問題文 I-2
持続可能な社会実現に近年多くの関心が寄せられている。例えば、2015年に開催された国連サミットにおいては、2030年までの国際目標SDGs(持続可能な開発目標)が提唱されている。このような社会の状況を考慮して、以下の問いに答えよ。
(1)持続可能な社会実現のための機械機器・装置のものづくりに向けて、あなたの専門分野だけでなく機械全体を総括する立場で、多面的な観点から複数の課題を抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する解決策を具体的に3つ示せ。
(3)解決策に共通して新たに生じるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)業務遂行において必要な要件を機械技術者としての倫理の観点から述べよ。
模範解答1 (答案形式) 添削履歴 1回 2019.08.27 科目 機構ダイナ 専門事項 情報精密
(1)持続可能なものづくりの課題
①省人化
少子高齢化により、労働力の減少が進むため、ものづくりの機械への置き換えが必要となる。特に、従来の熟練度が必要だった作業やセル生産など多品種少量を機械化で対応するには、暗黙知を形式知に変える必要がある。
②省資源化
資源は有限であるため、資源を消費しない取り組みが必要。小型・軽量化や、リサイクルしやすい設計を行う、生分解材料を採用する等を行う。
③省エネ/エネルギの自家発電
AIやIoTの普及やEVシフトの影響で、電力消費が激増する。Normally Offのセンサの採用等による省エネや、環境エネルギから発電するエネルギーハーベスティング等の自家発電を検討する。
(2)課題「①省人化」の解決策
A.人工知能への暗黙知の伝承による形式知化
熟練工やセル生産担当者の作業データをカメラや各種センサで収集する。人が使用する工具や装置にもセンサを搭載し、加工組立時のデータを時間的に同期させて収集する。これら時系列の複数データを人工知能(AI)に学習させる。これにより、人の動作に含まれる暗黙知をAIに伝承し、デジタル化する。
B.AIを搭載したロボットの開発
上記Aで学習させたAIで制御するロボットを開発する。ロボットには、AI学習データを収集させたときと同様のカメラ、センサを搭載しする。ロボットのセンサで検出するデータをAIが学習データと照らし合わせて、ロボットは自身の動作を制御する。
C.レトロフィットによる既存装置のM2M化
ロボットによる省人化を行うためには、工場の既存装置を有効活用し、ロボットと連携することが必要となる。既存装置の場合、そのままではM2M対応できないものもあるため、レトロフィットを行う。パトライトのようにアナログ出力しか持たないものは、デジタルカメラで撮影し、画像処理で数値を取り出しデジタル出力できるようにする等の取り組みが必要である。
(3)リスクと対策
①データ不足によるAIの誤動作
AI学習データの質と量、バリエーションが不十分であると、AIが誤動作するリスクがある。その結果、ロボットによるものづくりが正しく行われない可能性がある。対策として、多くの熟練工やセル生産作業者のデータを収集するマルチエージェント化やGAN(敵対的生成ネットワーク)による半自動生成等によって、データを充実させる。
②通信遅延による誤動作
カメラや複数センサからの膨大なデータを実時間で通信・処理することになるため、通信遅延が発生し、それによりAIやロボットが誤動作や不具合を生じるリスクがある。工場の場合、配線の取り回し等の利便性から、今後、無線化が進むと考えられるため、高速通信可能でチャンネルの選択肢が多い5Gの採用や、エッジAIとすることで通信回数の低減等で対策する。
③サイバーリスク
AI、ロボット、工場装置等がオンラインで接続されるため、サイバー攻撃のリスクがある。通信を暗号化する等の対策が必要となる。
(4)業務遂行で必要な倫理的要件
①安全の確保: AIやロボットで省人化しても、人が介在する作業はゼロにならない。公衆の安全を確保するため、ロボットと人の共存を想定した本質的安全設計、安全防護と保護方策、使用上の注意表示を行う。
②データの保全: 単一のデータだけでは意味をなさなくても、複数のデータを組合わせることにより、個人や企業を特定できてしまうことがある。データ保護法を遵守し、顧客を守るため、サイバー攻撃のみならず、人を介した情報流出にも備える必要がある。
③省エネ対応: 今後、発展が見込まれるロボットやAIは電力消費を著しく増加させる。SDGsの地球環境の保全に対応するため、ロボットの軽量化や計算コストの少ないAI技術の開発、エネルギーハーヴェスティング技術の搭載等、省エネ技術の導入にも取り組む。
模範解答2 (簡易答案1) 添削履歴18 作成日2020/2/21 機械部門 科目:機構ダイナミクス・制御 専門事項 精密機器
(1) 課題とその分析
1.労働の機械置き換え:モータの回転運動を個々の労働に必要な運動に変換する機構を機構学に基づき小型設計し、人の代わりを機械にさせる。
2.自動運転:伝達機構の遊びを小さくして制御信号に対する駆動、操舵、制動のリスポンスを高めタイムラグを無くし高精度でより安全な自動運転をする。
3.輸送機器軽量化:炭素繊維や軽金属を用いて構造解析により強度を保ち軽量化設計し、機械の動作、移動に伴う燃費を低減する。
4.摩擦低減:機械の摩擦をトライポロジ理論で低減し効率を向上させエネルギロスをなくす。
(2)最重要と考える課題と具体的解決策
最重要課題は摩擦低減である。
解決策1.摩擦低減構造の設計技術
エネルギロスの小さな軸受の接触角、転動体の数および寸法、保持器の設計などのパラメーターをCAEで最適設計する。磁気やエアによる浮上構造にする。
解決策2.摩擦低減構造の精密加工
最適設計を具現化する為に真球度や嵌め合いなどの公差を小さくするため、工作機械ステージに精密エンコーダを設け閉ループ制御にして加工精度を向上させる。
解決策3.摺動面の潤滑向上技術
境界潤滑の摩擦係数μ=S/H(S:潤滑膜のせん断強さ、H:下地材料の硬さ)より硬質材料の上に軟質材料を成膜する。
(3)リスクと対策
1.静粛な為保全時に作業員が駆動に気付かず機械に巻き込まれる。対策はカバーをはずし危険個所があらわになったらインターロックでONできなくする。
2.元々静音な為音の異常による予知保全が困難になる。対策はモータ消費電力と回転数の関係のチェック、温度センサによるメカ的ロスの常時測定を行う。
3.元々静音な為音から故障モードを予測するのが困難になる。対策は小型マイクを設けておき必要な時に音を増幅して聞けるようにする。
(4)倫理観点の業務遂行要件
Ni等貴重金属を含むので小部品でもリサイクル容易なエコデザインにする。
模範解答2 (簡易答案2) 添削履歴0 作成日2020/2/22 機械部門 科目:機構ダイナミクス・制御 専門事項 精密機器
(1)課題とその分析
1.摩擦低減
機械の摩擦をトライポロジ理論で低減し効率を向上させエネルギロスをなくす。
2.労働の機械置き換え
モータの回転運動を個々の労働に必要な運動に変換する機構を機構学に基づき小型設計し、人の代わりを機械にさせる。
3.自動運転
伝達機構の遊びを小さくして制御信号に対する駆動、操舵、制動のリスポンスを高めタイムラグを無くし高精度でより安全な自動運転をする。
4.輸送機器軽量化
炭素繊維や軽金属を用いて構造解析により強度を保ち軽量化設計し、機械の動作、移動に伴う燃費を低減する。
(2)最重要と考える課題と具体的解決策
最重要課題は摩擦低減である。
解決策1.摩擦低減構造の設計技術
エネルギロスの小さな軸受の接触角、転動体の数および寸法、保持器の設計などのパラメーターをCAEで最適設計する。磁気やエアによる浮上構造にする。
解決策2.摩擦低減構造の精密加工
最適設計を具現化する為に真球度や嵌め合いなどの公差を小さくするため、工作機械ステージに精密エンコーダを設け閉ループ制御にして加工精度を向上させる。
解決策3.摺動面の潤滑向上技術
境界潤滑の摩擦係数μ=S/H(S:潤滑膜のせん断強さ、H:下地材料の硬さ)より硬質材料の上に軟質材料を成膜する。
(3)リスクと対策
1.音による危険察知困難
静粛な為保全時に作業員が駆動に気付かず機械に巻き込まれる。対策はカバーをはずし危険個所があらわになったらインターロックでONできなくする。
2.音による予知保全困難
元々静音な為音の異常による予知保全が困難になる。対策はモータ消費電力と回転数の関係のチェック、温度センサによるメカ的ロスの常時測定を行う。
3.音での故障モード判断困難
元々静音な為音から故障モードを予測するのが困難になる。対策は小型マイクを設けておき必要な時に音を増幅して聞けるようにする。
(4)倫理観点の業務遂行要件
Ni等貴重金属を含むので小部品でもリサイクル容易なエコデザインにする。
模範解答2 (完成答案) 添削履歴7 作成日2020/3/5 機械部門 科目:機構ダイナミクス・制御 専門事項 精密機器
1.課題とその分析
(1)摩擦低減
トライボロジによって摩擦を低減し効率を向上させエネルギロスを少なくする。ロスが少なくなった分エネルギが節約される。またエネルギ使用量が減り、更に摩擦で仕事をせずに熱、音になるエネルギも減り温暖化防止、環境保全に寄与する。
(2)労働の機械置き換え
駆動源の力を個々の労働に必要な運動に変換する機構を機構学に基づき設計し、人の代わりを機械にさせる。高齢化、労働力減少の対策に寄与する。
(3)輸送機器軽量化
炭素繊維や軽金属を用いて構造解析により強度を保ち軽量化設計し、機械の動作、移動に伴う燃費を低減する。省エネルギや環境保護に寄与する。
2.最重要課題:摩擦低減の具体的解決策
(1)転がり軸受の適用拡大化
大きな耐荷重が求められる場合でもすべり軸受ではなく転動体を使った転がり軸受を使い摩擦を小さくする。転動体に予圧を与える機構を設ける設計により軸受の剛性の高い転がり軸受となる。この方法には転動体としてはアンギュラ玉軸受、円すいころ軸受が適している。
(2)すべり面の低摩擦化
位置精度が求められる場合すべり軸受が適しているが転がり軸受よりも摩擦は大きい。そこですべり軸受のすべり面に溝を設け、その溝の深さよりも1〜3μm直径の大きなPTFE粒子を添加した潤滑剤を塗布し低摩擦にする。
(3)機構の非接触化
磁力又は空気圧力などを活用し浮上させることで、接触して摺動していた機構を非接触にして低摩擦化する。軸受では磁気軸受、空気軸受にして、軸を軸受から浮上させ非接触にする。磁気軸受は位置センサからのフィードバック信号を基に電磁石に流す電流値を調整することで位置精度を保つ。一方空気軸受は空気の平均化効果によって位置精度が保たれる。
3.リスクと対策
(1)作業時の危険察知困難
①リスク:従来品よりも静粛で振動もなく駆動するようになる。よって作業員が動いている機械を停止中だと勘違いする事によるヒヤリハットの増加リスクがある。
②対策
(i)カバーをはずした際に装置が自動的にOFFになるなどフールプルーフ設計にする。
(ii)駆動中のパトランプ、ブザーなどで危険の見える化・聞こえる化をする。
(2)予知保全困難
①リスク:従来品よりも静粛で振動もなく駆動するようになる。よって音の異常で予知保全を行うのが困難になる。その結果異常な状態での機械の運転が続けられ結果的に機械が暴走して事故につながるリスクがある。
②対策:機械を使った予知保全をする。摺動部の温度や駆動源の消費電力などをコンピュータとセンサを使って常時自動監視する。それらがいつもと異なる値を示したら摺動部に異常が発生したおそれがあると推定してアラートを出す。
4.倫理観点の業務遂行要件
(1)リサイクル推進
リサイクルしやすい設計にすることを要件とする。将来世代も引き続き貴重な資源を使える様にするためである。転動体は小さな部品だが合金鋼である場合が多く希少金属が含まれリサイクルされるべきである。(i)軸受交換のため取り外す際に転動体がばらばらに落ち散逸ない様にする。軌道輪の内外輪に転動体が挟まれ保持された状態ではずせるユニット化設計にするのを要件とする。
(ii)転動体がばらばらになってしまうねじを誤って緩めてしまわない様にする。そのねじのねじ山を特殊形状にするなど、フールプルーフ設計にするのを要件とする。
模範解答3 (簡易答案1) 添削履歴9 作成日2020/6/7 機械部門 科目:材料強度・信頼性 専門事項 強度設計
1.続可能な社会実現のための課題
①凹凸地で作業可能な農業機械の導入
世界中の様々な地域で農業生産性を改善するため、持続可能な食糧生産システムを担う凹凸地等世界の様々な地形でも耕せる高トルクな農業機械の開発が課題。
②アシスト技術を用いた介護機器の導入
あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保するため、ロボット技術で障がい者や高齢者の移乗をアシストする装着型機器・歩行支援機器の開発が課題。
③輸送機器への複合材量創生・プロセス技術導入
輸送機器の重量を低減し、運航時に消費されるジェット燃料の消費量を削減するため航空機構造部材に比強度・比剛性に優れたCFRP適用が課題。
④センサ・モニタリング技術によるレジリエントかつ持続可能なインフラ実現
レジリエントかつ持続可能なインフラ構築のため、機械構造物状態をセンサ技術によりデータを高精度に取得、点検・診断・補修の高効率化が課題。
2.最も重要と考える課題、課題への解決策
最も重要と考える課題は輸送機器への複合材量創生・プロセス技術導入。
①CFRP層間高靱性化技術を適用による衝撃強度向上
VaRTM成形よりCFRP強度をエポキシ樹脂で確保し、熱可塑性樹脂粒子をシート間に配列させ靱性を付与させる層間高靭性化技術により衝撃強度を向上する。
②異種材接合技術による強度の確保
CFRPとアルミ接合部における電食を防止するため、CFRPとアルミとの間にガラス繊維複合材料等の膜を挟みこむ技術を用いる。
③耐熱CFRPの力学特性評価技術の活用
ファン動翼などへの適用のため耐熱性を適切かつ合理的に評価するため、デジタル画像相関法により高温でのひずみ測定技術により力学特性を評価する。
3.解決策に共通して新たに生じるリスク
CFRP損傷は目視できない内部で生じるため、部品の疲労損傷進行による航空機墜落事故、衝撃強度の低下による自動車衝突安全性低下リスクが生じる。
4.リスクへの対策
損傷位置や規模をセンサで検出し、検出結果を基に構造健全性を診断し、損傷部品を適切なタイミングで修理交換することでリスクを防止する。
5.業務遂行において必要な要件
技術者倫理も高めるには、リスクマネジメントを実施し、CFRP適用に伴い損傷メカニズムが解明されていない要因は取り除き安全を確保する。これは技術士倫理綱領の公衆の利益の優先に相当する。
また社会持続可能性を高めてするには、CFRPの輸送機器への適用比率をより高める。これはSDGsの17の目標の7.3(2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる)に相当する。
模範解答3 (簡易答案2) 添削履歴0 作成日2020/6/8 機械部門 科目:材料強度・信頼性 専門事項 強度設計
(1) 持続可能な社会実現のための課題
①凹凸地で作業可能な農業機械の導入
世界中の様々な地域で農業生産性を改善するため、持続可能な食糧生産システムを担う凹凸地等世界の様々な地形でも耕せる高トルクな農業機械の開発が課題。
②アシスト技術を用いた介護機器の導入
あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保するため、ロボット技術で障がい者や高齢者の移乗をアシストする装着型機器・歩行支援機器の開発が課題。
③輸送機器への複合材量創生・プロセス技術導入
輸送機器の重量を低減し、運航時に消費されるジェット燃料の消費量を削減するため航空機構造部材に比強度・比剛性に優れたCFRP適用が課題。
④センサ・モニタリング技術によるレジリエントかつ持続可能なインフラ実現
レジリエントかつ持続可能なインフラ構築のため、機械構造物状態をセンサ技術によりデータを高精度に取得、点検・診断・補修の高効率化が課題。
(2) 最も重要と考える課題、課題への解決策
最も重要と考える課題は輸送機器への複合材量創生・プロセス技術導入である。
①CFRP層間高靱性化技術を適用による衝撃強度向上
VaRTM成形よりCFRP強度をエポキシ樹脂で確保し、熱可塑性樹脂粒子をシート間に配列させ靱性を付与させる層間高靭性化技術により衝撃強度を向上する。
②異種材接合技術による強度の確保
CFRPとアルミ接合部における電食を防止するため、CFRPとアルミとの間にガラス繊維複合材料等の膜を挟みこむ技術を用いる。
③耐熱CFRPの力学特性評価技術の活用
ファン動翼などへの適用のため耐熱性を適切かつ合理的に評価するため、デジタル画像相関法により高温でのひずみ測定技術により力学特性を評価する。
(3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策
(3)-1解決策に共通して新たに生じるリスク:CFRP損傷は目視できない内部で生じるため、部品の疲労損傷進行による航空機墜落事故、衝撃強度の低下による自動車衝突安全性低下リスクが生じる。
(3)-2リスクへの対策:損傷位置や規模をセンサにより検出した結果に基づき構造健全性を診断し、損傷部品を適切なタイミングで修理交換することでリスクを防止する。
(4)業務遂行において必要な要件
技術者倫理を高めるにはリスクマネジメントを実施し、CFRP適用において損傷メカニズムが解明されない要因は取り除き安全を確保する。これは技術士倫理綱領の公衆の利益の優先に相当する。
また社会持続可能性を高めるには、CFRPの輸送機器への適用比率をより高める。これはSDGs17の目標の7.3(2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる)に相当する。
模範解答3 (完成答案) 添削履歴3 作成日2020/6/13 機械部門 科目:材料強度・信頼性 専門事項 強度設計
(1)持続可能な社会実現のための課題
①凹凸地で作業可能な農業機械の導入
世界中の様々な地域で農業生産性を改善し、持続可能な食糧生産システムを構築するため、凹凸地等、世界の様々な地形でも耕せる高トルクな農業機械を開発することが課題である。
②アシスト技術を用いた介護機器の導入
あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保するため、ロボット技術で障害者や高齢者の移乗をアシストする装着型機器や屋内移動や外出時の移動等で活用できる歩行支援機器を開発することが課題である。
③輸送機器への複合材料創生・プロセス技術導入
輸送機器の重量を低減し、運航時に消費されるジェット燃料や走行時に消費されるガソリン燃料等の消費量を削減するため、航空機や自動車構造部材に比強度・比剛性に優れたCFRP積層板を適用し、その比率を高めることが課題である。
④センサ・モニタリング技術によるレジリエントかつ
持続可能なインフラ実現
レジリエントかつ持続可能なインフラ構築のため、機械構造物の損傷や歪状態をセンサ技術により高精度に取得し、健全性を診断することによって点検・診断・補修を高効率化することが課題である。
(2) 最も重要と考える課題、課題への解決策
課題は輸送機器への複合材料創生・プロセス技術の導入である。
①層間高靱性化技術の適用による衝撃強度向上
表面に熱可塑性樹脂を主成分とする層間強化粒子をCFRP積層板の強度上の弱点である繊維基材層間に付着させ、層間靭性を集中的に強化し、衝撃強度を向上させる。
②異種材接合技術による強度の確保
CFRP積層板と金属材料を組み合わせると電食のため金属表面層が腐食し、接合部が破断に至る。このため接着接合部にガラス繊維複合材料等の膜を挟み、電気的に絶縁することで電食を防止する。またCFRP積層板と金属材料の線膨張差を吸収できる柔軟性を持つシート接着技術により、熱応力による接合部の強度低下を抑制する。
③耐熱CFRP積層板の力学特性評価技術の活用
ファン動翼などにCFRP積層板を適用させるためには、高温における力学的評価が必要となる。このためデジタル画像相関法による歪測定技術を活用し、無孔圧縮、有孔圧縮、面内せん断、層間せん断等の力学特性を適切かつ合理的に評価可能とする。
(3)解決策に共通して新たに生じるリスクと対策
(3)-1輸送機器の事故発生リスク
CFRP積層板は、面外からの衝撃や繰り返し荷重により目視できない積層板内部で剥離や損傷が生じる。このため、部品の疲労損傷進行による航空機墜落事故
(3)-2予防保全のための構造健全性システムの導入や衝撃強度低下に伴う自動車衝突時の人身事故が発生するリスクが生じる。
輸送機器のCFRP積層板構造に光ファイバセンサを埋め込み、歪分布変動や構造に負荷された荷重履歴を高い分解能で計測する。次にマハラノス・タグチ法を活用し、計測した多次元データから評価基準からの逸脱を評価することで構造健全性を診断する。そして診断結果に基づき欠陥が想定される位置や規模を検出することで部品の構造劣化を適時に発見の上、修理、交換することでリスクを防止する。
(4)業務遂行において必要な要件
①技術者倫理
リスクマネジメントを実施し、輸送機器にCFRPを適用する際において損傷メカニズムが解明されない要因は取り除くことで安全を確保する。これは技術士倫理綱領の公衆の利益の優先に相当する。
②社会持続可能性
CFRP積層板の輸送機器への適用比率を高めることにより軽量化し、運航時に消費されるジェット燃料や走行時に消費されるガソリン燃料等の消費量を削減することでエネルギー消費量を削減する。これはSDGs世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させることに該当する。
解説
(1)課題の分析のしかたについて
抽出した課題それぞれについて、問われている目的に合致していることが明確に記せば、明解に解けます。(SDGsの問題であれば、汎用性のある内容で、持続可能な社会実現のねらいを示すように)
抽出する課題は、ただのマーケットニーズを示すのではなく、機械工学の立場の内容とすればわかりやすいです。例えば、この受講者様は当初、持続可能な社会実現のため、「再生可能エネルギーの導入による変革」を挙げていましたが、機械部門の課題ではなく、電気電子部門など他の部門の課題のようにも思える内容でした。
また他には「生産性の高い農業機械を導入する」を課題としていましたが、これが機械部門の課題であっても、会社の経営者がわかるレベルではなく、広い視点で機械部門としての課題として「凹凸地でも耕やせる高トルクな農業機械」と具体的にコーチング申し上げました。
このような指導の結果、この受講者様は、機械工学の立場で述べるとはどんな内容の課題にすべきかということが理解されたようです。
このほかにも、例えば持続可能な社会実現のための課題として、「IOT、センサー技術による設備機器の省エネ化・ライフサイクル管理の導入 」を挙げられていましたが、SDGsのうち、どの目標・目的に合致した課題を示そうとしているのかわかりにくいことを申し上げて、最終的に次のように絞り込みをしてもらいました。
その結果「センサ・モニタリング技術によるレジリエントかつ持続可能なインフラ実現」とし、SDGs9番目の目標であることがわかるような課題に修正することができました。抽出する課題は、ただのマーケットニーズを示すのではなく、機械工学の立場の内容としなければならないのです。
このほか、何を目指そうとしているのか、何が課題なのかを明確にし、課題を分解して目的と方策を簡潔に示すような表現にすること。
課題を表現する場合は、見出しと内容が同じような表現のダブリにはならないように注意するように。
(2) 解決策の提案、方策の考え方、書き方などについて
解決策は事業計画のような表面的な内容ではなく、具体的に技術応用の内容を示すことです。
(3)リスクの導き方、解き方についてどうしましたか
リスクは解決策によって生じるリスクであることがわかるように明確な因果関係を示すように。
かつ回りくどい言い方をせず、最後まで具体的な損害まで正しく表現するように。
(4)業務遂行に必要な要件について、技術者倫理、社会持続可能性は
業務遂行に必要な要件とは、提案内容(業務)に特化した要件にしなければなりません。
社会持続可能性は、業務内容の中からSDGsの中で最もふさわしい内容を選択して述べてください。
社会持続性は選んだ内容に対して、具体的になぜ相当するか根拠を示し、またSDGsの趣旨をわかりやすい言葉で表現することです。