鉄道設計技士試験模範答案 鉄道車両 H28 3-4「急こう配対応車両」
ある鉄道事業者で、これまで平坦線区で運用されていた3両編成(1M2T)のVVVFインバータ電車について、25[‰]の急こう配が連続する区間を含む線区への転用を検討することとなった。この時、力行性能において考慮すべき事項を3つ挙げ、その理由、検討方法及び対応策を述べなさい。なお、現状電車の主回路は2台のVVVFインバータ装置で各2台の主電動機を制御する方式とする。
模範解答 簡易答案形式1
1.行性能において考慮すべき事項
1) 25‰の勾配線区では列車抵抗として、勾配抵抗が加わること。
2) MT比が1:2と動力が集中すること。
3) 勾配では駆動輪の軸重の変化が大きくなること。
2.考慮すべき理由
1)25‰の勾配抵抗は、平坦線区の出発抵抗の20倍以上となり発車できないから。
2)動力が集中することで、駆動輪当りの期待粘着係数が低くなり、その結果、引張力が低下するため。
3)勾配と駆動輪の回転力による軸重移動で、駆動軸の粘着係数が低くなり、空転するから。
3.検討方法
1)登坂時の加速度が0.3㎞/h/s下回らないように設計する。
2)MT比をM車の比率が1を上回るように主電動機を配置する。
3)勾配による軸重移動率を、動輪の1台車当りの軸重移動量と各台車内の軸重移動量から計算し、各軸の粘着係数が20%以上となるよう設計する。
4.対応策
1)永久磁石同期電動機を採用することで、主電動機を大型化せず、25‰の起動加速度が1.1㎞/h/s以上となるように、主電動機の引張力を大きくする。
2)2台の主電動機をT車に配置し、2M1Tとすることで、MT比を1以上とする。
3)軸重移動補償制御とベクトル制御により各軸の粘着係数が22%まで制御する。
模範解答 簡易答案形式2
1.力行性能において考慮すべき事項
(1) こう配起動時に、列車抵抗が増加するから後退すること。
こう配区間で起動する場合、列車抵抗として、出発抵抗に勾配抵抗が加わること
(2) 3両編成(1M2T)を転用するから、動力が分散されていない。
3両編成(1M2T)のMT比が1:2と動力が集中していること。
(3) 駆動輪の軸重が変化し、軸重不足となること。
こう配起動時は駆動輪の軸重の変化が大きくなること。
2. 考慮すべき理由
(1) 25‰のこう配抵抗
25‰のこう配抵抗は、平坦線区の出発抵抗の20倍以上となり平坦線区の引張力に比べ、大きな引張力が無いと発車できないから。
(2) 動力集中による引張力の低下
動力が集中することで、駆動輪当りの期待粘着係数が低くなり、その結果、引張力が低下するから。
(3) 輪重移動による空転の発生
こう配と駆動輪の回転力による軸重移動で、軸重不足となった駆動軸の粘着係数が低くなり、空転するから。
3.検討方法
(1) こう配起動性能を持つ主電動機の設計
登坂時の加速度0.3㎞/h/sと、こう配の重力加速度を加えた値を得られる引張力性能の主電動機を設計する。
(2) 主電動機の配置設計
MT比が1:1以上になるように主電動機配置し、動力を分散する。
(3) 軸重移動率による平均粘着係数の設計
勾配による軸重移動率により、駆動軸当りの引張力を補正することで、軸重が変化しても平均粘着係数が20%以上となるように設計する。
4.対応策
(1) 永久磁石同期電動機による引張力の増加
永久磁石同期電動機を採用することで、25‰の起動加速度1.1㎞/h/s以上の引張力性能が得られる。
(2) T車への主電動機配置によるMT比の増加
2台の主電動機をT車に配置し、2M1Tとすることで、MT比を1:1以上とする。
(3) 輪重移動補償制御とベクトル制御による空転抑制
軸重移動補償制御とベクトル制御により平均粘着係数が20%以上まで制御する。