R1/2019年 機械・ 材料強度・信頼性 Ⅱ−2−1
問題文 Ⅱ-2-1 (2枚以内にまとめよ)
長年使用した機械構造物の保守担当責任者として、構造強度的な観点から継続使用の可否を判断する場合、下記の内容について記述せよ。
(1) 調査、検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2) 検討を進める業務手順について、留意すべき点、工夫を要する点を含めて述べよ。
(3) 業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
模範解答1 (簡易答案1) 添削履歴9 作成日2020/4/2 機械部門 材料強度・信頼性 専門事項 強度設計
1.調査、検討すべき事項とその内容
1)機械構造物の故障部位や故障傾向の確認:これまでの故障履歴から頻繁に故
障する箇所や機械特性を把握する。
2)疲労破壊が想定される個所の確認:溶接部や異種材接合部等、長年の使用で
き裂が進行する可能性がある。
3)腐食による劣化状況確認:防食部の劣化や通常腐食が進行しない部位でも腐
食が進行し、腐食疲労や応力腐食割れが発生するケースがあり調査を行う。
2.検討を進める業務手順について
① 過去トラブル、類似製品や他業界でのトラブル事例から頻繁に故障する部品や構造、また機械特性を把握することで検査対象を絞り込む。
② 疲労破壊や腐食等、検査対象の部品毎に破壊形態や機械特性に応じた評価法を選択する。
③ 溶接部や摺動部等、目視できる部位は表面を磁化器により磁化させ、表面に着色した鉄粉を散布し、き裂付近の漏洩磁束によって凝集した鉄粉を視認することで疲労破壊の原因となるき裂を検出する。
④ 機械構造物の部材内部あるいは直接観察できない裏面や部品のはめ合い面に存在する疲労破壊の原因となるキズを超音波探傷試験で行い部材表面から検出する。
⑤ 腐食による塗装部の塗膜剥離や膜厚減少を目視や触診により確認する。また塗装面の上から母材表面を渦電流電磁場測定法により表面開口キズを検出する。
3.関係者との調整方策
① 磁粉探傷、超音波探傷等、様々な検査業務を1人で兼務することで多能工化し、人材育成するメリットを検査会社に促すことで生産工程の改善を進め効率化する。
② 機械構造物の寿命予測に関して、検査会社が提案する検査方法や検査器具は受け入れる代わりに寿命予測を行う構造設計理論に基づく解釈に基づく評価方法は検査会社に申し入れ、事前に食い違いを防止する。
③ 超音波探傷試験は定置式の自動超音波探傷試験装置を活用により省人化による効率化を図ることを検査会社に申し入れる。装置の利用により省人化、工程短縮が図れ、大幅に保守費を低減できるメリットと引き換えに装置を無償貸与するよう社内の資産管理部門に合意を得る。
以下はこの受講生様が練習課題としてお考えになった調整方策についての参考例です。
本講座では、ご自身が不安な知識について、このような方法で任意に練習課題の指導も受け付けております。
④ 超音波探傷試験は定置式の自動超音波探傷試験装置を活用により省人化による効率化を図ることを検査会社に申し入れる。装置の利用により省人化、工程短縮が図れ、大幅に保守費を低減できるメリットと引き換えに装置を無償貸与するよう社内の資産管理部門に合意を得る。
⑤ 磁粉探傷の塗装剥離作業の手間を省くため渦電流を用いたACFM(交流電磁場測定法)を活用するよう検査会社に申し入れる。この時、機具損料は高くなるが工程短縮、作業環境改善効果を説明して検査会社に効率化への協力を促す。
⑥ 検査用図面から検査用帳票を自動作成する機能及びデータベースサーバと通信可能なタブレットPCの利便性を点検・補修業者に伝え利用を促す。またクラウドでのデータ共有や同期による検査業務効率化のメリットを情報管理部門に伝え、検査会社への無償貸与の合意を得る。
模範解答1 (簡易答案2) 添削履歴2 作成日2020/4/7 機械部門 材料強度・信頼性 専門事項 強度設計
①機械構造物の故障部位や故障傾向の確認
これまでの故障履歴から頻繁に故障する箇所や機械特性を把握する。
②疲労破壊が想定される箇所の確認
溶接部や異種材接合部等、長年の使用でき裂が進行する可能性がある。
③腐食による劣化状況確認
防食部の劣化や通常腐食が進行しない部位でも腐食が進行し、腐食疲労や応力腐食割れが発生するケースがあり調査を行う。
(2) 検討を進める業務手順について
①検査対象の絞り込み
過去トラブル、類似製品や他業界でのトラブル事例から頻繁に故障する部品や構造、また機械特性を把握することで検査対象を絞り込む。
②評価法の選択
強磁性体で溶接表面に疲労による開口した割れ状欠陥の検出は磁粉探傷試験を選択する。一方、腐食による肉厚低下、また直接観察できない裏面や内部欠陥の検出は超音波探傷試験を選択する。
④表面探傷による検査
溶接部や摺動部等、表面のキズは磁化器により磁化させ、表面に着色した鉄粉を散布し、き裂付近の漏洩磁束によって凝集した鉄粉を視認することで疲労破壊の原因となるき裂を検出する。
⑤内部欠陥の探傷による検査
機械構造物の部材内部あるいは直接観察できない裏面や部品のはめ合い面に存在する疲労破壊の原因となるキズを超音波探傷試験で行い部材表面から検出する。
⑥腐食による塗装検査
腐食による塗装部の塗膜剥離や膜厚減少を目視や触診により確認する。
(3)関係者との調整方策
①検査会社への多能工活用要請
多能工の活用を検査会社に申し入れ、業務の進捗に併せて必要な場所に必要な人数を配置可能とすることで業務を平準化させ、効率化する。この時、業務量を平準化することで工程短縮によるコストダウン効果があることを説明して検査会社に効率化への協力を促す。
②検査会社への交流電磁場測定法活用要請
磁粉探傷の塗装剥離作業の手間を省くため渦電流を用いた交流電磁場測定法を活用するよう検査会社に申し入れる。この時、機具損料は高くなるが工程短縮、作業環境改善効果を説明して検査会社に協力を促す。
③検査会社との構造設計理論解釈食い違い防止の事前調整
機械構造物の寿命予測に関して、検査会社が提案する検査方法、器具を受け入れる代わりに構造設計理論に基づく寿命予測の解釈は受け入れるよう申し入れ業務を効率化する。
模範解答1 (完成答案) 添削履歴0 作成日2020/4/8 機械部門 材料強度・信頼性 専門事項 強度設計
(1)調査、検討すべき事項とその内容
①機械構造物の故障部位や故障傾向の確認
これまでの故障履歴から頻繁に故障する箇所や機械特性を把握する。
②疲労破壊が想定される箇所の確認
溶接部や異種材接合部等、長年の使用でき裂が進行する可能性がある。
③腐食による劣化状況確認
防食部の劣化や通常腐食が進行しない部位でも腐食が進行し、腐食疲労や応力腐食割れが発生するケースがあり調査を行う。
(2)検討を進める業務手順について
①検査対象の絞り込み
過去トラブル、類似製品や他業界でのトラブル事例から頻繁に故障する部品や構造、また機械特性を把握することで検査対象を絞り込む。
②評価法の選択
強磁性体で溶接表面に疲労による開口した割れ状欠陥の検出は磁粉探傷試験を選択する。一方、腐食による肉厚低下、また直接観察できない裏面や内部欠陥の検出は超音波探傷試験を選択する。
④表面探傷による検査
溶接部や摺動部等、表面のキズは磁化器により磁化させ、表面に着色した鉄粉を散布し、き裂付近の漏洩磁束によって凝集した鉄粉を視認することで疲労破壊の原因となるき裂を検出する。
⑤内部欠陥の探傷による検査
機械構造物の部材内部あるいは直接観察できない裏面や部品のはめ合い面に存在する疲労破壊の原因となるキズを超音波探傷試験で行い部材表面から検出する。
⑥腐食による塗装検査
腐食による塗装部の塗膜剥離や膜厚減少を目視や触診により確認する。
(3)関係者との調整方策
①検査会社の職長への多能工活用要請
作業現場において多能工の活用を職長に申し入れ、業務進捗に併せて必要な場所に必要な人数を配置可能とすることで業務を平準化させ、効率化する。この時、業務量を平準化することで工程短縮によるCD効果がある旨を職長に説明し効率化への協力を促す。
②検査会社への交流電磁場測定法活用要請
磁粉探傷の塗装剥離作業の手間を省くため渦電流を用いた交流電磁場測定法を活用するよう検査会社に申し入れる。この時、機具損料は高くなるが工程短縮、作業環境改善効果を説明して検査会社に協力を促す。
③検査会社との構造設計理論解釈食い違い防止の事前調整
機械構造物の寿命予測に関して、検査会社が提案す
る検査方法、器具を受け入れる代わりに構造設計理論に基づく寿命予測の解釈は受け入れるよう申し入れ業務を効率化する。
解説
(1)問題趣旨に対する考え方、取り組み方などについて
設問で問われている内容や趣旨をしっかり読み解くようにしてください。問題一つ一つにある言葉について出題者の意図を想像することです。
そして、問いに素直に端的に答えること。的外れにならないように注意して、問いに対して本質を示すように。各論ではなく考え方を示すことです。
問いに対して「ここではこの技術内容を示すべきだ」と判断するためには、技術的な体系をご自分の中で整理しておく必要があります。
実務での経験を問われているのだと、意識して答えるようにしてください。
的外れな答えにならないよう、特異なニッチの分野に没頭しないよう、汎用的な技術内容を選択するように注意してください。
そのためには、専門知識の引き出しを広げる必要があります。いわゆるキーワード学習のようにただ言葉の意味を暗記する便器用では通用しません。キーワードが示す技術の内容について、様々な視点から問われた場合を想定して、特徴、留意点、課題、具体的な活用法などを整理しておく必要があります。
(2) 論旨のまとめ方、書き方などについて
単刀直入にシンプルに表現できるように思考力、表現力を磨いてください。
特徴とは、第3者がみて即判断根拠となる内容であることです。特徴の裏側にある原理的な背景を示すことです。2つ示すのであれば特徴の違いがはっきり際立たせるように表現しなければなりません。
留意点は目的とかねらいを示し、それを読んで行動できるように具体的に示します。提案に添えることで、提案価値を高められる、独創的で経済価値を高めるものを考案します。
対策や行動を示す際にその理由や根拠を示してください。なぜなら、採点者が、答案中の理由や根拠を読み取ることで、その解答者が再現性のある考え方を持っていると認識でき、その結果採点者が採点しやすくなるからです。
説明に矛盾がないように注意してください。意味がわからない内容は書かないように。根拠なく、経験だけで答えることもよくありません。また記載にダブりがないように注意してください。こうした記述が答案中にあると、技術者としての信頼を失墜します。
技術士は人に教える職務と言われますが、自らの業務でも即座に判断できる程度の高い知識を保有していないと、人に教えることなどできません。そのような、根拠に富んでブレない知識、判断力を答案中に表すことです。
留意点として制約事項を挙げて、それが経験や知識であるかのように書く方もいます。慎重な姿勢はわかりますが、しかしそのものではいけません。この受講生様もこのような考えたようです。例えば、「シェル要素の特徴は薄肉形状への適用性が高い」それに対して、シェル要素の留意点が「3次元データをそのまま使えないため中立面の抽出が必要」では制約事項になっています。しかし3次元データを使おうとした解析者は、そのままでは使えず、結局仕方なく中立面を抽出せざるを得ません。つまり誰でも必然的に、すなわち留意点がわかっていても、いなくても、中立面の抽出はせざるを得ないのです。逆にこのことを知らないのは素人・・。このような留意点は提案として生きていないため、あまり好ましいとは言えません。
留意点とは、提案に添えることで、提案の価値、すなわち技術者の評価を高めるものでなければなりません。
留意点とは独創的な技術応用であり、経済価値を高めるものとお考え下さい。
事業主にプレゼンなどで留意点を伝えたときにどんな反応があるか想像してください。本来は歓迎されものですが、しかし留意点がもし「〇〇ができない」という制約事項などであった場合、事業主は失望するに違いありません。そして、すかさず質問を切り返してくるはずです。「では、それを乗り越えるには何をすればよいか」と。それが真の留意点です。