R1年 建設部門、鋼構造・コンクリートの答案について添削致しました。
この答案についての講評
この方の答案内容はかなり合格が期待できるレベルかと思います。もし本講座で学ばれたら、普段からのコーチング指導により、合格基準が明確となり、あいまいな状態で悩むことなく、楽勝での合格が可能です。
Ⅰ-1は答案は、全然問題なく書けていますが、本来なくてもよい記述がある一方、必要とする要件の内容がやや甘いです。
Ⅱ-2は残念ながら本質的な課題を示せていなかったようです。Ⅲ-2は実際にあった関空での船舶衝突事故などを事例として取り上げればよかったかと思います。今後はご注意ください。
答案の良いところ、悪いところ、それから得点する上での注意は音声でご説明いたしますのでお聞き願います。
技術士試験の難しさは、何を求められているかわからないところにあります。一方、このような試験に対して、技術経営、マーケット志向の視点から考えると間違いがありません。音声ガイドコーチングでは、予想問題練習で問題への対処法をご説明しますので必ず合格できます。
音声ガイドによるコーチング指導内容(25分47秒)がダウンロードされますのでお聞きください>
問題 Ⅰ-1
我が国の人口は2010年頃をピークに減少に転じており、今後もその傾向の継続により働き方の減少が続くことが予想される中で、その減少を上回る生産性の向上などにより、我が国の成長力を高めるとともに、新たな需要を掘り起こし、経済成長を続けていくことが求められている。
(1)建設分野における生産性の向上に関して、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出して分析せよ。
(2)(1)で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)〜(3)を業務として遂行するにあたり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
解答
1.生産性向上に関する建設分野の課題
近年の公共工事は、設計・施工業務を別々の会社が受注しており、事業の細分化が進んでいる。そのため、設計から施工へと移る際、設計成果の確認作業が生じることで中々施工へと着手できずに生産性が下がっていることが問題点である。従って、設計・施工間のシームレス化が課題である。
建設分野は単品受注生産・屋外作業が基本であるため、技能者一人一人のマンパワーに依存した労働集約型産業となっている。しかし、少子化によって働き手の数が減少していく中、いつまでも労働集約型の産業形態のままでは一向に生産性を上げられないことが問題点である。従って、資本集約型産業へと移行することが課題である。
建設分野は12月〜翌年3月までの年度末に工事が集中しており、6月〜8月に掛けては工事量が少なく閑散としている。そのため、繁忙期はどの現場でも必要な人員・機材が揃わずに生産性が上がらず、反対に閑散期は工事量が少なすぎて生産性が上がらなくなっていることが問題点である。従って、施工時期を平準化することが課題である。
2.課題1つの解決策
設計・施工間がシームレス化すれば、施工着手後の修正設計も減ることで公共工事全体の生産性が上がる。従って、設計・施工間のシームレス化を重要課題に挙げ、解決策を2つ示す。
1つ目の解決策はECI方式の採用である。理由は、ECI方式であれば事業の上流段階から施工業者が介入できるため、設計成果の把握がしやすくなると共により施工に配慮した設計も行えるからである。具体的には、概略設計が出来た時点で発注者は施工業者を探し、優れた技術提案を示した業者と優先交渉権を結び設計段階から技術協力させる。そして、施工業者は設計者と協力しながら詳細設計を進め、設計完了後、金額的に発注者と折り合いが付いたら正式に受注して工事を進める。
2つ目の解決策はCIMの導入である。理由は、CIMであれば3Dモデルによって構造物の中身が可視化されるため、設計成果の確認作業が容易となり、短時間で終えられるからである。具体的には、現地測量結果と構造計算結果を基に座標値と部材寸法値を得る。そして、それらの値を基に3次元CADソフトを使って橋やトンネル、ダム等の構造図面を3Dモデルで作図する。これにより、例えば鉄筋の干渉チェック等を行いやすくし、短時間で中身の把握、監査業務を終わらす。
3.共通リスク、その対策
ECI方式やCIMを導入すると、施工に配慮した設計又は3Dモデルによる構造の可視化によって従来よりも施工が簡単になる。しかし、簡単になった反面、技能者の技能も徐々に低下していく。この結果、ECI方式やCIMを活用できない工事に出くわした際、技能の低下によって著しく品質が下がってしまうリスクが新たに生じる。
そこで、リスクへの対策としてVRを活用した技能訓練を行う。理由は、VRであれば最新の3DCG技術よって高度な技能が必要な工事現場でも再現できるため、VR空間内で何度でも訓練すれば技能の維持・向上が図られ、品質低下を未然に防ぎやすいからである。具体的には、工事現場を360°カメラで撮影し、3DCG画像を作成する。そして、その3DCGを専用のVRゴーグルに落とし込み、技能者に装着させる。これにより、VR空間内で足場設置や鉄筋組立作業等をシミュレーションしてもらうことで技能の維持・向上を図る。
4.必要な要件
ECI方式では施工に配慮した設計が行えるが、施工に気を取られすぎると地方のローカルルールを無視した設計が出来上がってしまい、地元住民に迷惑がかかる。従って、設計思想がローカルルールに反していないか常に監査することが技術者の倫理の観点から必要である。
なぜ(3)のECIですか。設問は「(1)〜(3)を業務として遂行するにあたり必要となる要件・・」です。ニッチな提案、ローカルルールより全体最適を目指すべきでは。
CIMはデータの容量が重いため、大容量サーバーが必要となることでこれまで以上に電気消費量が増える。従って、受発注者協力の基、CIMクラウドを立ち上げ、その中で3Dモデルを一元管理することが社会の持続可能性の観点から必要である。
社会の持続可能性についてお考えになったことはありますか。SDGsのことです。
CIMクラウドはSDGsのどれに相当しますか。
Ⅱ−1−1
鋼構造物の設計又は架設(建て方)計画において、座屈照査が重要となる部材を1つ挙げ、その部材に生じる恐れのある座屈現象を述べよ。また、その座屈に影響を及ぼす主因子を複数上げ、それぞれについて説明せよ。
座屈照査が必要な部材には、鋼道路橋の主桁間に設ける横構を挙げる。必要な理由は、主桁は面外剛度が弱く、地震・風等の横力は横構で負担するため、万が一横構が座屈すると全体崩壊を起すからである。
理由は本来なくても良いのです
オイラー座屈?ただの「座屈」ではダメなのですか
横構に生じる恐れのある座屈現象はオイラー座屈である。オイラー座屈とは、部材に圧縮力が作用した際、その部材の降伏耐荷力未満の圧縮力あったとしても急に横方向に折れ曲がり、脆性破壊する現象である。
オイラー座屈の言葉の意味ではなく、ここは鋼道路橋主桁間の横構の座屈現象について述べることが求められています。
2.座屈に影響を及ぼす主要因子
1つ目の主要因子は横構の細長比である。横構は部材断面積に比べて部材長が長いため細長比が100〜150と大きい。そのため、オイラー座屈による降伏応力度の低減を大きく受け、比較的小さな圧縮力であったとしても座屈してしまう。
2つ目の主要因子はGussPLとの接合方法である。横構はGussPLと一面せん断接合にてボルト締めされているためGussPLから横構へと圧縮力が流れる際、偏心曲げが生じる。この結果、圧縮力+偏心曲げが同時に作用し座屈しやすくなる。
3つ目の主要因子は床版の剛性である。地震・風等の横力は床版と横構にてそれぞれ分担する。この時、床版がPC床版やRC床版等、剛性が高ければ3/4以上の横力が床版へと流れ、横構に流れる横力が小さくなる。この結果、横構の座屈が剛な床版で拘束される。
Ⅱ−2−2
鋼構造物の品質や精度を確保する上で、不適合(不良、不具合)を未然に防ぐことが重要である。あなたが、鋼構造物の品質や精度に関わる重大不適合の再発防止策を立案する担当責任者として、業務を進めるに当たり、下記の内容について記述せよ。
(1)技術的に重大と考える不適合の事例を1つ挙げ、調査、検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2)業務を進める手順について、留意すべき点、工夫を要する点を含めて述べよ。
(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
1.不適合事例と、調査、検討事項
重大な不適合事例には鋼道路橋の主桁、横桁等の部材の出来形精度不足を挙げる。理由は、出来形が不足すると架設時にボルト締めした際、部材に拘束応力が残ることで数年後の亀裂、変形へと繋がり、鋼橋の寿命が下がるからである。
部材の出来形の内、主桁キャンバー(死荷重たわみ分のそり)は、主桁の剛性や自重がバラつくことで特に精度確保が難しい。従って、工場内で主桁を仮組してキャンバー精度を調査する。
部材一つ一つを精度良く製作しても主構全体を組み立てた際は、わずかなズレでもそのしわ寄せが接合部にいきボルト締めが困難となる。従って、仮組時にボルトが無理なく挿入可能か全数調査する。
仮にボルト締めが困難な場合、部材の製作し直しが望ましいが、ムダな費用が発生し工程に遅れも生じる。従って、ボルトを呼び径+4.5mmの拡大孔にして誤差吸収できないか検討する。
2.業務手順
1つ目の手順は設計図書の確認である。線形計算書、設計計算書通り図面が描かれているか整合確認する。この時、製作キャンバー図は解析上の仮定剛度にて算出していることもあるため、キャンバー精度向上の観点から実剛度で算出しているか入念に確認し、必要に応じて設計者に修正させることに留意する。
2つ目の手順は製作精度管理である。図面通り部材を製作し、工場内にある最も広い用地にて仮組する。これにより、キャンバー精度及びボルトが全数無理なく挿入できるか確認する。この時、工場内で全長に渡って仮組できる広い用地が無い際は製作部材を3DCGスキャナーにかけ、PC上でのシミュレーション仮組にて確認することに工夫する。
3つ目の手順は架設時の精度管理である。ベントで部材を仮受けさせながらクレーンで順次架設していき、最後の落とし込みブロック架設前に一度、先に架設した部材の仕口間を計測する。そして、計測値を落とし込みブロック長に反映後、架設することで当日の温度伸縮や施工誤差を吸収し精度確保する。この時、落とし込みブロックは常に切断にて長さ調整できるよう100mm程、長めの製作に留意する。
3.関係者との調整方策
架設時は継手付近にベント設備があった方が接合の際、ズレが発生せず出来形精度が良くなる。しかし、橋梁下には民家や道路が通っていることも多いため、自由にベントを置くと住民に迷わくがかかる。そこで、住民との調整方策にベントからのジャッキUPを行う。具体的には、ベントの上にジャッキを置き、ジャッキの上げ下げで継手位置の高さ調整を行う。これにより、継手の最寄りにベントがなくとも調整が可能となるため、住民の迷わくを最小限に抑えられる。
確かにその通りですが、これは難しい話ですか。つまり技術士の提案として評価できる要素はどこにありますか。
Ⅲ−2
鋼構造物には通常の供用時における外力や環境条件などによる経年劣化に加え、豪雨、地震、火山噴火などの自然現象や車両・船舶の衝突などの人的過誤によっても、損傷が発生しうる。構造安全性を損なう劣化・損傷を受けた場合、速やかに適切な補修・補強策や再発防止策を立案する必要がある。その立案を担当する技術者として以下の問いに答えよ。
(1)構造安全性を損なう劣化・損傷を1つ想定し、その発生状況を概説した後、多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。ただし、疲労亀裂は除くものとする。
(2)(1)で抽出した課題のうち、鋼構造物で最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの」対策について述べよ。
1.劣化・損傷1つとその発生状況、課題
鋼道路橋の支間中央の主桁下フランジに孔食が生じた劣化を想定する。その発生状況は雨水が降った際、下フランジに滞水し、塗装が早期にはがれたことで孔食にまで至った。
間違いではありませんが、やや分析に不向きな単純すぎる損傷です
(1)通行止めを伴わない補修法の構築
支間中央は断面力が卓越しているため、下フランジが孔食すると耐荷力の著しい低下から通行止めが生じる。この結果、復旧までの間、多くの車が迂回を強いられることで社会的損失額が過大となることが問題点である。従って、通行止めを伴わない補修法の構築が課題である。
明らかに不必要な目的(施工計画)に発散しています。
(2)下フランジの防食性能強化
発生状況で述べたように、下フランジは元々滞水が原因での腐食が進展しやすい。にも関わらず、下フランジの防食性能は他の部位と同程度あり、今日まで何の改善もされていないことが問題点である。従って、下フランジの防食性能を強化することが課題である。
このことはただの経緯であって、腐食によって断面が失われたことだけでOK
(3)補修と並行した断面力のバランス修正
支間中央には分配横桁が設けられているため、下フランジが孔食すると剛性の低下から分配横桁を介して他の主桁に多くの断面力が流れる。この結果、健全な主桁の作用応力度も大きくなり、橋全体の寿命が下がることが問題点である。従って、補修と並行して断面力のバランスも竣工時まで戻すことが課題である。
腐食(断面欠損)の波及的な影響を追い求めても仕方ありません。結局、断面を補償しさえすればすべて解決します。
2.課題1つの解決策
主桁をベントにて仮支持すれば通行止めを伴わず補修できるが、橋梁下には河川や道路が通っていることの方が多いため常に採用できる方法ではなく、未だに有効策が確立できていない。従って、通行止めを伴わない補修法の構築を重要課題とし、解決策を2つ示す。
(1)バイパス材の活用
1つ目の解決策はバイパス材の活用である。具体的には、市場性に優れるL形鋼をバイパス材に活用し、孔食の生じた下フランジ付近のウェブに高力ボルト摩擦接合で取り付ける。これにより、孔食部に作用する応力がL形鋼へと流れるため、孔食部の応力が0となることで車両通行時の安全性を確保でき、通行止めを解除できる。
(2)横構・床版を含めた全体解析
解析したところで、腐食(断面欠損)は何も変わりません。解析で「残存断面は十分」と出たら、それ「損傷」ではなかったということ。振り出しに戻ります。
2つ目の解決策は横構・床版を含めた全体解析を行うことである。理由は、鋼橋の設計では主桁のみで車両活荷重に抵抗できるよう設計するが実際は横構・床版も有効に機能している。そのため、それらの部材も含めて評価すればたとえ孔食が生じていても補修までの間なら通行止めを解除できると考えたからである。具体的には、床版に剛度比1/7乗じて鋼桁上フランジに換算し、横構は薄板の下フランジに換算することで箱断面として計算する。これにより断面性能を向上させ、孔食が生じた断面でも車両活荷重に抵抗できる。
3.共通リスク、その対策
(1)活荷重の変形拘束による数年後の損傷
断面欠損をL形鋼で補強したのだから本来の強度にもどるはず。補修部材設置時の主桁たわみから復元変形を拘束・・とは、単なる施工ミスでは?まずは正しい施工を前提とする
上述した2つの解決策は共にベントで仮支持しているわけではないため、車両通行時、腐食部付近の主桁のたわみは0にできない。そのため、万が一、補修部材設置時に主桁がたわむと補修部材が主桁の復元変形を拘束するとこで余計な応力が主桁に残り、数年後の損傷へと繋がるリスクが新たに生じる。
現実にはあり得ない方向に発展しています
そこで、リスクへの対策としてひずみゲージを用いたモニタリング施工を行う。具体的には、孔食部周辺にひずみゲージを貼り、車両通行時のひずみを計測する。そして、計測ひずみに鋼材のヤング率を乗じて応力を求め、この応力変動が少ない瞬間をねらって補修部材を設置することで拘束応力の影響を小さくする。
(2)補修効果減による橋全体の寿命低下
上述した2つの解決策はベントから主桁をジャッキUPできないため、補修部材は死荷重断面力には抵抗できず、活荷重断面力にしか抵抗できない。この結果、補修の効果が低くなり、橋全体の寿命が下がるリスクが新たに生じる。
そこで、リスクへの対策として外ケーブル工法を行う。具体的には、主桁下フランジ下面にブラケットを設置し、ブラケット間をPCケーブルで繋いで緊張する。これにより、主桁にそりを与えその間に補修部材を設置することで死荷重断面力にも抵抗させる。
これらは本来、2ページの2の(1)に書くべき内容では?
もしこのようなことがわかっていたとしたら、ただL形鋼をあてるだけの補強はありえないでしょう。