H28年 建設部門・鉄道 Ⅲ-2問題 模範解答と解説 (鉄道営業線近接工事による輸送障害対策)
問題文
Ⅲ-2鉄道の安全安定輸送に対する社会的要求が高まる状況を踏まえ、鉄道営業線に近接した工事や保守作業に伴う事故や輸送障害を防止する対策について、以下の問に答えよ。
(1)鉄道営業線に近接した工事や保守作業において、事故や輸送障害が発生する要因を多面的に述べよ。
(2)上記(1)で述べた要因から、あなたが重要と考えるものを2つ挙げ、それぞれについて理由を述べよ。また、あなたが重要と考えた要因に起因する事故や輸送障害を防止するために具体的な対策をそれぞれ述べよ。
(3)上記(2)で述べ対策を実施するにあたり、考慮すべき留意点をそれぞれ述べよ。
(1)事故や輸送障害が発生する原因
①掘削による路盤の不安定化による軌道変位
掘削工事を行う場合に土圧が変化して路盤が沈下または隆起し、軌道狂いが発生して列車の走行安全性を失う。
②仮設物等の変形や転倒による建築限界支障
仮設物が強風や作業時の想定外の荷重作用により変形または転倒し、建築限界に支障する。
③資材の電車線等への接近による感電地絡や信号停止
作業員が長尺物を取り扱った際に電車線に接近して感電地絡し、停電に至る場合や、仮設物等が短絡を招き信号故障による列車走行を妨げる。
(2)事故や輸送障害の防止
①―1掘削による路盤不安定化
理由:列車の走行安全性に直接影響し、復旧に時間を要するため列車抑止が長時間に及ぶ可能性が大きく、多くの旅客の移動を妨げるため。
対策:仮土留め設置
開放掘削の場合は鋼矢板等による土留めとし、掘削範囲を完全に締め切り、土圧が解放されることがない状態で掘削作業を行う。場所打ち杭の場合は一定の粘性を確保した安定液による孔壁保護を行う。またはケーシングを使用するなど土圧変化を抑制する。
②―1仮設物等の建築限界支障
理由:車両へ接触又は衝撃を与え、旅客が負傷する恐れがあり、最悪の場合は脱線も考えられるため。
対策1:仮設物の転倒防止
仮設物は必要に応じて設置面に敷鉄板や地盤改良を行い、安定した地盤上に仮設する。また強固で安定した物体と一定数以上の壁つなぎを設けて固定する。
強風注意報発令時は仮設物等に作用する風荷重を軽減させるために養生シート一時撤去など仮設物の一部撤去を行う。
対策2:仮設物の変形防止
仮設物等への積載重量を制限する。資材の最大積載重量に十分耐力のある仮設物の設計を行い、仮設物に最大積載重量を掲示するなど作業員に周知する。
(3)対策を実施するにあたっての留意点
①―2掘削による路盤不安定化対策の留意点
ア,施工方法
土留施工は道床横抵抗力確保のため、枕木端から500㎜以上離れた位置に設置する。土留め工の設計は原則として弾塑性法による設計を基本とし、施工は変位発生時に復旧時間を確保しやすい夜間の作業時時間帯に作業する。また変状予知ができるように段階的に施工する。
イ,安定液の水位
安定液は孔壁に作用する主働土圧に十分抵抗するため周辺地盤より2m高い水頭を確保する。
ウ,変位観測
軌道へ変位計を取り付けた上で、仮土留めへも傾斜計や沈下計を取り付けて軌道への影響有無を早期に検知できるよう常時監視する。
②―2仮設物等の建築限界支障対策の留意点
ア,列車風圧や列車振動対策
仮設物の組立て・撤去時は仮設物や作業員の体勢が不安定になりやすいので列車見張員を配置して列車通過時は作業中断する間合い作業とすることや夜間の作業時間帯に行う。また、列車風圧や振動を連続的に受けることから緩みにくい楔式足場等を使用する。
イ,強風対策
仮設組立・撤去が複数日に跨る場合は支持・固定状態が中途半端となり弱点とならぬように考慮して作業を終えるように計画する。
必要に応じて局所的気象予測を活用し、強風予測があった際は足場板や養生シートを迅速に撤去できるように脱着式の足場板やカーテン式の養生シート設置など仮設構造を工夫しておく。
ウ,地盤安定化 地盤改良の際は空練りモルタル等を表土と混合させることでソイルセメンント化により経済的に置換する。