R1/2019年 建設・土質基礎 Ⅲ-1
問題文
高度経済成長期に構築した社会資本ストックの老朽化に対して、限られた事業費の中で効果的・効率的な維持管理が求められる。このため、橋梁等の構造物においては、予防保全に向けて定期的な点検を重視した維持管理が行われている。
一方、地盤構造物(盛土、切土、擁壁、構造物基礎等)においては、数も多く、構造物ごとに耐久性や修復性が異なるなどの特徴を有するため、これらを踏まえたより一層効率的な維持管理が求められている。
(1)膨大な数の地盤構造物を対象にした点検から維持管理までの一連の計画を策定するに当たり、技術者としての立場で多面的な面から課題を抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
模範解答1 (答案形式) 添削履歴 1回 2019.7.18 専門事項 基礎設計
(1)計画を策定するに当たっての課題及び分析
1)地盤の劣化状態の効率的な把握
地盤構造物は橋梁等の構造物と異なり、地盤内の劣化状態に左右されることも多いことから、施工後の経過年数だけで判断できないため、維持管理が困難である。
このため、地盤内を可視化して劣化状態を効率的に把握可能な技術開発が必要と考える。
2)効率的な点検
盛土や切土、擁壁などは高所で点検することが多く、容易に点検ができず、危険が伴う。また、安全対策として足場の仮設を必要とすることもあり、作業性が悪く、多くの時間を要する。
このため、点検診断可能な高性能カメラを付けたドローンによる点検が必要と考える。
3)予防保全型の維持管理への転換
地盤構造物は他のインフラ構造物と同様に高度経済成長期に施工され、施工後50年を経過したものも多く、また、少子高齢化に伴い財政難な状況にあり、事業費の計上が困難である。
このため、従来の壊れてから更新する事後保全型の維持管理からアセットマネジメントによる予防保全型の維持管理へ転換していく必要がある。
(2)重要な課題と解決策
地盤構造物の維持管理は地盤に左右され、地盤の劣化状態が把握しきれていないことから、点検手法が確立されていない。このため、「地盤の劣化状態の効率的な把握」が重要な課題と考える。
1)CIMによる地盤の3次元化
地盤構造物の維持管理を行うためには、地盤状態の把握を行い、劣化の進行を確認する必要がある。
このため、ボーリングや物理試験等のデータを収集・整理し、CIMを活用することで、地盤の3次元的に可視化を行い、状態の変化を確認する。
2)AIによる劣化状態の判定
地盤の劣化の進行は、地盤の種類や状態、地下水等の条件により異なり、3次元の可視化を行っただけでは更新等の処置の判断が困難である。
このため、地盤データの解析や地盤の可視化によって容易に地盤劣化状態を判定するためのAIの開発が必要と考える。
3)地盤データの収集と整理
AIのために必要な地盤データは大量にあり、官公庁(発注者)や民間企業、研究所、大学など各機関が保有し散在している。これらの散在するデータを収集し、また電子化するなど整理が必要と考える。
このため、データを容易に収集するシステムを構築し、データを一括管理する機関が必要と考える。また、膨大なデータがあるため、各機関で電子化する際はファイルの名称等に規則を設け整理の効率化を図る。
(3)新たに生じうるリスクと対策
新たなリスクとしては、データ収集を行う際の困難化データ収集の際の官公庁が保有する地盤データは容易に収集可能であると考えるが、民間企業、特に研究所および大学の保有するデータは研究のために用いることから、容易に提供されないと考えられる。
これは想像に難くない抵抗であって、リスクとは呼べません。
このため、データの提供に応じて費用等の対価を与えるなどの制度を構築する必要があると考える。
ごく普通の提案です。できれば専門技術を背景とした提案が欲しいです。
また、収集した地盤データは、品質が良いものもあれば、悪いものあると考えられ、これらのデータの妥当性の判断が重要と考える。
このため、データの良否の判断を行う機関を作って判断するか、また研究者や大学教授等の有識者によって判断を依頼することが必要と考える。
残念ながら、付随的な議論に発散し、本題から離れているようです。土質基礎に関する技術的な解決策を提案すると良いでしょう。
模範解答2 (簡易答案1) 添削履歴0 作成日2020/5/30 建設部門 科目:土質基礎 専門事項 土質
(1)計画を策定するに当たっての課題及び分析
1)地盤構造物は、材料が安価で施工しやすいことから膨大な量が建設されており、維持管理が必要なストックが多く、また近年の技術者不足に伴い、点検が容易に進まない。よって、効率的な点検を行うための、点検技術の開発が課題である。
2)法面や擁壁等は比高が高いものが多く、人為的に点検する際、非効率で時間がかかり、また危険性が高い。よって、人が高所で作業せずに精度良く点検を行うための、効率的で効果的な点検技術の開発が必要である。
3)地盤構造物は、地盤が不均質であることや、地下水等の影響で地質が変化することなど様々な要因が複合して劣化が発生しており、劣化の予測が困難である。よって、劣化の予測を行うに際して、地盤の劣化状況の把握が容易に出来ないことから、地盤の劣化状況を効率的に把握可能な技術開発が課題である。
(2)重要な課題と解決策
地盤構造物の維持管理は、地盤の劣化状態が把握しきれていないことから、「地盤の劣化状況の効率的な把握」が重要な課題と考える。
1)橋梁等の構造物の点検診断で用いる熱赤外線調査や表面波探査等の非破壊試験を地盤状況の把握に用いて、点検技術に応用する。
2)ボーリングや物理試験等のデータを収集・整理し、CIMを活用することで、地盤を3次元的に可視化し、状態の変化を把握する。
3)点検し分析した地盤の結果をデータベース化し、劣化の進行度合いに応じた判断基準を構築する。
(3)新たに生じうるリスクと対策
1)技術者判断の差異
新たなデータや既存データを収集、整理する際、岩盤や土砂との区分など大筋の判断は技術者共通の認識であるが、風化の程度や岩級区分など詳細な区分を行う際に技術者判断に差異が生じることもあり、ばらつきが生じる可能性がでてくる。
2)物理探査や室内試験等による詳細調査及び産学の連携による判断
技術者によって判断が分かれることが想定される際は、物理探査や室内試験等を利用し判断することや、また、研究者や大学教授等の有識者に判断を依頼することで対策が可能と考える。