生していた。

当時の開発思想は、蛇行動発生箇所である台車に対する対策ではなく、蛇行動における車体左右振動を抑制するべく、車体側へ対策を講じることばかりに主眼を置いていたことが問題であった。

それは、直に改善対策を講じることが出来るためである。この体験を経て、本来は、蛇行動特性を変える台車自体への対策も合わせて取るべきであったと現在は考えている。

鉄道設計技士試験模範答案 鉄道車両 業績論文2「電気機関車の設計」

〇〇〇〇形電気機関車の設計

1.業務概要、実施時期

 〇〇〇〇形電気機関車(保線運用や電車回送に使用する経済性の高い小型機関車)の設計を実施した。成果として、開発コストとLCCの低減、電磁両立性の確保を実現した。

20〇年4月から20〇年4月。

2.私自身の役割

 ランニングコスト低減のため汎用型(旅客車用)機器を利用し、旅客車と保守手法を共通化する開発責任を担った。

3.技術上の課題、解決方策及びその理由

3.1 技術上の課題、問題点

 機関車用機器は、特殊性が高くそのまま使っても又は、小型化するとしても開発コストがかさむ。このため設計の自由度の高い汎用機器を用いたコンパクト設計をすることが課題であった。

しかし問題は、

① 機関車用の仕様容量となると大型化し、機械室配置を横配置にせざるを得ない。その結果、機械室が高温となるため、主制御器やブレーキ受信器などの電子機器寿命が短くなる。

② 機械室が狭くなるため、密集して配置すると信号設備の継電器誤動作や主制御器やブレーキ受信器の誤動作など誘導障害が発生する恐れがあった。 

3.2 私自身が採った方策とその理由

① 旅客車用機器の高密度配置設計

 旅客車用サイズの小型の台車、主電動機のほかに、小型の補助電源一体型の車両制御装置等をカスタマイズして、高密度に配置する。旅客車用は機関車用と比べ、汎用性が高いために新たな開発コストが不要だからである。

② 自然換気による機械室の温度低減

 機械室内機器を許容温度(50℃)以下に保つため、温度差換気による冷却を採用した。機器枠を上下2段とし、放熱機器の上段配置、屋根排気口と車体側面下部に低圧損のSGWフィルタによる吸気口を設け、冷却に必要な外気流量70/minの流量を確保した。これらの理由は、機関の環境温度を下げ、長寿命化させるためである。

③ 電磁ノイズの低減

 踏切制御子、ATS関連機器、軌道回路の妨害許容値4mV以下を確保するため、放射ノイズ対策として、金属箱にリアクトル機器を納めた。又、伝導ノイズ対策として、アルミ溝型材の機器吊枠の内側を電線管に見立て、ケーブル種別毎に配線した。これらの理由は、電磁ノイズの影響を、金属反射原理によりシールドして、他の機器動作に影響を与えないためである。

4.技術的成果

①旅客車用機器の使用による開発コストの8千万円低減とLCCの2百万円(定期検査1回当り)の低減、②機械室温度の低減による電子機器の延命、③電磁ノイズの低減による信号設備の安定動作の3点を達成した。

5.現時点で技術的に改善すべき点

 保線運用において、上り勾配でバラスト散布を行ったところ、機械室内機器が許容温度を越える64℃まで上昇した。この温度上昇は長時間の低速(5km/h一定)走行によるものであり、機器発熱の冷却に必要な外気流量が不足したためである。

 当初設計は下りの保線運用と限定していたが、実際の運用では、均一に砂利散布するため、(下りのブレーキではなく)上り走行が多用され、この結果機関発熱が当初設計の150%となっていた。現時点では機械換気により、上り運転時は外気流量を当初設計の185%となるようにしている。設計にあたり、保線運用に関する現場ニーズを精査し設計仕様を決定すべきであった。

鉄道設計技士試験模範答案 鉄道車両 業績論文3「定位置停止装置と車両制御」

定位置停止装置改修に伴う車両制御装置の調整

① 業務概要、実施時期および役割

〇〇線ではホームドア整備に伴い、列車を駅定点に停止させるためのブレーキ制御、車両ドアとホームドア開閉の連動制御を内包した定位置停止装置(以下「TASC装置」)を車両に付与することとした。

私は、平成26年度より3年間定位置停止(以下TASC)装置設計業務に実務担当者として携わり、仕様を決定するための設計会議への参加、機器製作会社での機能確認、改修試作車による本線試運転を経て、車両改修を全車に展開した。

②技術上の課題と解決策とその理由

〇〇線車両は、〇〇ベースの1・2次車と〇〇ベースの3次車の2車種があり、車種に合わせた改修を実施した。

TASC装置は両先頭車間に追加の伝送線が必要なため、改修試作車は引通し線に余裕があり、大規模な改修を要さない3次車を選定した。

本改修を進めるにあたり、次のような課題が発生した。

(1)TASCパターンへの追従性を高める制御装置調整

TASCの基本ソフト作成のため、路線データ、減速度データを基にTASCパターンを作成し、繰返し夜間試運転を実施した。当初は、直線的なTASCパターンに列車速度が追従できずにブレーキ出力が不安定となり、手前停止も散見された。この原因を調査したところ、夜間試運転は試験列車の単独走行のため、発生した回生電力が消費されず、減速中の架線電圧はDC1600Vを超えていた。そのため、VVVF装置の軽負荷回生制御が働き、空制の負担率が増加し高い減速度であることが判明した。この現象を確認するため、減速度試験を実施したところ、電空協調制御と空制との間に約10%の乖離が生じていることを発見した。空制に切替わるタイミングで減速度が高くなった結果、車両速度がTASCパターンを下回り、これを補正するためブレーキを緩める動作をしていることが確認された。また、同様の原因で、低速域において回生から空制に切替わる際に減速度が高くなることにより、手前停止が発生していた。これらの原因を更に調査したところ、変電所の回生インバータ動作電圧がDC1630Vで、VVVF装置と協調が取れておらず、設備の機能を有効活用できていないことが判明した。この対策として、軽負荷回生制御電圧をDC1680Vへ引上げるVVVF装置のソフト改修を行った。この改修の結果、TASCパターンへの追従性が向上し、定位置停止精度の性能目標である±500㎜を上回る±100㎜以内という高い停止精度を達成することができた。また、このソフト改修による副次的な効果として、回生率を30%後半から40%前半に引上げられ、省エネ効果も得られた。

(2)共通ソフトを活用できる車両性能の評価、調整

このように3次車の試作車で作り上げたソフトウェアをシステム構成が異なる1・2次車へ展開していく過程において、車両性能の相違を把握するためブレーキ基礎データを採取した。その結果、1・2次車の減速度は3次車に比べ10〜16%高く、手前停止の原因となる恐れがあることを発見した。このため、制御部基板の減速度設定スイッチにてブレーキ出力をこれまで以上に厳格に調整し、3次車と同等の停止精度に収めることができた。

こうしてTASC装置の基本ソフトを加修することなく、車種によらず互換をもたせることに成功し、コスト縮減に貢献することができた。また、TASC運転時にはブレーキ力の調整をこれまで以上に厳格に行わなければならないという、保守区として新たな知見を得ることができた。

② 上記方策に対して、現時点で改善すべき点

ごく稀に、タス運転時における停止精度異常、乗り心地の悪化が見られることがある。

更なるTASC装置の改善のため、継続して走行データの収集、分析を行い、TASCのソフトウェアの改良や車両性能の調整方法の確立を図っていく必要がある。

鉄道設計技士試験模範答案 鉄道車両 業績論文4「車上塗油装置」

1. 概要、実施時期および自身の役割

 〇〇電鉄の路線は、曲線箇所が多く、以前から車輪フランジの摩耗や曲線部での車輪キシリ音に悩まされてきた。これに対し、従来から最後尾台車部分へ取り付けた車輪フランジ塗油器によって対処してきた。

従来の方法では、一定の速度範囲(30〜60km/h)の場合に両フランジへ塗油する方法である。この方法を改善することでフランジ摩耗を抑制し、キシリ音も低減すべく必要な箇所で確実に塗油することを目的として、新規のフランジ塗油方式(以下、開発方式)を設計し、その実施結果・効果を確認した。

 200〇〇年4月からの1年間、私はこの開発方式の新規設計、試験計画・実施・評価の責任者として対応し、従来よりも効果的で経済的な方式を開発した。

2.技術上の課題とそれを解決するために、自身がとった方策とその理由

 新規の開発方式の考え方としては、曲線部(R500m以下の曲線)のみ、速度30〜60km/hの条件において塗油することとした。

この仕組みを作るには、列車自体が走行している位置を認識する列車番号設定器(始発駅で乗務員が列車番号を入力し、以後、車輪の回転数により現在のキロ程、ドアの開閉数により列車自身の位置情報を管理する装置)から、情報を受けるとともに、列車自身のデータとして曲線のキロ程を保有していれば、塗油のタイミングを設定することが可能である。このような仕組を構築するためには、列車番号設定器からキロ程情報と速度情報を貰い、塗油器の制御装置自身の中に持たせている塗油すべき曲線のデータ(右カーブ、左カーブ、曲線開始・終了のキロ程)とを突合せて、半径500m以下の曲線で、更に速度が30〜60km/hの範囲の場合に限って塗油することとした。また、加減速の激しい駅前後においては塗油禁止区間として設定した。

 当初、塗油量の使用量は従来方式と開発方式を比較すると1割程度の減少であったが、フランジ摩耗が進むのは外軌の車輪のみであることに気が付き、途中で各曲線の外軌側のみの塗布にソフトを変更している。また、雨天時において塗油することは、後続の列車に空転・滑走の頻度を増長してしまう。特に降り始めの際、乗務員が塗油装置の機能をOFFすることの失念により空転、滑走による遅延が多発したことから、電気式ワイパーを動作させた際は塗油を中止する機能を持たせた。

 この結果、従来の方式でのデータと比較すると、フランジ摩耗は100万キロ走行当たり0.07mmから0.05mmへと3割程度減少した。また、塗油禁止区間として常に加速・減速の発生する駅前後も含めることにした効果もあり、空転・滑走の発生頻度はVVVFのモニタリングや滑走防止弁の動作回数を確認したところ約5割程度減少した。また、塗油に必要な油量は、1編成当たり1か月44リットルから26.2リットルと約4割程度削減できた。

 現在までに、該当編成3編成のすべての改善が完了し、キシリ音も少なくなり、フランジ摩耗についても良好な状態が継続している。

3.私がとった方策に対して、現時点で改善すべき点

 駅構内において空転・滑走を減少されるために塗油制限を実施したが、この結果、キシリ音が少なくなったがゼロにはなっていない。この対策として塗油の効果は減らさず、塗油量のみを減らす方法として空気混入噴霧式の検討をしていきたい。

 更に、この塗油器を改良することに、フランジに対してでは無く、レール表面へ摩擦調整剤を塗布することでレールの波状摩耗が削減できることが推測されるため、ライフサイクルコストの削減に繋げていきたい。

鉄道設計技士試験模範答案 鉄道車両 H29 3-4「メンテナンス」

問題 3-4

メンテナンスに、事後保全、時間計画保全、状態監視保全があるが、それぞれについて、その内容と車両を設計する上で考慮すべき点を具体的に述べなさい。

模範解答 答案形式

1、   メンテナンスについての内容

①事後保全の内容

バスタブ曲線の初期故障の発生後、その件数が増加する前に交換などを行う手法で、保守周期をつかむことが難しいVVVF装置やSIV装置等の電子機器などの故障に行われることが多い。故障の発生後に対応するので、安全上のリスクが少ない装置や機器に対して行うことが必要である。

②時間計画保全の内容

バスタブ曲線の劣化故障の発生前に予防保全として行う手法で、安全上のリスクが高い台車やブレーキ装置等のゴム製品についてとられることが多い。保全周期が長期にわたることが多いため、パソコンのデータベース等を利用して管理する場合が多い。

③状態監視保全

バスタブ曲線の安定期に装置や部品の状態を監視することで、主に磨耗品の余寿命を様々な方法で監視し、コスト低減につなげる手法で、映像でパンタグラフのすり板の磨耗量を監視し、交換限度の近いところの交換や、音や振動で、車輪の状態を監視し、踏面の削正計画を立てるなどを行う場合がある。

2、   車両を設計する上で考慮すべき点

①装置や機器の冗長化による安全上のリスク低減

安全上リスクの高い機器や装置を冗長化し、保安度を向上させる。事後保全の対象となることの多いVVVF装置やSIV装置を2重系化する事で1系統が故障しても他系統で機能し運転を継続させる等の仕組みを導入することが必要である。

②使用部材の長寿命化

使用部材の余寿命を寿命調査や劣化診断等の結果により、長寿命の部材を仕様選定する。時間計画保全は部材の周期が安定していることが必要であるとともに、長期にわたり使用に耐えうるものを選定する必要がある。

③IOT技術によるモニタリング

モニタリングデータをIOT技術により、リアルタイムに管理する。車両情報装置や観測機器に個別に蓄積された状態監視のデータをネットワークを介して、高速通信によりリアルタイムに把握する。データベースはビッグデータとなるため、管理するツールや大容量のサーバーなどが必要である。

鉄道設計技士試験模範答案 鉄道車両 H28 3-1「塗油」

問題 3-1

 車輪・レール間に塗油する場合がある。この塗油に期待されている効果、塗油によって発生する問題点、これらを考慮した塗油方法について具体的に述べなさい

模範解答 簡易答案

1.車輪・レール間に塗油する場合の期待される効果

 曲線区間において、車輪・レール間に塗油することにより以下の効果が期待される。

(1)     外側レールの肩部と車輪フランジの磨耗抑制

外側レール(外軌)の肩部(レールゲージコーナー)と車輪フランジ間に塗油することで、車輪・レール間の接触点の摩擦係数を低減して、摩擦力を減らすことによりそれぞれの磨耗を抑制する。

(2)     内側レールのレール頭頂面の「レール波状磨耗」の抑制

半径の小さい曲線の内側レール(内軌)のレール頭頂面と車輪踏面に塗油することで、車輪・レール間を潤滑させ、横圧を減らすことにより、レール頭頂面の波状磨耗を抑制する。

(3)     騒音の低減

車輪・レール間の接触点に塗油することで摩擦によるフランジ音やキシリ音を低減する。

2.車輪・レール間の塗油によって発生する問題点

(1)   車輪滑走やシェリングの誘発

塗油による摩擦係数の極端な低下で車輪滑走、レール頭頂面のシェリング(転がり接触疲労)の発生リスクが高い。

(2)   加速区間での車輪空転の誘発

レール頭頂面や側面に残った油粕が車輪踏面に付着し、長距離に渡り引き伸ばされ、加速区間で車輪空転の発生リスクが高い。

(3)   雨天時による車輪滑走や車輪空転の誘発

雨水によりレール頭頂面や側面が湿潤している上に塗油を行うことで過潤滑となり車輪滑走や車輪空転の発生リスクが高い。

3.車輪・レール間の塗油に期待される効果と発生する問題点を考慮した具体的な塗油方法

(1)   固形摩擦調整剤による摩擦係数を管理する手法

固形摩擦調整剤を車輪フランジに押し当てることで、摩擦係数を管理する。

(2)   レールを清掃する手法

車両の通過後に一定の周期で踏面清掃装置を動作させる。

(3)   晴天時のみ塗油を実施する手法

雨水による潤滑が期待できるため、雨量センサーやワイパー使用などで降雨を判断し、雨天時は塗油しない。

模範解答 答案形式

1.車輪・レール間に塗油する場合の期待される効果

(1)外側レールの肩部と車輪フランジの磨耗抑制

車輪・外側レール(外軌)間の接触点塗油することで、摩擦係数を低減して、摩擦力を減らすことによりそれぞれの磨耗を抑制する。

曲線レールでは、外軌に遠心力による横圧で、外軌の車輪フランジの接触部である肩部(レールゲージコーナー)と車輪フランジに大きな摩擦力が生じるからである。

(2)内側レール頭頂面の「レール波状磨耗」の抑制

内側レール(内軌)頭頂面と車輪踏面に塗油することで、車輪・レール間を潤滑させ、横圧を減らすことにより、レール頭頂面の波状磨耗を抑制する。

半径の小さい曲線では、内軌にアタック角に起因する横圧と輪重変動で連成された摩擦振動で「レール波状磨耗」が形成されるからである。

(3)騒音の低減

車輪・レール間の接触点に塗油することで摩擦によるフランジ音やキシリ音を低減する。

列車が曲線を通過するとき車輪に働く横方向の摩擦力で車輪が大きく振動し音を発生するからである。

2.車輪・レール間の塗油によって発生する問題点 

(1)車輪滑走やシェリングの誘発

塗油による摩擦係数の極端な低下で車輪滑走、レール頭頂面のシェリング(転がり接触疲労)の発生リスクが高い。

(2)加速区間での車輪空転の誘発

レール頭頂面や側面に残った油粕が車輪踏面に付着し、長距離に渡り引き伸ばされ、加速区間で車輪空転の発生リスクが高い。

(3)雨天時による車輪滑走や車輪空転の誘発

雨水によりレール頭頂面や側面が湿潤している上に塗油を行うことで過潤滑となり車輪滑走や車輪空転の発生リスクが高い。

3.塗油による効果と問題点を考慮した具体的な塗油方法

(1)固形摩擦調整剤による摩擦係数を管理する手法

潤滑剤は、摩擦係数をできるだけ小さく、一定に保つように調整された固形摩擦調整剤を使用する。それにより摩擦係数を管理する。装置の構造は

① 固形摩擦調整剤は、台車に設置した潤滑剤ホルダーに収める。

② 潤滑剤ホルダーに内蔵のバネで固形潤滑剤を車輪に押し当てる。

③ 曲線に応じて、潤滑剤ホルダーを外側レールは車輪フランジ用、内側レールは車輪踏面用に切り換える。

(2)レールを清掃する手法

車両の通過後に一定の周期で踏面清掃装置を動作させることで油粕を除去する。装置の構造は、

① 地上用塗油装置と車輪検知センサー、踏面清掃装置で構成される。

② 車輪検知センサーにより塗油開始、終了、清掃開始、終了のタイミングを制御する。

③ 踏面清掃装置は、温水器と圧縮空気溜、噴射ノズルから構成し、高圧温水をレールに噴射する

(3)晴天時のみ塗油を実施する手法

雨水による潤滑が期待できるため、雨量センサーやワイパー使用などで降雨を判断し、雨天時は塗油しない。装置の構造は、

① 地上塗油装置は雨量センサーと連動し塗油を制御する。

② 車上からの噴射式塗油装置はワイパー使用時に塗油しないよう制御する。

鉄道設計技士試験模範答案 鉄道車両 H28 3-4「急こう配対応車両」

問題 3-4

ある鉄道事業者で、これまで平坦線区で運用されていた3両編成(1M2T)のVVVFインバータ電車について、25[‰]の急こう配が連続する区間を含む線区への転用を検討することとなった。この時、力行性能において考慮すべき事項を3つ挙げ、その理由、検討方法及び対応策を述べなさい。なお、現状電車の主回路は2台のVVVFインバータ装置で各2台の主電動機を制御する方式とする。

模範解答 簡易答案形式1

1.行性能において考慮すべき事項

1) 25‰の勾配線区では列車抵抗として、勾配抵抗が加わること。

2) MT比が1:2と動力が集中すること。

3) 勾配では駆動輪の軸重の変化が大きくなること。

2.考慮すべき理由

1)25‰の勾配抵抗は、平坦線区の出発抵抗の20倍以上となり発車できないから。

2)動力が集中することで、駆動輪当りの期待粘着係数が低くなり、その結果、引張力が低下するため。

3)勾配と駆動輪の回転力による軸重移動で、駆動軸の粘着係数が低くなり、空転するから。

3.検討方法

1)登坂時の加速度が0.3㎞/h/s下回らないように設計する。

2)MT比をM車の比率が1を上回るように主電動機を配置する。

3)勾配による軸重移動率を、動輪の1台車当りの軸重移動量と各台車内の軸重移動量から計算し、各軸の粘着係数が20%以上となるよう設計する。

4.対応策

1)永久磁石同期電動機を採用することで、主電動機を大型化せず、25‰の起動加速度が1.1㎞/h/s以上となるように、主電動機の引張力を大きくする。

2)2台の主電動機をT車に配置し、2M1Tとすることで、MT比を1以上とする。

3)軸重移動補償制御とベクトル制御により各軸の粘着係数が22%まで制御する。

模範解答 簡易答案形式2

1.力行性能において考慮すべき事項

(1)     こう配起動時に、列車抵抗が増加するから後退すること。

こう配区間で起動する場合、列車抵抗として、出発抵抗に勾配抵抗が加わること

(2)     3両編成(1M2T)を転用するから、動力が分散されていない。

3両編成(1M2T)のMT比が1:2と動力が集中していること。

(3)     駆動輪の軸重が変化し、軸重不足となること。

こう配起動時は駆動輪の軸重の変化が大きくなること。

2. 考慮すべき理由

(1)     25‰のこう配抵抗

25‰のこう配抵抗は、平坦線区の出発抵抗の20倍以上となり平坦線区の引張力に比べ、大きな引張力が無いと発車できないから。

(2)     動力集中による引張力の低下

動力が集中することで、駆動輪当りの期待粘着係数が低くなり、その結果、引張力が低下するから。

(3)     輪重移動による空転の発生

こう配と駆動輪の回転力による軸重移動で、軸重不足となった駆動軸の粘着係数が低くなり、空転するから。

3.検討方法

(1)   こう配起動性能を持つ主電動機の設計

登坂時の加速度0.3㎞/h/sと、こう配の重力加速度を加えた値を得られる引張力性能の主電動機を設計する。

(2)   主電動機の配置設計

MT比が1:1以上になるように主電動機配置し、動力を分散する。

(3)   軸重移動率による平均粘着係数の設計

勾配による軸重移動率により、駆動軸当りの引張力を補正することで、軸重が変化しても平均粘着係数が20%以上となるように設計する。

4.対応策

(1)     永久磁石同期電動機による引張力の増加

永久磁石同期電動機を採用することで、25‰の起動加速度1.1㎞/h/s以上の引張力性能が得られる。

(2)     T車への主電動機配置によるMT比の増加

2台の主電動機をT車に配置し、2M1Tとすることで、MT比を1:1以上とする。

(3)     輪重移動補償制御とベクトル制御による空転抑制

軸重移動補償制御とベクトル制御により平均粘着係数が20%以上まで制御する。

お問合せ・ご相談はこちら

受付時間
9:00~18:00
定休日
不定期

ご不明点などございましたら、
お問合せフォームかもしくはメールよりお気軽にご相談ください。

お電話でのお問合せはこちら

03-6661-2356

マンツーマン個別指導で驚異的合格率!
技術士二次試験対策ならお任せ!
面談、電話、音声ガイド・コーチングで100%納得
添削回数は無制限、夜間・休日も相談可能

お電話でのお問合せ

03-6661-2356

<受付時間>
10:00~17:00

  • 試験対策講座のご案内

株式会社
技術士合格への道研究所

住所

〒103-0008
東京都中央区日本橋中洲2-3 サンヴェール日本橋水天宮605

営業時間

10:00~17:00

定休日

不定期