2018年4月6日 建設部門、施工管理科目の方の電話によるコーチング指導

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この日のコーチングによる指導時間は11時00分から、30分間行なわれ,その受講者様は建設部門、施工管理科目を目指す方で、居住地、東京から電話を用いて相談されました。V問題についてリスクがわからないとのご質問でした。


 

問題文
 我が国では、近年、平成23年3月東日本大震災、平成26年8月豪雨、平成27年9月関東・東北豪雨、平成28年4月熊本地震など、各地で自然災害が発生している。このように、連続する大規模地震、津波や集中豪雨のように、いままで経験したことのない自然災害が発生している。このような状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1)我が国の自然災害に対するインフラ、公共施設の社会資本の防災・減災に向けた対策における問題点、克服すべき課題について、幅広い視点から概説せよ。
(2)上述した課題を踏まえ、鋼構造の分野において、あなたが最も重要と考える技術的課題を2つ挙げ、それぞれについて解決するための技術的提案を示せ。
(3)あなたの技術提案それぞれについて、それらがもたらす効果を具体的に示すとともに、その技術的提案を実行する際のリスクや課題について論述せよ。


解答

(1)問題点、課題
1)インフラを粘り強い構造とする
自然災害でインフラの脆性破壊・全体崩壊が生じた場合、人命に危険が及ぶ。このため、従来の耐荷力増加対策に加え、塑性変形の許容によりインフラを粘り強い構造とする必要がある。
2)維持管理のコスト低減
インフラの防災機能を発揮するためには、部材が健全であることが前提となる。しかし、予算不足の状況下では、全施設への維持管理の継続が困難である。このため、インフラの周辺環境や重要度及び要求性能に応じた維持管理により、コストの低減を図る必要がある。
3)技術者の確保
インフラは災害時の救援活動拠点となるため、早期復旧が必要であるが、技術者が不足している。このため、産学官が連携した人材育成、残業時間の削減や週休二日制の導入等で労働環境の改善を図り、技術者を確保する必要がある。
(2)重要な技術的課題と技術的解決案
課題1)鋼橋を粘り強い構造とする
提案1)鋼橋の優れた塑性変形能の活用、部分破壊の許容および地震エネルギーの吸収により、全体崩壊・脆性破壊を抑える。
@塑性設計
FEM弾塑性解析で特定した崩壊時の塑性ヒンジの回転角と全塑性モーメントMpで崩壊荷重を算出し、部材の全体崩壊に対する安全性を照査する。また部材断面は、局部座屈が生じること無くMpに達することができるコンパクト断面を導入する。
A制震設計
犠牲部材である鋼材ダンパーを鋼上部工部材または上下部工間に設置し、鋼材の弾塑性履歴による減衰付加により地震エネルギーを吸収することで、橋体の全体崩壊を防止する。また、免震支承を併用により、優れた復元力を付加した合理的な制震設計とする。  
課題2)鋼橋の維持管理のコスト低減
提案2)性能照査型設計法の導入により、鋼橋の重要度の高低に応じた維持管理手法を設定し、効率的な維持管理予算の配分を行う。
@重要度が高い橋への維持管理
緊急輸送路や設計耐久年数が大きい橋は、社会的重要度が高いため、予算の集中投資によるフルスペックの維持管理で長期間に渡り部材機能の低下を防止する。具体的には、ICTを活用した自動点検(センサー・赤外線カメラ等)による損傷の早期発見・補修や長寿命化工法(金属溶射・クラッド鋼等)の導入により部材の高耐久化を図る「予防保全型維持管理」行う。
A重要度が低い橋への維持管理
利用頻度が少なく残寿命が短い既設橋は、架け替えや撤去までの短期間のみ部材機能の低下を防止できればよい。よって耐久性が低い工法(Ra-V等)や簡易点検(遠望目視等)等の低予算での維持管理を行う。
 (3)効果・リスク・課題
1)塑性設計について
@効果:脆性破壊・全体崩壊を防止することで住民の避難時間を確保し、人命を守ることができる。
Aリスク:a)地震後の塑性化断面の耐荷力が不足した状況下において、住民や車両が鋼橋を通行した場合、崩壊が生ずる危険がある。
b)FEM弾塑性解析は設計負荷(入力やモデル化が複雑)が大きく、解析結果の善悪の判断が困難で設計ミスに気付かない恐れがある。
B課題:a)活荷重に対する塑性断面の耐荷力照査や塑性化部材を削除したモデルでの解析により、通行荷重の制限や補強部材の設置を検討する。
b)プッシュオーバー解析等の大変形を前提とした準静的解析や損傷事例との対比チェックにより、設計ミスを防止する。
2)重要度の高低に応じた維持管理
@効果:全施設に対するフルスペックの維持管理が不要となり、コストの低減と維持管理の継続ができる。
Aリスク:重要度の低い既設橋に設定した残寿命が実際の残寿命より短くなる場合、採用した工法が耐久年数不足となり、損傷が発生・拡大する。
B課題:劣化シュミレーションで残寿命の設定精度向上を図る。


ここからは添削、コメントです。

2)重要度に応じた維持管理
@効果:全施設に対するフルスペックの維持管理が不要となり、コストの低減と維持管理の継続ができる。
■講師コメント  これはアセットマネジメントの目的であり、この対処を始める上での前提であったはずです。それが実施した結果の効果になるというのでは、当たり前すぎて答案の答えとしの意味がうすいです。わかりやすすぎて技術士試験の解答として価値がない(点が取れない)ということです。もう少し二次的発展的な影響も含めた広い意味での効果をお考えください。

Aリスク:劣化の進行が想定より速い場合、重要度の決定時に設定した寿命より実寿命が短くなる。この状況下で予算が不足し、追加の維持管理が不可である場合、損傷が発生や拡大が生ずる。
■講師コメント  ここで分析するのは提案内容すなわち「重要度に応じた維持管理」のリスクです。
「決定時に設定した寿命より実寿命が短くなった場合」は、計算誤差であり、そのことはこの提案内容の責任範囲外ということになります。
 さらに付帯条件として「予算が不足し、追加の維持管理が不可である場合」も付け加えるとしたら、それも責任範囲外です。
 そしてで2つの条件が同時に起こった場合に限定することは、非常に狭い前提条件の時にのみ成り立つ、いわば汎用性の小さいリスクということになり、答えとしての価値が低下してしまいます。

 そして「重要度に応じた維持管理」をどんどん進めていったらどうなるか、仮想の例に置き換えて考えるべきことをお話ししました。
 コーチングの結果、「重要度が高い橋への集中的な維持管理」という方策に対して、「緊急輸送路や設計耐久年数が大きい」というだけで社会的重要度を設定することは無理があることが判明しました。すなわち重要度はデータ分析により判断すべきものであり、その判断にはリスクが伴い、若手技術者なら誤る可能性が高いことを言うように指導しました。
 重要度設定から見直して、そこに専門家としての見識を表現する、その様なことが技術者コンピテンシーを高めることに役立つことを申し上げました。