H29年 建設・施工 Ⅱ−2−2 問題 模範解答と解説
問題文
Ⅱ−2−2 寒冷地の海岸部にある建設後50年を経た幹線道路の鉄筋コンクリートT桁橋において、複数の原因によるコンクリート部材の損傷が確認され、補修・補強が必要と判断された。
(1) これらの条件から想定される損傷状況を挙げ、その原因と損傷に至るまでの過程を説明せよ。
(1)で想定した損傷に対する補修・補強工法を2つ選定し、選定理由と施工上の留意点を述べよ
模範解答1 (答案形式) 添削履歴 1回 専門とする事項 施工計画・施工管理
経年劣化した鉄筋コンクリート構造物の維持管理
1.想定される損傷状況と原因および損傷に至る過程
1)鉄筋腐食とひび割れ(塩害)
①損傷原因
寒冷地の海岸部に位置する幹線道路橋であることから、50年にわたり海水飛沫や凍結防止剤の散布に曝されてきたと考えられる。水分と共に塩化物イオンがT桁内に侵入し易い環境下にある。鉄筋位置での塩化物イオン濃度は、鉄筋発錆限界(1.2㎏/)を超え、塩害による鉄筋腐食が発生している。
②損傷過程
鉄筋腐食膨張によるひび割れが発生している。さらに二酸化炭素や水が浸入する環境で中性化が進み、ひび割れが急速に進行している。
2)コンクリート表面の剥離・剥落(凍害)
①損傷原因
寒冷地の海岸部のため、氷点下5℃以下になりコンクリート表面の細孔内の水が凝結・融解を繰り返し、凍害によるスケーリングが発生している。
②損傷過程
スケーリングによる剥離・剥落がかぶり厚付近まで進行し、コンクリート表面組織が脆弱化している。軽微な鉄筋腐食も発生している。
2.想定した損傷に対する補修・補強工法の選定理由と施工上の留意点
1)除塩と断面修復
1)-1選定理由
鉄筋が腐食した状態であれば、腐食鉄筋のかぶりコンクリートの除去と鉄筋発錆限界を超えた部位の除塩が不可欠である。
1)-2施工上の留意点
①再劣化防止のためにかぶりよりも深い位置まで塩化物イオンの分布を把握し、健全部は極力残して除去する。除去した状態の構造耐力維持についても検討する。
②鋼材の腐食による力学的性能の低下が懸念される。構造物の耐力・剛性を回復するための鋼材の増設や交換を含んだ断面修復工法を適用する。
②除去した部分は付着性の良い材料で修復を行う。
2)表面被覆
2)-1選定理由
スケーリングにより脆弱化したコンクリート表面の被覆処理を実施する。これにより塩化物イオンや水の浸入を抑制し、劣化を防止する
2)-2施工上の留意点
①表面被覆を行う前に、塩害によるコンクリート内部の鉄筋損傷具合を調査し、腐食の進行に応じて1)の処置を実施する。
②床版や排水溝など、施工範囲外からの水の浸入経路等を入念に調査し止水・排水処理の上、表面被覆を実施する。
模範解答2 (簡易答案形式1) 添削履歴 3回 専門とする事項 施工計画・施工管理
1−1.想定される損傷状況
①剥離、剥落、鉄筋露出(床版、地覆、桁、橋脚)②スケーリング、ポップアウト(床版、高欄、地覆)③格子状のひび割れ、抜け落ち(床版)
1−2.原因
①塩害(鉄筋が塩化物イオンにより腐食・膨張しコンクリートが剥離)
②凍害(コンクリート中の水分が凍結し体積膨張により破壊される)
③疲労破壊(幹線道路のため交通量が多く50年間の繰り返し荷重による)
1−3.過程
①飛来塩分や凍結防止剤が床版や桁、橋脚側面等に供給され鉄筋が腐食する。
②積雪や水はね等により水分供給され凍結融解の繰り返しにより表面が剥離する
③床版下面に乾燥収縮による橋軸直角方向のひび割れが発生し、繰り返し荷重により格子状ひび割れへと進展し、上面に貫通し抜け落ちる
2−1−1.増厚工法の選定理由
古い設計で鉄筋量が不足しているため床版を補強しひび割れを抑制する
2−1−2.施工上の留意点(PCM:ポリマーセメントモルタル)
既設床版とPCMとの一体化を図るためケレン(脆弱部除去)や樹脂注入等を行う
2−2−1.表面被覆工法の選定理由
塩分、水分を遮断するため増厚工法に追加しコンクリート表面の被覆を行う
2−2−2.施工上の留意点
湿潤時や低温時に施工すると付着強度が低下するため気象条件を確認する
模範解答2 (簡易答案形式2) 添削履歴 4回 専門とする事項 施工計画・施工管理
(1)-1 想定される損傷状況
①塩害によって床版、桁、橋脚等のコンクリートが剥離、剥落し、鉄筋が露出する。
②凍害によって床版、高欄、地覆等にスケーリングやポップアウトが発生する。
③疲労破壊によって床版に格子状のひび割れが発生し、抜け落ちる。
(1)-2 原因
①鉄筋が塩化物イオンにより腐食・膨張しコンクリートが剥離する。
②コンクリート中の水分が凍結し体積膨張により破壊される。
③50年間の幹線道路の輪荷重を繰り返し受けたことにより床版にひび割れ等の損傷が発生する。
(1)-3 課程
①飛来塩分や凍結防止剤が床版や桁、橋脚側面等に供給され鉄筋が腐食する。
②積雪や水はね等により水分供給され、凍結融解の繰り返しにより表面が剥離する。
③床版下面に乾燥収縮による橋軸直角方向のひび割れが発生し、繰り返し荷重により格子状ひび割れへと進展し、上面に貫通し抜け落ちる。
(2) (1)で想定した損傷に対する補修・補強工法として増厚工法および表面被覆工法を挙げる。
(2)-1 増厚工法の選定理由
①鉄筋量が不足している床版を補強しひび割れを抑制する。
②コンクリート中の塩化物イオンや凍害によって脆弱化した部分を除去する。
(2)-2 増厚工法の施工上の留意点
下面増厚工法は交通規制が不要であるが、交通振動により剥離する恐れがあるため、樹脂注入により既設床版と一体化させる。
(2)-1 表面被覆工法の選定理由
寒冷地・海岸部であることより、塩分、水分を遮断するためコンクリート表面の被覆を行う。
(2)-2 表面被覆工法の施工上の留意点
①湿潤時や低温時には付着強度が低下するため湿度85%未満、温度5〜40℃で施工する。
②ひび割れが顕著な場合は柔軟性がありひび割れ追従性に優れた有機系を、浮き・剥離や湿潤している場合は下地と同質の素材で断面修復し透湿性が必要であるため無機系を選定する。
模範解答2 (答案形式) 添削履歴 1回 専門とする事項 施工計画・施工管理
(1)−1 想定される損傷状況
①塩害によって床版、桁、橋脚等のコンクリートが剥離、剥落し鉄筋が露出する。
②凍害によって床版、高欄、地覆等にスケーリングやポップアウトが発生する。
③疲労破壊によって床版に格子状のひび割れが発生し抜け落ちる。
(1)−2 損傷の原因
①塩化物イオンにより鉄筋の不導体被膜が破壊され腐食・膨張しコンクリートが剥離する。
②コンクリート中の水分が凍結し体積膨張により破壊される。
③50年間の幹線道路の輪荷重を繰り返し受けたことにより床版にひび割れ等の損傷が発生する。
(1)−3 損傷に至るまでの過程
①飛来塩分や凍結防止剤が床版や桁、橋脚側面等に供給され鉄筋が腐食する。
②積雪や水はね等により水分供給され、凍結融解の繰り返しにより表面が剥離する。
③床版下面に乾燥収縮による橋軸直角方向のひび割れが発生し、繰り返し荷重により格子状ひび割れへと進展し、上面に貫通し抜け落ちる。
(2)(1)で想定した損傷に対する補修・補強工法として表面被覆工法および増厚工法を挙げる。
(2)−1−1 表面被覆工法の選定理由
寒冷地・海岸部であるため、コンクリート表面の被覆を行い塩分、水分を遮断する。
(2)−1−2 表面被覆工法の施工上の留意点
①湿潤時や低温時には付着強度が低下するため湿度85%未満、温度5〜40℃で施工する。
②ひび割れが顕著な場合は柔軟性がありひび割れ追従性に優れた有機系を、浮き・剥離や湿潤している場合は下地と同質の素材で断面修復し透湿性が必要であるため無機系を選定する。
(2)−2−1 増厚工法の選定理由
①鉄筋量が不足している床版を補強しひび割れを抑制する。
②コンクリート中の塩化物イオンや凍害によって脆弱化した部分を除去する。
(2)−2−2 増厚工法の施工上の留意点
下面増厚工法は交通規制が不要であるが、交通振動により剥離する恐れがあるため、樹脂注入により既設床版と一体化させる。
模範解答3 (簡易答案形式1) 添削履歴 4回 専門とする事項 施工計画・施工管理
(1) 損傷状況:ひび割れ、錆汁、スケーリング、及び部分的なはく離・剥落
①塩害:コンクリート中の塩化物イオンの作用により構造物を性能低下させる。
過程:コンクリート中の塩化物イオン供給が促進されると鉄筋は腐食し易くなり、その腐食生成物の体積膨張によりコンクリートや鉄筋の損傷に至る。
②凍害:コンクリート中の水分の凍結膨張により構造物を性能低下させる。
過程:凍結融解の繰り返しによりコンクリート組織が破壊され、表面から劣化が進行し、微細ひび割れ、スケーリングから崩壊へと損傷も大きくなる。
③中性化:大気中の二酸化炭素の作用によりコンクリートの塩基性低下する現象。
過程:中性化の進行によりコンクリートが炭酸化し、鉄筋が腐食し易くなり、鉄筋腐食生成物の体積膨張によりコンクリートや鉄筋の損傷に至る。
(2)補修・補強工法
1)再アルカリ化工法
①選定理由:非破壊(電気化学的手法)により、中性化したコンクリートの再アルカリ化及び鉄筋の不働態化を図れるため。
②施工上の留意点:施工後の再中性化防止のため、表面被覆工法と合わせて実施を検討する。
2)表面被覆工法
①選定理由:コンクリート表面から内部への、二酸化炭素(中性化)、塩化物イオン(塩害)、水(凍害)、酸素(鉄筋腐食)などの腐食性物質の浸入抑制を図れるため。
②施工上の留意点:ひび割れ、スケーリング、はく離、鉄筋腐食等の劣化箇所の補修工法と組み合わせて行う必要がある。
模範解答3 (簡易答案形式1) 添削履歴 1回 専門とする事項 施工計画・施工管理
(1) 損傷状況
ひび割れ、錆汁、スケーリング、及び部分的なはく離・剥落等のコンクリート部材の損傷が想定される。①塩害
<原因>コンクリート中の塩化物イオンの作用により鉄筋が腐食し、コンクリート構造物の性能を低下させる。
<過程>海水飛沫や飛来塩化物、凍結防止剤等によりコンクリート中の塩化物イオン供給が促進されると鉄筋は不動態被膜が部分的に破壊され腐食し易くなる。その腐食生成物の体積膨張によりコンクリートや鉄筋の損傷に至る。
②凍害
<原因>コンクリート中に含まれる水分の凍結膨張によりコンクリート組織が破壊され、コンクリート構造物の性能を低下させる。
<過程>凍結融解の繰り返しによりコンクリート表面から凍結膨張による劣化が進行し、更に表面からの水分供給が促進されることにより微細ひび割れ、スケーリングから崩壊へと徐々に大きな損傷に至る。
③中性化
<原因>大気中の二酸化炭素の作用によりコンクリートの塩基性を低下させる現象。
<過程>中性化の進行によりコンクリートが炭酸化し、鉄筋が腐食し易くなる。鉄筋腐食生成物の体積膨張によりコンクリートや鉄筋の損傷に至りコンクリート構造物の性能を低下させる。
(2)補修・補強工法
1)再アルカリ化工法
①選定理由
非破壊工法(電気化学的手法)により、中性化したコンクリートの再アルカリ化及び鉄筋の不働態化を図ることができるため。
②施工上の留意点
施工後に再び二酸化炭素が侵入して再中性化することを防止するため、表面被覆工法等の対応策と併せて実施することを検討する必要がある。
2)表面被覆工法
①選定理由
コンクリート表面から内部への、二酸化炭素(中性化)、塩化物イオン(塩害)、水(凍害)、酸素(鉄筋腐食)等の腐食性物質の浸入抑制しコンクリートや鉄筋を損傷に至らせる劣化環境の防止を図ることができるため。
②施工上の留意点
ひび割れ、スケーリング、はく離、鉄筋腐食等の劣化が進行している箇所の補修・補強工法による対応策と併せて実施することを検討する必要がある。