鉄道設計技士試験模範答案 鉄道車両 業績論文3「定位置停止装置と車両制御」
① 業務概要、実施時期および役割
〇〇線ではホームドア整備に伴い、列車を駅定点に停止させるためのブレーキ制御、車両ドアとホームドア開閉の連動制御を内包した定位置停止装置(以下「TASC装置」)を車両に付与することとした。
私は、平成26年度より3年間定位置停止(以下TASC)装置設計業務に実務担当者として携わり、仕様を決定するための設計会議への参加、機器製作会社での機能確認、改修試作車による本線試運転を経て、車両改修を全車に展開した。
②技術上の課題と解決策とその理由
〇〇線車両は、〇〇ベースの1・2次車と〇〇ベースの3次車の2車種があり、車種に合わせた改修を実施した。
TASC装置は両先頭車間に追加の伝送線が必要なため、改修試作車は引通し線に余裕があり、大規模な改修を要さない3次車を選定した。
本改修を進めるにあたり、次のような課題が発生した。
(1)TASCパターンへの追従性を高める制御装置調整
TASCの基本ソフト作成のため、路線データ、減速度データを基にTASCパターンを作成し、繰返し夜間試運転を実施した。当初は、直線的なTASCパターンに列車速度が追従できずにブレーキ出力が不安定となり、手前停止も散見された。この原因を調査したところ、夜間試運転は試験列車の単独走行のため、発生した回生電力が消費されず、減速中の架線電圧はDC1600Vを超えていた。そのため、VVVF装置の軽負荷回生制御が働き、空制の負担率が増加し高い減速度であることが判明した。この現象を確認するため、減速度試験を実施したところ、電空協調制御と空制との間に約10%の乖離が生じていることを発見した。空制に切替わるタイミングで減速度が高くなった結果、車両速度がTASCパターンを下回り、これを補正するためブレーキを緩める動作をしていることが確認された。また、同様の原因で、低速域において回生から空制に切替わる際に減速度が高くなることにより、手前停止が発生していた。これらの原因を更に調査したところ、変電所の回生インバータ動作電圧がDC1630Vで、VVVF装置と協調が取れておらず、設備の機能を有効活用できていないことが判明した。この対策として、軽負荷回生制御電圧をDC1680Vへ引上げるVVVF装置のソフト改修を行った。この改修の結果、TASCパターンへの追従性が向上し、定位置停止精度の性能目標である±500㎜を上回る±100㎜以内という高い停止精度を達成することができた。また、このソフト改修による副次的な効果として、回生率を30%後半から40%前半に引上げられ、省エネ効果も得られた。
(2)共通ソフトを活用できる車両性能の評価、調整
このように3次車の試作車で作り上げたソフトウェアをシステム構成が異なる1・2次車へ展開していく過程において、車両性能の相違を把握するためブレーキ基礎データを採取した。その結果、1・2次車の減速度は3次車に比べ10〜16%高く、手前停止の原因となる恐れがあることを発見した。このため、制御部基板の減速度設定スイッチにてブレーキ出力をこれまで以上に厳格に調整し、3次車と同等の停止精度に収めることができた。
こうしてTASC装置の基本ソフトを加修することなく、車種によらず互換をもたせることに成功し、コスト縮減に貢献することができた。また、TASC運転時にはブレーキ力の調整をこれまで以上に厳格に行わなければならないという、保守区として新たな知見を得ることができた。
② 上記方策に対して、現時点で改善すべき点
ごく稀に、タス運転時における停止精度異常、乗り心地の悪化が見られることがある。
更なるTASC装置の改善のため、継続して走行データの収集、分析を行い、TASCのソフトウェアの改良や車両性能の調整方法の確立を図っていく必要がある。