鉄道設計技士試験模範答案 鉄道土木 H27年 「分岐器脱線」
問題
分岐器は、その構造の複雑さから脱線に対するリスクにも特に留意する必要がある。普通鉄道の分岐器部において、これまでに発生した典型的な脱線事故の形態を3つ上げ、それぞれの原因とその防止対策について具体的に述べなさい。
ただし、まくらぎの腐朽劣化等に伴って支持力が低下し、軌間拡大によって脱線する事例は除くものとする。
模範解答
1. 脱線形態 低速時の車輪フランジ乗り上がり脱線
① 原因 車輪削正後の摩擦係数の増加
車輪削正の直後でフランジ部とレールに塗油潤滑がなく、急曲線を走行すると、表面の不純物が剥離し金属面が接触し摩擦係数が増大するためである。更にリード部での高低差をてい減することで輪重バランスが乱れ平面性変位を有していると,台車の4輪支持点が3点支持となり1輪乗り上がり脱線をおこすからである。
② 防止対策 削正フランジへ塗油による摩擦抑制
車輪削正後、フランジ部への塗油を行う。また、塗油後の油の持続性を把握し、摩擦係数を増大させる要因となる油分の汚れや付着した摩耗金属粉などのレール洗浄を定常的に行う。
フランジ部やゲージコーナー部の急激な摩耗が、摩擦係数を増大させているため、定期軌道検査などで定量的に把握する必要がある。また、脱線係数が限界を超えないようアタック角1.5度以内を通り変位の検査を頻繁に行うなど必要とされる。リード部でのカントてい減や土砂等を含んだ不安定なバラストを入替えるなど,道床の安定性を高める事が必要である。
2. 脱線形態 カント超過の平面性変位による脱線
① 原因 カント超過による横圧増加
曲線半径を急激に小さくする方向に通りが変位し、カント超過の状態で軌道の平面性変位が大きくなり、1軸の外軌側車輪の横圧が増加する。アタック角が大きくなることによって、車輪フランジとレール間の等価摩擦係数が増加し、輪重が減少することで乗上がり脱線を引き起こす。更に分岐器の線形諸元の把握や通り変位などの確認に目視で行うことが多くあり,線形基準値の超過を見過ごすことにより軌道変位が生じるためである。
② 防止対策 保守管理上の軌道検査、整備の維持管理
分岐器の軌道変位検査では、基準線・分岐線側について設計値に対する平面性変位や通り変位が軌道整備基準値を超過しないように軌道検測管理を定期的に行う。また、分岐器内のレールを37kgから50kgNへ重軌条化し、道床厚を50mm程度増加させる路盤改良を行う。図面や曲線台帳に基づいた保守管理基準値により定期検査により検測し,超過傾向を示した箇所は軌道整備を行う。
3. 脱線形態 トングレール先端での乗り上がり脱線
① 原因 乗移り時の外軌側輪重減少
道床の沈下等によりトングレールが基本レールより高くなると、乗移り時に外軌側で大きな横圧が発生し、輪重減少することで、衝撃的横圧と輪重抜けにより脱線係数が限界を超え乗上がりが生じるためである。更にトングレール先端部では車輪踏面とフランジ先端付近の2点で接触する可能性があり,接触点が急激に変化し,トングレール先端部がリードレールに密着性がなくなり,1輪の異線侵入により脱線することである。
6番や8番分岐器などの分岐リード部での急曲線がある部位では、侵入速度の制限が必要となるが徐行や一旦停止など走行条件を設定していないことが考えられる。
② 防止対策 ガードレール設置とレール継目一体化
分岐器のトングレール先端にポイントガードを設置し、曲リードレール部分に脱線防止ガード設置する。
また、曲率を小さくしトングレール先端と曲線との間の直線部を2.1m確保する。更に分岐器前端の継目部を溶接し、レールを一体化し安定化する。
トングレール先端部の摩耗測定を測定器使用により列車の通過本数管理で検査することや,横圧によるトングレールの先端部の損傷や基本レールとの密着性(かみ合せ)についても検査頻度・確認が重要なため分岐器の使用頻度にあった定期検査が必要である。
また、分岐器曲線側はポイント部のトングレール、リードレールなどの摩耗の著しい部位の交換を頻繁に行うが、時期については分岐器検査や摩耗測定管理の結果を考慮し早めに交換を行うことが望ましい。