鉄道設計技士試験模範答案 鉄道車両 H28 3-1「塗油」
車輪・レール間に塗油する場合がある。この塗油に期待されている効果、塗油によって発生する問題点、これらを考慮した塗油方法について具体的に述べなさい
模範解答 簡易答案
1.車輪・レール間に塗油する場合の期待される効果
曲線区間において、車輪・レール間に塗油することにより以下の効果が期待される。
(1) 外側レールの肩部と車輪フランジの磨耗抑制
外側レール(外軌)の肩部(レールゲージコーナー)と車輪フランジ間に塗油することで、車輪・レール間の接触点の摩擦係数を低減して、摩擦力を減らすことによりそれぞれの磨耗を抑制する。
(2) 内側レールのレール頭頂面の「レール波状磨耗」の抑制
半径の小さい曲線の内側レール(内軌)のレール頭頂面と車輪踏面に塗油することで、車輪・レール間を潤滑させ、横圧を減らすことにより、レール頭頂面の波状磨耗を抑制する。
(3) 騒音の低減
車輪・レール間の接触点に塗油することで摩擦によるフランジ音やキシリ音を低減する。
2.車輪・レール間の塗油によって発生する問題点
(1) 車輪滑走やシェリングの誘発
塗油による摩擦係数の極端な低下で車輪滑走、レール頭頂面のシェリング(転がり接触疲労)の発生リスクが高い。
(2) 加速区間での車輪空転の誘発
レール頭頂面や側面に残った油粕が車輪踏面に付着し、長距離に渡り引き伸ばされ、加速区間で車輪空転の発生リスクが高い。
(3) 雨天時による車輪滑走や車輪空転の誘発
雨水によりレール頭頂面や側面が湿潤している上に塗油を行うことで過潤滑となり車輪滑走や車輪空転の発生リスクが高い。
3.車輪・レール間の塗油に期待される効果と発生する問題点を考慮した具体的な塗油方法
(1) 固形摩擦調整剤による摩擦係数を管理する手法
固形摩擦調整剤を車輪フランジに押し当てることで、摩擦係数を管理する。
(2) レールを清掃する手法
車両の通過後に一定の周期で踏面清掃装置を動作させる。
(3) 晴天時のみ塗油を実施する手法
雨水による潤滑が期待できるため、雨量センサーやワイパー使用などで降雨を判断し、雨天時は塗油しない。
模範解答 答案形式
1.車輪・レール間に塗油する場合の期待される効果
(1)外側レールの肩部と車輪フランジの磨耗抑制
車輪・外側レール(外軌)間の接触点塗油することで、摩擦係数を低減して、摩擦力を減らすことによりそれぞれの磨耗を抑制する。
曲線レールでは、外軌に遠心力による横圧で、外軌の車輪フランジの接触部である肩部(レールゲージコーナー)と車輪フランジに大きな摩擦力が生じるからである。
(2)内側レール頭頂面の「レール波状磨耗」の抑制
内側レール(内軌)頭頂面と車輪踏面に塗油することで、車輪・レール間を潤滑させ、横圧を減らすことにより、レール頭頂面の波状磨耗を抑制する。
半径の小さい曲線では、内軌にアタック角に起因する横圧と輪重変動で連成された摩擦振動で「レール波状磨耗」が形成されるからである。
(3)騒音の低減
車輪・レール間の接触点に塗油することで摩擦によるフランジ音やキシリ音を低減する。
列車が曲線を通過するとき車輪に働く横方向の摩擦力で車輪が大きく振動し音を発生するからである。
2.車輪・レール間の塗油によって発生する問題点
(1)車輪滑走やシェリングの誘発
塗油による摩擦係数の極端な低下で車輪滑走、レール頭頂面のシェリング(転がり接触疲労)の発生リスクが高い。
(2)加速区間での車輪空転の誘発
レール頭頂面や側面に残った油粕が車輪踏面に付着し、長距離に渡り引き伸ばされ、加速区間で車輪空転の発生リスクが高い。
(3)雨天時による車輪滑走や車輪空転の誘発
雨水によりレール頭頂面や側面が湿潤している上に塗油を行うことで過潤滑となり車輪滑走や車輪空転の発生リスクが高い。
3.塗油による効果と問題点を考慮した具体的な塗油方法
(1)固形摩擦調整剤による摩擦係数を管理する手法
潤滑剤は、摩擦係数をできるだけ小さく、一定に保つように調整された固形摩擦調整剤を使用する。それにより摩擦係数を管理する。装置の構造は
① 固形摩擦調整剤は、台車に設置した潤滑剤ホルダーに収める。
② 潤滑剤ホルダーに内蔵のバネで固形潤滑剤を車輪に押し当てる。
③ 曲線に応じて、潤滑剤ホルダーを外側レールは車輪フランジ用、内側レールは車輪踏面用に切り換える。
(2)レールを清掃する手法
車両の通過後に一定の周期で踏面清掃装置を動作させることで油粕を除去する。装置の構造は、
① 地上用塗油装置と車輪検知センサー、踏面清掃装置で構成される。
② 車輪検知センサーにより塗油開始、終了、清掃開始、終了のタイミングを制御する。
③ 踏面清掃装置は、温水器と圧縮空気溜、噴射ノズルから構成し、高圧温水をレールに噴射する
(3)晴天時のみ塗油を実施する手法
雨水による潤滑が期待できるため、雨量センサーやワイパー使用などで降雨を判断し、雨天時は塗油しない。装置の構造は、
① 地上塗油装置は雨量センサーと連動し塗油を制御する。
② 車上からの噴射式塗油装置はワイパー使用時に塗油しないよう制御する。