R2年 建設部門、施工計画、施工設備及び積算の答案について添削致しました。 20201029
この試験答案ⅠⅡⅢの評価はAABという評価でした。その理由としてⅢで明確に課題を定義できず、そのため解決策が発散したことがあげられます。これがB評価の原因と思われます。課題の分析で多用されている「いかに・・する」という定型文は、問題の難しさを再確認するだけで、真の課題を見え無くしていますので、問題の本質に向かうようにされると良いでしょう。このような分析が甘いという弱点は、ⅢだけでなくⅠ、Ⅱ-2でも見られ、論述する上での弱点のように拝見いたしますので、改善が可能です。
敗因について「専門知識の不足」を挙げる方がたくさんいらっしゃいます。しかし、技術士試験の答案の通りの知識をあらかじめ暗記しておくなどということは無理です。このⅢ問題の公共工事品確対策は経験と共に合理的に考えることを要する問題でした。このような対応力は練習を重ねていけば、身につけられます。実際、講座の受講生様でそのように問題を変えられて正解されている方もいらっしゃいます。本研究所ではコーチング形式で応用力を高める練習をしておりますので、このようにどこがいけないかわからない、どう書いたら正解できるかわからない方に是非お勧めいたします。
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問題 Ⅰ-2
我が国の社会インフラは高度経済成長期に集中的に整備され、建設後50年以上経過する施設の割合が今後加速的に高くなる見込みであり、急速な老朽化に伴う不具合の顕在化が懸念されている。また、高度経済成長期と比べて、我が国の社会・経済情勢も大きく変化している。こうした状況下で、社会インフラの整備によってもたらされる恩恵を次世代へも確実に継承するためには、戦略的なメンテナンスが必要不可欠であることを踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1) 社会・経済情勢が変化する中で、老朽化する社会インフラの戦略的なメンテナンスを推進するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。
(2) (1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で示した解決策に共通した新たに生じるリスクとそれへの対策について述べよ。
(4)(1)〜(3)を業務として遂行するに当たり必要となる要件を、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。
1.課題の抽出
以下に多面的な観点から課題を抽出し、分析する。
■前置きは不要です。
(1)いかに効率よく維持管理を進めるか
■これは出題趣旨そのものになっています。
高度経済成長期に集中的に整備された社会インフラは建設後50年以上を経過するものの割合が増加し、老朽化や不具合が顕在化してきている。また、わが国の社会・経済情勢も大きく変化し、少子高齢化による働き手の不足、財政不足による予算の確保困難といった状況にある。このような現状において、社会インフラによってもたらされる恩恵を次世代へも確実に継承するためには、ストック効果を最大限発揮させることが重要であるとの観点から、いかに効率よく維持管理を進めるかが重要である。
■主題の追認、確認のような内容は△になります。技術士としての提案を考えましょう。
(2)いかに新技術を開発するか
上述のように働き手の数が不足するため、それをカバーする方策が必要であるという観点から、なるべく人に頼らない技術を開発することが必要である。開発支援や実証フィールドの提供といった方策が求められる。 ■↑間接的、消極的になっています。 積極的な姿勢で提案をするようにしましょう。
(3)いかに都市の集約化を進めるか
高度経済成長期には広範囲に渡って社会インフラが整備された。財源不足により限られた予算でこれらの維持管理を行わなくてはならないという観点から、余計な手間や費用をかけないように対象を絞り込み、分散した都市を集約させることが必要である。
■考え方はわかりますが、つまりはコストダウンの基本的な取り組みに留まっており、建設部門施工としてどのような意味があるのか疑問です。本来は専門家として技術応用の視点からダウンのテクニックをプレゼンをするのが大切です。
2.最も重要な課題
前述の課題の中から最も重要な課題として、いかに効率よく維持管理を進めるかを取り上げる。
3.解決策
(1)選択と集中
①ストック効果を算出
安全・安心、生活の質の向上、生産性向上といったストック効果を定量化し、選択の指標とする。
■政策議論ではなく、コンサルタントとして実現可能な提案をするようにしましょう。
②優先順位の設定
地域ごとの人口推移や経済活動の状況などをモニタリングし、必要な社会資本ストックに優先順位を設定することにより、選択と集中を徹底する。
■「選択と集中」の説明が冗長です。選択や意思決定ではなく、求めているのは「メンテナンス」ということを理解しましょう。
③廃止や廃棄
地方では、場合によっては使用中止や廃棄、廃止となる構造物も現れる。代替手段の確保や地元住民への丁寧な説明が重要となる。
(2)予防保全
①確実なメンテナンスサイクルの実施
2015年から社会インフラの5年に一度の点検が義務付けられ、現在2巡目を迎えている。点検・診断・措置・記録といったメンテナンスサイクルを確実に実施することによって、施設に不具合が起きてから対策を行う事後保全から、施設に不具合が生じる前に対策を行う予防保全に転換して効率的な維持管理を行う。
■「予防保全」は主題にほぼイコールです。これを具体的に①〜③の項目で提案しましょう。
(3)新技術の活用
■↑単に新技術では△になります。
①ICTの活用
ドローンによる点検により、作業を効率よく安全に行える。また、各種センサーで計測したデータをリアルタイムに送信することで、これまで人が目視で確認してきた劣化の情報を継続して収集・分析でき、データベース化も可能となる。
②デジタルトランスフォーメーション(DX)
技術が進展しており、AI、ビックデータ、5Gといった新たな潮流が起こっている。建設部門においても、これらのデジタル技術やデータの活用を推進することにより、業務の進め方を革新的に変化させ、社会インフラ維持管理の効率化を図る。
■「予防保全」は主題にほぼイコールです。これを具体的に①〜③の項目で提案しましょう。
4.新たに生じうるリスクと対策
■もっと大きなリスク、深い答えを提案しましょう。試験でリスクを推論させられている理由は何かを考えてみましょう。
(1)新たなリスク
省力化や機械化、AIの活用、業務の効率化などが進むことで、若手技術者の技術力低下や、限られた条件への対応能力低下が懸念される。
(2)対策
対策として、一定の教育や資格制度を拡充することが必要である。
5.業務の遂行にあたり必要となる要件
業務を進めるにあたっては、常に公益確保を優先させ、安全・安心な社会資本ストックを構築し、維持し続けていくという意識を持つことが重要である。
■「業務の遂行にあたり必要となる要件」とは
まず、(1)〜(3)を遂行するために技術士としてしなければならないことです。
技術士は利益確保だけでなく、仕事の質を高めて下記2点も満たす必要があります。それは、
1「技術者倫理」を高めるには何をすべきか。
2「社会の持続可能性」を高めるには何をすべきか。
この2つを高めて、提案した業務を行うにはどうするか、具体的に述べるようにしましょう。
Ⅱ−1−4
鉄筋コンクリート構造物の劣化機構について次のうちから2つを選び、それぞれについて、劣化現象を概説せよ。また、選んだ劣化機構について、劣化を生じさせないよう事前にとるべき対策を各2つ以上述べよ。
① 中性化
② 塩害
③ 凍害
④ 化学的侵食
⑤ アルカリシリカ反応
1.中性化
(1)劣化現象
コンクリート中に二酸化炭素と水が存在することにより、元々アルカリ性であったコンクリートのpHが下がり中性に近づく。
CO2があるとどうしてpHが下がるのか。現象のメカニズムを説明できていません
「中性に近づく」とは「中性化」の言葉の意味か言葉の言い換え。
これにより鉄筋の不動態皮膜が破壊され鉄筋が腐食する。鉄筋が腐食すると体積膨張によりコンクリートにひび割れを発生させ、コンクリート構造物の耐荷力、耐久性を低下させる。
(2)事前にとるべき対策
・フレッシュコンクリートの水セメント比を低くする。
・高炉スラグ微粉末を添加してコンクリートを緻密化する。
・表面含浸材を塗布して二酸化炭素の侵入を防ぐ。
2.塩害
(1)劣化現象
コンクリート中に塩化物イオン、水が存在することにより、鉄筋の不動態皮膜が破壊され鉄筋が腐食する。中性化と同様に鉄筋が腐食して体積膨張しコンクリートにひび割れを発生させ、コンクリート構造物の耐荷力、耐久性を低下させる。コンクリート中の塩分侵入は、建設時の骨材に内在するものや、融雪剤が含まれた水が浸透することによるものなどに起因する。
(2)事前にとるべき対策
・表面保護塗装を行い塩化物を遮断する。
・エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いて鉄筋の防錆を行う。
Ⅱ−2−1
図のような地形を横断する2車線道路橋の橋脚1基(直接基礎、高さ18m)を河川区域内に建設する工事を責任者として実施することとなった。この業務には仮設の方法・内容を確定することも含まれている。なお、提内地は耕作利用されており、現場へアクセス可能な道路は無いものとする。以上を踏まえて、以下の内容について記述せよ。
(1)検討すべき事項(関係者との調整事項は除く)のうち工事の特性を踏まえて重要なものを2つ挙げ、その内容について説明せよ。
(2)業務の手順を述べた上で、業務の工程を管理する際に留意すべき点、工夫を要する点について述べよ。
(3)業務において必要な関係者との調整事項を1つ挙げ、業務を効率的・効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
1.検討すべき事項
(1)仮設アクセス道路
現場へのアクセス可能な道路は無いため仮設アクセス道路の設置について検討する必要がある。段丘崖や流水部側からのアクセスは避けるため、方法としては水田側からの土工による仮設道路か仮桟橋形式の仮設道路が考えられる。仮桟橋形式は水田やブロック積護岸への影響が少ない、出水期の河川阻害率が小さいといったメリットがあるがコスト増となる。
(2)周辺への環境対策
現場は河川区域であり流水部が近接していること、水田が隣接していることから、汚水・汚泥の流出による環境汚染が懸念される。仮締切の施工を確実に行う、コンクリート打設時の養生を確実に行うなどして周辺環境への配慮を行う。
2.業務の手順および行程を管理する際の留意点、工夫点
・調査・測量を行う。周辺環境や支障物件について調査を行い、必要に応じて聞き取り調査も行う。業務範囲に仮設の方法・内容も含むため測量においては重要性が大きいことに留意する。工夫を要する点は測量にドローンや3Dスキャナを活用して効率化することが考えられる。
■「適正な利潤」だから「適正な工期」、「適正な設計」は単なる建前論に留まっています。上記の問題は1で課題として取り上げたほうが良いでしょう。
・施工計画を作成する。河川区域であることから出水期・非出水期を考慮した行程作成に留意が必要である。コンクリート打設については、材料や施工方法を検討することによりひび割れ対策を行うことに留意が必要である。工夫を要する点としてはFEM解析によるひび割れ対策があげられる。
・仮設アクセス道路を設置する。ここでは仮桟橋形式を想定する。大型の重機や仮設資材が現場に搬入されることになるため農道、水田、ブロック積護岸に損傷や影響を与えないように留意する。
・仮締切を施工する。汚水が流出しないように確実な施工に留意する。
・型わく、鉄筋、コンクリートを施工する。養生を確実に行い汚水の流出を防ぐことに留意する。
・仮締切、仮桟橋を撤去する。新設橋脚やブロック積護岸などを損傷させないように留意する。
■↑これらが本題です。もっと詳しく述べましょう。
3.関係者との調整方策
必要な関係者との調整事項は農家との調整・協議を取り上げる。影響のある農家と調整・協議を行うことは当然ながら、地区の農家の責任者にも申し入れを行い工事の理解を得る。また、工事の説明会等において、3Dによる説明を行うことで、理解度が増し業務を効率的に進めることができる
■近隣住民は関係者ですが、「業務を効率的・効果的に進める」こととして、もっとふさわしいものがあるはずです。
この問題では、特段近隣調整はテーマとして挙っていません。
また調整内容自体が物足りなくなっています。
3Dは位置関係が直観的にわかりやすいことはありますが、しかしだからと言って工事の影響についての納得性が高まるとは思えません。
Ⅲ−2
「公共工事の品質確保の促進に関する法律」には、品質確保のために、発注者の責務として公共工事の品質確保の担い手が育成・確保されるための適切な利潤を確保することが出来るように予定価格を適正に定めることが、また、受注者の責務として適正な額の請負代金を定める下請契約の締結、技術者・技能者の労働条件の改善等が明記されている。また、一般社団法人日本建設業連合会からは、下請取引の適正化を図るため受注者である元請企業(元請負人)自らが発注者と適正な請負代金を締結することが不可欠であるとの方針が示されている。このような状況を踏まえて、施工計画、施工設備及び積算分野の技術者として、以下の問いに答えよ。
(1)担い手の育成・確保のため、元請負人(受注者)が下請負人(協力会社)と契約を締結する場合、適正な利潤を確保することができる下請契約を締結する上での課題(留意点)を、多面的な観点から抽出し、その内容を観点とともに示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示した解説策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
1.課題の抽出
(1)いかに働き方改革を実現するか
■この「いかに・・する」文は真の課題を見え無くしています。改めたほうが効果的です。
担い手3法(品確法、入契法、建業法)の改正により、担い手育成・確保のための適正な利潤を確保することができる適正な予定価格の設定や適正な工期の設定は発注の責務であることが示された。続いて改正が行われた2019年6月の新担い手3法は、頻発する災害に対応する担い手の確保や長時間労働の削減、生産性の向上など建設産業へ求められていることへ対応するものであった。それらの観点からも働き方改革を実現することが必要である。
■これらは法の考え方とその追認、また背景に留まっています。
(2)いかに品質を確保するか
少子高齢化時代を迎え働き手が減少している現状においては、技術を伝承することが難しく今後の公共工事において品質の低下が懸念される。
■「働き方改革」の中身が問われてることを理解しましょう。
技術者・技能者の労働条件改善の観点から、新技術を開発し活用することによって業務の効率化を図り、それにより技術の伝承が可能となり品質の低下を防ぐ。
答えの方向違いになっています。「適正な利潤が得られる下請契約」へはどうつなげるか考えましょう。
(3)いかに安全を確保するか
今後建設現場には不馴れな技術者・技能者、外国人労働者が多く従事することになりる。多様な担い手確保の観点から、安全対策を一層充実させると共に、多様なコミュニケーションや文化の違いにも対応した安全対策も必要となる。
■こちらも答えの方向違いのようです。「適正な利潤が得られる下請契約」へはどうつなげるか考えましょう。
2.もっとも重要な課題
前述の課題の中からもっとも重要な課題として、いかに働き方改革を実現するかを取り上げる。
3.解決策
(1)適正な契約の締結
①適正な工期の設定
新担い手3法の改正においても、適正な工期の設定は発注者の責務であることが示された。元請・下請間においても同様であり、週休2日制や夏期における熱中症対策も考慮に入れた適正な工期の設定が求められる。
■「適正な利潤」だから「適正な工期」、「適正な設計」では単なる建前論に留まっており、答えになりません。この問題は1で課題として取り上げたほうが良いでしょう。
②適正な設計変更
適正ない工期の設定と同様に、適正な設計変更も発注者の責務であることが示された。元請・下請間においても、工期延伸の正当な理由がある場合や、当初契約と施工条件が変更となるなどした場合には、適正な設計変更が必要である。
(2)週休2日制の推進
直轄工事においては週休2日制が普及してきたところであるが、今後は地方自治体発注の工事においても普及率を高めていくことが必要である。そのためには、労務者においては日給月給の割合が大きいという普及を妨げている課題を解決するために、発注者・業団体をはじめとして取り組みを進めているところである。
(3)建設キャリアアップシステムの導入
建設キャリアアップシステムを導入することで、建退協の管理や現場の労務管理が効率化される。また、これまで技能者の中には経験や技能が賃金に適切に反映されていない事例が認められた。建設キャリアアップシステムの導入によって、技能者の経験や技能を「見える化」することによって適切な処遇が受けられることが必要である。
■3解決策を書きすぎなので、全体のバランスを図るようにしましょう。
(4)新技術の活用
①ICTの活用
建設工事においてICTを活用することで業務の効率化を図る。土工においてICT施工を適用することにより、これまでは丁張を設置して出来形管理をしていたが、丁張が不要となり施工履歴データによる管理が可能となり労働条件の改善に繋がる。
②AIの活用
AIを活用することにより「人の作業」の支援だけでなく「人の判断」の支援を行うことで業務の効率化に繋がる。
4.新たに生じうるリスクと対策
これまで建設業は厳しい環境の中で技術力や経営力を積み上げてきたが、今後それら伝承ができないことが懸念される。デジタル化やリモート化といった新たな潮流に対応していくことで技術、経営の基盤を築くことが対策としてあげられる。