R1/2019年 建設・鋼構造・コン Ⅲ-2

問題文

 鋼構造物には通常の供用時における外力や環境条件などによる経年劣化に加え、豪雨、地震、火山噴火などの自然現象や車両・船舶の衝突などの人的過誤によっても、損傷が発生しうる。構造安全性を損なう劣化・損傷を受けた場合、速やかに適切な補修・補強策や再発防止策を立案する必要がある。その立案を担当する技術者として以下の問いに答えよ。

(1)構造安全性を損なう劣化・損傷を1つ想定し、その発生状況を概説した後、多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。ただし、疲労亀裂は除くものとする。

(2)(1)で抽出した課題のうち、鋼構造物で最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの」対策について述べよ。

模範解答1  (答案形式)  添削履歴 3回 2019.07.16  専門事項 橋梁設計

(1)損傷・発生状況・課題

1)鋼部材の座屈・破断・脆性破壊に対する発生状況

巨大地震等の自然災害で生ずる外力で鋼橋の部材の急速な耐荷力低下が生じ、脆性破壊に至る。

2)課題

①鋼橋を粘り強い構造とし、人命を守る

鋼橋の脆性破壊が生じた場合、避難時間が確保できず人命に危険が及ぶ。このため、従来の耐荷力増加対策に加え、鋼橋の優れた塑性変形能の活用、部分破壊の許容および地震エネルギーの吸収により、粘り強い構造とし、脆性破壊を抑えることが課題である。

ここは非常に良い課題が分析できています。

2)維持管理のコスト低減で部材・耐荷性能の確保

鋼橋の耐震性能を発揮するためには、部材が健全であることが前提となる。しかし、予算不足の状況下では、全施設への維持管理の継続が困難である。このため、鋼橋の周辺環境や重要度及び要求性能に応じた維持管理によりコストの低減を図る必要がある。

3)防災を担う技術者の確保

やや趣旨が違います。応急危険度判定士ならOKでしょう。

 鋼橋は災害時の救援活動拠点となるため、被災後の早期復旧が必要である。しかし、団塊世代の一斉退職やインフラ整備の重要性の認知度が低く、かつ、3Kイメージ定着から若者の土木離れにより技術者が不足している。このため、インフラツーリズムや現場見学会を通じた若者へ建設業の魅力をPRで入職意欲を奮起させ、かつ、残業削減・ワークライフバランス等の働き方改革で人材の建設業への定着を図ることが課題である。

(2)重要な技術的課題と技術的解決案

課題1)鋼橋を粘り強い構造とする

提案1)塑性設計

FEM弾塑性解析で特定した崩壊時の塑性ヒンジの回転角と全塑性モーメントMpで崩壊荷重を算出し、部材の全体崩壊に対する安全性を照査する。また部材断面は、局部座屈が生じること無くMpに達することができるコンパクト断面を導入する。

提案2)制震設計・免震設計

犠牲部材である鋼材ダンパーを鋼上部工部材または上下部工間に設置し、鋼材の弾塑性履歴による減衰付加により地震エネルギーを吸収することで、橋体の脆性崩壊を防止する。また、ダンパーは復元力が小さく、大規模な構造となりやすいため、免震支承を併用により、優れた復元力を付加した合理的な制震設計・免震設計とする。

ここも非常に結構です。

提案3)損傷制御

 津波や断層変位に対して、少なくとも致命的な被害を抑える対策を行う。具体的には、部材毎に限界状態を設定し、耐力に序列をつけることで損傷を制御し、脆性破壊を防止する。以下に具体例を示す。

・耐力を支承<上部工とすることで、上部工の過度な変形に伴う落橋を防止する。

(3)リスク・対策

リスク1)

部材に塑性化や部分破壊が生じた状況下で、住民や車両が鋼橋を通行した場合、崩壊が生ずる危険がある。

対策1)

・活荷重に対する塑性断面の照査や塑性化部材削除モデルでの解析により、車両制限を検討する。

・塑性化を考慮する部材と弾性域に留める部材に分ける。具体的には、活荷重を受ける主桁は弾性域、横構等の二次部材は塑性化を考慮する。

ここまではOKです。

リスク2)

FEM弾塑性解析等の動的解析は、設計負荷(入力やモデル化が複雑)が大きく、解析結果の善悪の判断が困難で設計ミスに気付かない恐れがある。

つまりこれだと何が起こるのですか。それがリスクです。

対策2)

PUSHOVER解析等の大変形を前提とした準静的解析との対比チェックで設計ミスを防止する。

リスク3)

全橋へ対応した場合、コストが嵩み、整備が困難となる。

条件付けによる限定は好ましくありません。

コスト高は、事前に見積もりするとわかることであり、リスクとは言えません。

対策3)

緊急輸送路等の防災・社会経済上重要度が高い鋼橋から優先的に整備を行い、選択と集中を図る。

模範解答2   (簡易答案1)    添削履歴3    作成日2020/5/9    建設部門  科目:鋼コン    専門事項 鋼橋

(1)劣化・損傷事象、課題

1)鋼道路橋の地震による損傷

 建設後40年経過した鋼道路橋に、50年に一度発生する

最大規模の地震で、部材が延性破壊し橋梁の耐力低下し、崩壊恐れ

2)速やかな補修・補強や再発防止の課題抽出・分析

①上部構造は、二次部材の損傷(座屈・破断)に応じたバネ設定した骨組みモデルで活荷重照査し、供用判断の早期化

②下部構造は、レベル2地震動による耐震性照査で橋脚基部及び基礎構造の補強が必要なため、エネルギー吸収・分散による補強量削減

③支承周辺は、主桁にジャッキアップ用補剛材を、橋脚にジャッキアップ用ブラケットを設置し、将来の支承交換時の早期化を図る。

(2)下部構造の耐震補強削減の解決策

 1)塑性化許容設計により、橋脚基部のみに損傷を集中させ、損傷部のエネルギー吸収により橋脚耐力補強量削減

 2)ゴム支承へ交換し、水平地震力を隣接する橋脚へ分散させる設計とし、 下部構造の補強量削減

 3)制震ダンパー後付し、地震エネルギー吸収により、地震力低減する設計とし、下部補強量削減

(3)新たに生じうる共通のリスクと対策

1)リスク

 ①部材交換や後付装置により橋梁全体の周波数特性が変化し、道路橋示方書標準波では、そのサイト特有の地盤特性を表現不能。

 ②2方向地震力の同時作用を未考慮のため、エネルギー吸収能力を過大に、変形量を過小評価

2)対策

 ①標準波の代わりに、地盤条件を反映させ、そのサイトに特化したレベル2地震波で照査を実施

 ②2方向同時作用による塑性2次勾配に移動硬化則を適用した塑性剛性マトリックスを作成し、動的解析し、同時性を表現。

模範解答2   (簡易答案2)    添削履歴0    作成日2020/5/11    建設部門  科目:鋼コン    専門事項 鋼橋

(1)劣化・損傷事象、課題

1)鋼道路橋の地震による損傷

 建設後40年経過した鋼道路橋に、50年に一度発生する最大規模の地震により、部材が延性破壊し、橋梁全体の耐力が低下し、崩壊の恐れがある。

2)速やかな補修・補強や再発防止の課題抽出・分析

①上部構造の速やかな補修・補強設計

 二次部材の損傷(座屈・破断)に応じたバネ値設定した骨組みモデルで一次部材を活荷重照査し、弾性域に収まっていることを確認し、供用判断を早期化する。

②下部構造の補強量削減設計

 レベル2地震動で耐震性を照査し、橋脚基部及び基礎構造の補強が必要となるため、地震エネルギーを吸収または、分散させる設計とすることで補強量を削減する。

③支承交換の迅速化

 主桁にジャッキアップ用補剛材を、橋脚にジャッキアップ用ブラケットを設置し、将来の支承交換を迅速化する。

(2)下部構造の耐震補強削減の解決策

 1)塑性化許容設計

 橋脚基部のみに損傷を集中させ、耐力補強と同等なエネルギーを損傷部で吸収させることで、補強量を削減する。

 2)水平力分散設計

 固定支承及び可動支承をゴム支承へ交換し、固定支承に集中していた水平地震力を隣接する可動支承橋脚へ分散させる設計とし、補強量を削減する。

 3)制震ダンパーによる地震エネルギ吸収

 上部工と下部工間に制震ダンパーを設置し、地震時に生じる相対変位及び速度に応じてエネルギーを吸収させる設計とし、下部構造の補強量を削減する。

(3)新たに生じうる共通のリスクと対策

リスク①:部材交換や制震装置の追加設置により橋梁全体の周波数特性が変化するが、道路橋示方書の標準波ではそのサイト特有の地盤特性が再現されていない。

対策①:標準波の代わりに、地盤条件を反映させて、そのサイトに特化したレベル2地震波を作成し、照査を実施する。

リスク②:部材交換や制震装置の追加設置による効果確認のための動的解析では、2方向地震力の同時作用を考慮せず、橋軸と橋軸直角方向を別々に照査するため、エネルギー吸収能力を過大に、変形量を過小評価している。

対策②:2方向同時作用による塑性2次勾配を、移動硬化則を適用し、塑性剛性マトリックスを作成し、照査を実施する。

模範解答2   (完成答案)    添削履歴9    作成日2020/5/15    建設部門  科目:鋼コン    専門事項 鋼橋

(1)劣化・損傷事象、課題

1)鋼道路橋の地震による損傷

 建設後40年経過した鋼道路橋に、50年に一度発生する最大規模の地震により、上部構造の二次部材が座屈し、下部構造は橋脚基部が塑性し、支承はアンカーボルトが破断し上沓が落下した。その結果、橋梁全体の耐力が低下し、崩壊の恐れがある。

2)速やかな補修・補強や再発防止の課題抽出・分析

①上部構造の速やかな補修・補強設計

 地震力により座屈または破断した横構及び対傾構等の二次部材の損傷状況に応じてバネ値を設定した骨組みモデルを作成する。

 主桁や横桁等の一次部材を死荷重+活荷重にて照査し、弾性域に収まっていることを確認し、供用判断を早期化する。

②下部構造の補強量削減設計

 損傷した下部構造の耐震補強設計では、レベル2地震動で耐震性を照査する。

 既設構造物は旧耐震基準で設計されているため、橋脚基部及び基礎構造の耐力が不足するが、地震エネルギーを吸収または、分散させる設計とすることで補強量を削減する。

③支承交換の迅速化

 将来の支承老朽化や耐震性能向上のための交換を見据え、主桁にジャッキアップ用垂直補剛材を、橋脚にジャッキアップ用ブラケットを設置する。

 設計荷重は、主桁に作用する死活荷重の支承線平均反力に施工時の不均等影響リスク1.5倍を加味し算出する。

(2)下部構造の耐震補強削減の解決策

 1)塑性化許容設計

 塑性箇所が橋脚基部となるよう、高さ方向に同厚の鋼板補強し、基部10cm程度は無補強とする。

 板厚は、耐力と変形量に基づくエネルギー一定則に基づき、必要となる耐力向上分とそれと同等のエネルギー吸収が可能となる変形量に応じた板厚を算出する。 

 2)水平力分散設計

 レベル2に対応していない固定支承及び可動支承をレベル2地震に対応したゴム支承へ交換し、固定支承橋脚に集中していた地震水平力を隣接する可動支承橋脚へ分散させる設計とする。

 可動支承橋脚が塑性に至らないよう、ゴム支承の剛性で水平力分担割合を調整し、全体挙動を動的解析で照査する。

 3)制震ダンパーによる地震エネルギー吸収

 上部工と下部工間に制震ダンパーを設置し、地震時に生じる相対変位及び速度に応じてエネルギーを吸収させる設計とし、下部構造の補強量を削減する。

 ダンパーのエネルギー吸収量は粘性Cと速度vの積に依存するため、ダンパーの特質に応じた履歴モデルを設定し、動的解析で照査する。

(3)新たに生じうる共通のリスクと対策

リスク①:橋梁全体の特性変化

 ゴム沓への交換や制震装置の追加設置により橋梁全体の固有周期が長周期化するため、長周期成分が卓越した海洋プレート型地震時に橋梁損傷が想定される。

対策①:サイト特有の地震波による照査

 標準波の代わりに、工学的基盤面以浅の各地盤せん断波速度に基づき、そのサイトに特化したレベル2地震波を作成し、動的照査を実施する。

 工学的基盤面の目安であるせん断波速度300m/s以上の層が互層となっている場合は、どの層を工学的地盤面とするのかにより、地震波応答スペクトルの卓越周期が変化するため、橋梁の固有周期に近い特性となる地震波となるよう安全側となる基盤面を選択する。

リスク②:2方向地震力の影響

 部材交換や制震装置の追加設置による効果確認のための動的解析では、2方向地震力の同時作用を考慮せず、橋軸と橋軸直角方向を別々に照査するため、エネルギー吸収能力を過大に、変形量を過小評価している。

対策②:移動硬化則の適用による解析

 2方向同時作用による塑性2次勾配を、移動硬化則を適用し、塑性剛性マトリックスを作成し、照査を実施する。

解説

(1)課題の分析のしかたについて

課題とは、問題に対して技術者が提案する技術応用のことです。

課題とは、部下が整然と動ける指示(課題)内容とすると良いでしょう。

提案する技術応用は、普段の業務や、関連論文をレビューし、その留意点を含めて考え、選定してください。

多面的とは、ダブりなく3つ挙げて全体をバランスよく網羅する。

(2) 解決策の提案、方策の考え方、書き方などについて

解決策とは適用工法・解析方法に対してどのような工夫、着眼点で実施するのか、また、それによる具体的な成果イメージを表現するように。

〇〇解析を〇〇の点に着眼し実施し、補修期間を短縮した。というイメージです

鋼構造の技術士にふさわしい提案に絞ること

行政サイドや社会情勢の広い観点からの(評論家的)提案は求められていません。

表題は本文の内容を端的に表現し、自分の技術力をアピールするように。

(3)リスクの導き方、書き方などについて

提案にともない新たに発生する事例を記載してください

“コスト増加”のように予め想定できることは提案に値しないこと。

解決策により〇〇が悪化・変化し、新たに〇〇の被害が想定される、というイメージです。

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