H29年 化学・セラミック無機 Ⅲ−1 問題 模範解答と解説
問題文 Ⅲ-1
グローバリゼーションの進む現代では、セラミックス及び無機化学産業においても国際的な競争力をより一層高める必要がある。このような状況を踏まえ、必要に応じて技術分野を具体的に想定し、競争力を高めるために検討すべき課題について多面的に述べよ。
挙げた課題のうち、あなたが最も重要と考える技術的課題について、その課題を克服するにはどのような取り組みが有効か、あなたの提案を具体的に示せ。あなたの提案がもたらす効果を具体的に示すとともに、生じ得るリスクについても述べよ。
模範解答1 (簡易答案形式1) 添削履歴 6回 完成日2018/4/28 専門事項 化学品製造
1. 想定する分野と競争力強化のための課題
1)技術分野の特定
バイオセラミックス(セラミックス人工骨)
2)課題
①製品の耐久性向上:耐久性向上によって金属人工骨を代替し、セラミックス人工骨市場を拡大する
②知的財産権の確保:特許の取得あるいは技術の秘匿による知的財産権の確保。(医療機器には後発品制度がないため、日本からの新規参入企業や中小企業が開発した新素材や新機能がコピーされ、シェアを奪われてしまう。)
③迅速な製品開発:オープンイノベーション拠点を活用した、産学医連携による迅速な製品化。(日本の参入企業は、素材の開発技術、加工技術に優れているが、医療機器の法的知識や製品化ノウハウがなく、製品化が遅れがちである。)
2.最も重要な技術的課題と解決のための提案
1)最も重要な技術的課題
①高強度高靱性材料の開発:製品の機械的強度の向上と生体適合性の両立するための材料開発を行う。
2)解決策
①高強度高靱性を持つリン酸カルシウム焼結体の開発
⇒生体と適合性の高いリン酸カルシウム(骨の主成分)を焼結させて、高強度高靱性との両立を図る。
3.効果とリスク
1)効果
・骨皮質と同等以上の強度確保により、人工骨使用者の負担軽減(定期メンテナンス頻度が削減)が可能。
・従来のセラミックス人工骨(複合化水酸アパタイトなど)と比較して低コストで製造が可能。
2)リスク
・副作用発生のリスク。生体適合性の高い材料であっても、アレルギー等の副作用が発生する可能性がある。
模範解答1 (簡易答案形式2) 添削履歴 2回 完成日2018/2/23 専門事項 化学品製造
(1)想定する分野と競争力強化のための課題
①技術分野の特定
バイオセラミックス(セラミックス人工骨)事業の海外展開を検討する。
②課題
a)製品の耐久性向上
セラミックス人工骨の耐久性向上によって金属人工骨を代替し、市場を拡大させる必要がある。
b)知的財産権の確保
特許の取得あるいは技術の秘匿による知的財産権の確保が必要である。なぜなら、医療機器には後発品制度がないため、日本からの新規参入企業や中小企業が開発した新素材や新機能がコピーされ、シェアを奪われてしまうからである。
c)迅速な製品開発
オープンイノベーション拠点を活用した、産学医連携による迅速な製品化をすべきである。なぜなら、日本の参入企業は素材の開発技術、加工技術に優れているが、医療機器の法的知識や製品化ノウハウがなく、製品化が遅れがちだからである。
(2)最も重要な技術的課題と解決のための提案
①最も重要な技術的課題:a)製品の耐久性向上
高強度高靱性バイオセラミックス材料が必要である。このため、製品の機械的強度の向上と生体適合性が両立できる材料の開発を行う。
②解決策
バイオセラミックスとして従来から使用されるハイドロキシアパタイトは、生体適合性に優れるものの、強度が弱かった。そこで、以下のバイオセラミックス材料を提案する。生体適合性を確保するため、骨の主成分であり強度の高いリン酸カルシウムを用いた焼結体を利用する。リン酸カルシウム焼結体を用いた人工骨を開発することで、生体適合性と高強度高靱性が確保できる。
(3)効果とリスク
①効果
a)骨皮質と同等以上の強度を確保することにより、人工骨使用者の負担軽減(定期メンテナンス頻度が削減)が可能である。
b)従来のセラミックス人工骨材料(水熱ホットプレスによるハイドロキシアパタイトなど)と比較すると、高価な設備(ホットプレス装置)が不要なため、低コストで製造が可能である。
②リスク
副作用発生のリスクがある。生体適合性の高い材料であっても、アレルギー等の副作用が発生する可能性がある。
模範解答1 (答案形式) 添削履歴 3回 完成日2018/5/3 専門事項 化学品製造
(1)想定する分野と競争力強化のための課題
①技術分野の特定
バイオセラミックス(セラミックス人工骨)事業の海外展開を検討する。
②課題
a)耐久性が高い製品の開発
セラミックス人工骨には、耐久性の向上という課題がある。股関節や膝関節はニーズが大きい部位だが、応力や摩耗の問題があり、全セラミックス製の人工骨は実現できていない。国際競争力強化のためにも、耐久性が高いセラミックス人工骨を開発すべきある。
b)知的財産権の確保
特許の取得あるいは技術の秘匿による知的財産権の確保が必要である。なぜなら、医療機器には後発品制度がないため、日本からの新規参入企業や中小企業が開発した新素材や新機能がコピーされ、シェアを奪われてしまうからである。
c)迅速な製品開発
オープンイノベーション拠点を活用した、産学医連携による迅速な製品化をすべきである。なぜなら、日本の参入企業は素材の開発技術、加工技術に優れているが、医療機器の法的知識や製品化ノウハウがなく、製品化が遅れがちだからである。
(2)最も重要な技術的課題と解決のための提案
①最も重要な技術的課題
a)の製品の耐久性向上が最も重要と考える。
②解決策
a) リン酸カルシウム化合物焼結体の利用
従来のバイオセラミックス(HAP)の生体適合性を維持したまま、人の骨皮質と同等以上強度を確保するため、以下を提案する。
骨の主成分であり、強度の高いリン酸カルシウム化合物焼結体を利用する。リン酸カルシウム化合物は、HAPにリン酸三カルシウム(TCP)を加えて複合化したものである。
b)HAPとTCPの配合比の決定
HAPとTCPの複合化により、結晶粒径を精密に制御できる。従来のHAP単体の焼結体と比較して、強度を50%以上向上できる。この配合比の特許を取得することで、知的財産権の確保が可能となる。
c)生体用材料の規格化
日本には、生体用材料のJIS規格等がない。このため、材料や強度の試験は、米国試験法やISO規格など準じて実施していた。しかし、国内メーカーの原料に、これらの規格を満たしているものは少ない、評価に時間がかかる等の制約から、開発が停滞する原因となっていた。
そこで、医工連携によって生体用材料のJIS規格化を行い、開発速度を向上させる。
(3)効果とリスク
①効果
a)患者の精神的及び身体的負担軽減
生体適合性と高強度高靱性を両立させたセラミック人工骨は、経年での強度低下や、骨組織との固定の緩みがなくなる。よって、人工骨の定期メンテナンス頻度が削減できる。定期メンテナンスは、手術を伴うため、患者の精神的、身体的負担は大きく軽減される。
b)経済性の向上
リン酸カルシウム化合物焼結体は、焼結時の温度や圧力によらず、HAPとCTPの組成制御によって強度を向上する。よって、高価な設備(ホットプレス装置や、高温対応の焼結炉など)は不要であり、低コストで製造可能である。
②リスク
a)副作用発生のリスク
生体適合性の高い材料であっても、生体にとっては異物とみなされる恐れがある。アレルギーやアナフィラキシー等の副作用が発生する可能性がある。このため、市販後調査の結果を製品にフィードバックし、安全性を高めなければならない。
b)新規参入による競争激化のリスク
セラミックス人工骨は、金属人工骨と異なり、3Dプリンターなどで容易に造形可能である。よって、容新規参入が容易だと考えられる。このため、オーダーメイド等により製品の付加価値を高める必要がある。