「コボット導入による製造ラインの革新と課題:労働力不足解消と生産性向上に向けた技術者の挑戦」

 コボット(協働ロボット)は人間と安全に協働できるように設計されたロボットで、センサーやビジョンシステムを搭載し、リアルタイムで環境に対応する。プログラムの柔軟性が高く、簡単再設定できるため、さまざまなタスクに適用可能である。こうしたコボットの特性とその導入のメリットを生かして、現実の工場製造ラインに導入する担当者の立場で考える。コボットはユーザーフレンドリーなインターフェースを持っているものの、特定のタスクに合わせた詳細な設定やプログラムのカスタマイズには高度な専門知識が必要である。また、コボットを既存の生産ラインやシステムに統合することは技術的に難しい場合があり、既存の機械や設備との相互運用性を確保するための調整や再設計が必要と言われている。これらを前提にいかの問いに答えよ。

問1 コボットにより、危険な作業や重労働を代替し、労働力不足の解消に大きく貢献し、全体的な生産性と効率を向上させるには機械技術者としてどう対処すべきか。広い視点で観点を挙げた上で課題を述べよ。

問2 前問1で抽出した課題のうち、最も重要と考える課題をその理由とともに1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を具体的に示せ。

問3 前問2で示した全ての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

問4上記業務を遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件、留意点を述べよ。

解答

1. コボットの生産性、効率向上の課題

1)既存設備との連動性と生産性向上

 効率的生産ライン設計の観点から、生産プロセスとコボットの制御連携による効率的運用や周辺設備とのインターオペラビリティの構築が課題となる。具体的にはコンベアシステムに同調したコボットの動作や異なるメーカー間の装置(パーツフィーダーなど)情報と連動した作業指示、検査情報の共有や前後工程とのインターロックによりサイクルタイムを短縮する。

2)既存システムとのデータ統合

統合運用の観点から、データフォーマットの統一や他のデータベースと統合運用、上位層の生産管理・品質管理システムとのシステム統合が課題となる。インターオペラビリティ基盤の構築により機器・工程間に分散する生産データの統合管理ができ、上位生産管理システムとのデータベース連携により柔軟な生産工程の組換えや自律的な製造実行計画の立案が挙げられる。

3)安全性と柔軟性の両立

 効率とリスク対策の観点から、生産システム全体でのリスクアセスメントと残留リスクへの対処、可用性の高い安全システムの構築が課題となる。コボットの安全機構を活用した人機一体となったシステムリスク回避やAGVなどコボットを可搬型システムとして運用することで、柔軟性と安全性を両立したシステム構築が挙げられる。

2.重要な課題:既存設備との連動性と生産性向上

 コボットは人との協働作業とともに生産ラインとの連動や関連設備とのシームレスな統合運用により、全体システムの生産性向上に繋がるため。

1)インターオペラビリティの構築

他の設備・機器間連携では共通インターフェースやプロトコル設計によるシームレスな通信環境を構築し相互運用を強化する。また、生産プロセスとコボット間データやリアルタイムフィードバックデータについては、専用通信を用いた高速フィードバックにより同時性を担保し、精度の高い相互運用を可能とする。  

2)生産ラインとの同調によるシステム生産性の向上

物理的スペース確保によるコボットの適正配置やコンベアとの同期制御により生産サイクルタイムの短縮を図る。コボットは単純作業を連続動作可能なため、コボットを中心としたライン設計に変更し稼働率を高め、コンベアとの同調性を高めることでライン停滞を解消しながら複数作業を可能とする。

3)コボット単体での設備生産性向上

コボットの動作シーケンス調整による協調動作の最適化やディープラーニングによる人との最適協働作業を実現する。動作シーケンスは対象設備による最短ルート選択や回避ルートの設定、ワークによる待機時間の短縮調整を行い、協調動作は次工程である人の状態監視や生産状況把握により、自律的協調を実現する。

3.新たに発生するリスクと対応

 作業者の労働安全規制強化により、コボットと人との協働作業条件が厳格化され、協働生産ラインの運用が困難になる可能性がある。 

(対応策)コボットによる作業の高度化を進め、人機協働ラインの自動化率を高める。また、高度な作業についてはハプティクス技術を用いた遠隔操作により、安全を確保した協働生産しステムを構築する。 

4.技術者倫理と持続可能性を高める要件と留意点

4.1技術者倫理を高める要件、留意点 

ディープラーニングによる自律的協働作業の高度化や画像解析技術、ハプティクス技術のライン応用研究を進め、人機生産ラインの適用範囲拡大や適用事例を社会に広く共有、産業の発展基盤を構築する。これは、技術士倫理綱領「技術者の社会的責任の遂行」に該当する。

4.2 社会持続可能性を高める要件、留意点

製品改廃、生産計画に応じたコボットの適正配置見直しや協働行動の最適化により、原材料やエネルギー資源の有効活用を推進し、消費と生産の持続可能なパターンを確立する。これは「つくる責任つかう責任」(SDGs開発目標12)に該当する。

講評

良い点、評価できる点

  1. コボット導入の課題を多面的に分析
     コボット導入に際しての「既存設備との連動性」「データ統合」「安全性と柔軟性」という3つの課題を明確にし、それぞれの観点から具体的な技術的課題を考察している点が評価できます。これにより、現実の製造現場で直面する可能性の高い問題に対し、実務的なアプローチが見られます。

  2. 具体的な解決策の提示
     インターオペラビリティの構築や、生産ラインとの同調による効率向上、コボット単体での動作最適化など、課題に対する解決策が具体的に示されています。特に、高速フィードバックやスペース確保といった実装レベルの提案が現実的であり、実際の製造ラインへの導入可能性を強く感じさせます。

  3. 新たなリスクに対する対応策
     協働作業における安全規制強化というリスクに対して、ハプティクス技術を使った遠隔操作による安全確保を提案している点が優れています。新たに発生するリスクに対しても、技術的な対応策を的確に示しており、柔軟な対応が可能であることが評価されます。

改善を要する点と改善案

  1. 解決策の実現可能性の詳細化
     提案された解決策は具体的であるものの、その実現にかかるコストや技術的な課題、導入までの時間などの現実的な要素がやや不足しています。例えば、インターオペラビリティの構築に必要な技術的なインフラや、既存のシステムとの連携にかかる時間や費用に言及することで、提案の実現可能性をさらに高めることができます。
    改善案: 解決策の技術的・経済的なハードルを具体的に示し、それに対する対応策を提案することで、実現可能性を強調する。

  2. リスクへの対応策の具体性を強化
     新たなリスクへの対応策として、ハプティクス技術を提案していますが、その実現に伴う技術的な課題や具体的な導入方法に関する詳細が不足しています。特に、遠隔操作の技術的課題や、その導入に必要な条件についてさらに詳しく述べることで、リスク対応の実効性が高まります。
    改善案: ハプティクス技術の導入に必要なインフラや技術的なハードル、操作のトレーニングや安全基準の確立などについてさらに掘り下げて説明すると、より具体的で説得力のある対応策になります。

  3. 技術者倫理と持続可能性の深掘り
     倫理や持続可能性に触れていますが、もう少し具体的な実践例が欲しいところです。例えば、労働者の役割や再教育プログラムについての考察や、持続可能性の具体的な指標について言及すると、より現実的な内容になります。
    改善案: 技術者の倫理的責任や持続可能性を実現するための具体的な施策(例:労働者再教育のプロセス、環境負荷軽減の具体的取り組み)を掘り下げて議論することで、さらに実務的で説得力のある内容となります。

合否の可能性の判断

合格の可能性は高い
コボット導入に関する課題設定や解決策が具体的で、技術的な内容も現実的な提案となっています。特に、新たなリスクに対する柔軟な対応策が示されている点は評価されます。ただし、提案の実現可能性や技術者倫理の具体性にさらに深掘りが必要であり、これらの点を強化すれば、より高い評価を得られるでしょう。

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