問題文 (3枚以内にまとめよ)
「ものづくり」の革新的な高効率化を実現するとともに、新たなビジネスモデルを創出し、これまでにない製品を生み出そうする第4次産業革命を実現するための取り組みが世界中で行われている。この中で、共通して取り組まれているのは、「ものづくり」のデジタル化とIOT(Internet of Things)の有効活用である。この「ものづくり」のデジタル化に関連して、以下の問いに答えよ。
(1) 「ものづくり」とは、単なる製造プロセスを示すものではないことを具体的に説明せよ。さらに、その「ものづくり」の1プロセスである製造プロセスのデジタル化における課題を多面的な観点から3つ以上抽出し、分析せよ。
(2) 抽出した課題のうち、最も重要と考えるものを1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3) デジタル化における課題に対する解決策に共通して新たに生じるリスクを2つ以上挙げて、それへの対策について述べよ。
模範解答1 (簡易答案1) 添削履歴6 作成日2020/8/4 機械部門 加工・生産システム・産業機械 専門事項 加工機設計
(1)ものづくりの意味と製造プロセスの課題
(1)-1.ものづくりにおける製造プロセスの意味
製品は、企画から廃棄に至るまで、各セクションが関わっている。アフターサービスを含めた経済活動が「ものづくり」であり、製造プロセスはその一部分である。
(1)-2.製造プロセスにおけるデジタル化の課題
(1)-2-1.取得データの多形式対応
設備メーカー、NC装置、及び型式の違いによりデータ抜き取り方法やデータ形式が異なる。そのため、データ取得、及び処理の工数増加が課題である。
(1)-2-2.事前検討化による初期検討費用増大
作業体勢を含めたライン構成について、事前検討が可能となるが、データ構築に多大な工数、及び費用が発生する為、初期検討費用、検討期間削減が課題である。
(1)-2-3.加工条件、及びノウハウの流出
加工条件等のノウハウに直結する項目、及び稼働時間と加工個数のように加工条件の推定材料となるデータについても、流出防止が課題となる。
(2)取得データの多形式対応が最重要課題であり、解決策を記載する。
(2)-1.測定項目の選定、及び判定実施
取得が必要なデータの中で、加工品質に影響の大きい設備、項目の順位付けを行い、状態監視を行う項目を決定する。多品種少量生産する設備では、測定項目に対し、加工条件変更に連動し閾値やフィルタ位置を変更する設定まで行う必要がある。
(2)-2.目的別設備測定モードの導入
不良品の流出防止と予知保全では、同一設備においても測定項目は異なる。不良品流出防止として、主軸共振振動の常時監視、予知保全目的では、刃具送り軸早送りにてサーボデータを測定するモードを作成し、定期測定にて測定する。振動やサーボデータは自動取得し、サーバーで閾値判断するシステム導入等が対策となる。
(3)-1.アラーム設定値と通報間隔の設定
設定値と通報間隔により、アラーム通報が頻発するリスクがある。通報間隔と流動品質設定を適切にすることで、品質確保と工数低減が実現可能となる。
(3)-2.技術の体系化実施
システムが自動判別する為、担当者が詳細知識を得る機会が減少する。技術の体系化を行うことで、不具合発生時の暫定設定値や稼働停止の判断が実施可能となる。
模範解答1 (簡易答案2) 添削履歴1 作成日2020/8/9 機械部門 加工・生産システム・産業機械 専門事項 加工機設計
(1) ものづくりの意味と製造プロセスの課題
(1)-1.ものづくりにおける製造プロセスの意味
製品は、製品企画から、廃棄に至るまで、各セクションが関わっている。アフターサービスを含めた経済活動が「ものづくり」であり、製造プロセスはその一部分である。
(1)-2.製造プロセスおけるデジタル化の課題
(1)-2-1.取得データ形式の多種・多量への対応
設備メーカー、NC装置の違いにより、同一軸、同種のサーボデータ取得であっても、抜き取り方法やデータ形式が異なる。そのため、データ取得、及び取得データの処理の工数増加が課題となる。
(1)-2-2.事前検討化による初期検討費用増大
作業体勢を含めたライン構成について、VR等による事前検証が可能となったが、データ構築に多大な工数、及び費用が発生する。初期検討費用、及び検討期間削減が課題となる。
(1)-2-3.加工条件、及びノウハウ流出対策
加工条件等のノウハウに直結する項目、及び稼働時間と加工個数のように加工条件の推定材料となるデータについても、流出防止が課題となる。
(2) 取得データの多種・多形式対応が最重要課題であり、解決策を記載する。
(2)-1.測定項目の選定、及び自動判定設定実施
ワークの寸法公差、及び機械の構造からNC全軸取得するのではなく、影響の大きい軸に限定し、複数のサーボ項目(位置偏差とセミフル誤差等)を取得する。多品種少量生産の設備では、加工条件変更に対し、自動判定の閾値やフィルター設定周波数を連動し変更する設定まで行う必要がある。
(2)-2.目的別設備測定モードの導入
不良品の流出防止と予知保全では、同一設備に対しても測定項目は異なる。不良品流出防止として、主軸共振振動の常時監視、および予知保全目的では刃具送り軸早送りにて、サーボデータを測定するモードを作成し、定期測定にてデータ取得する。振動やサーボデータは自動取得し、データサーバー側で自動判定を行うシステム導入が対策となる。
(3)製造プロセスデジタル化の課題解決策に対する共通する新しいリスクとその対策
(3)-1-1.フィルター設定域に対する近傍振動の見落とし
主軸回転の一次、及び高次振動はピークが立ちやすいので、通報設定に対しフィルターを設けるが、補器振動値等が主軸高次に近い条件では、フィルターカットによる見落としのリスクが生じる。
(3)-1-2.詳細知識低下に伴う長時間停止発生
自動判定により、詳細知識が無くても通常運転は可能だが、不具合時の対応能力が落ちている為、原因判断、復旧作業が遅くなり長時間停止のリスクが発生する。
(3)-2-1.ピーク値の推移確認実施。
一定期間のピーク値の平均が、導入初期に対し一定量を超えた時点でアラーム通報化する。
(3)-2-2.詳細知識低下に対する技術体系化実施
技術の体系化、教育実施により、不具合時の暫定対策が実施可能となる。
模範解答1 (完成答案) 添削履歴0 作成日2020/8/11 機械部門 加工・生産システム・産業機械 専門事項 加工機設計
(1)ものづくりの意味と製造プロセスの課題
(1)-1.ものづくりにおける製造プロセスの意味
製品は、製品企画から始まり、製造し出荷後もアフターサービスを行うことが必要である。これらの各セクションの関わりによる経済活動がものづくりであり、製造プロセスはその一部分である。
(1)-2.製造プロセスのデジタル化の課題
(1)-2-1.取得データの多種・多形式対応
設備メーカー、NC装置、及び型式によって、同一NC軸、同一データであっても、取得方法やデータ型式が異なる。そのため、データ取得方法、及びデータ処理工数増大が課題である。
(1)-2-2.事前検討化によるコスト・検証期間増大
作業姿勢を含めた製造ラインの構成に対し、VR等による事前検討が可能となったが、データ構築に多数の工数が発生する。そのため、初期検討費用、及び検討期間の削減が課題となる。
(1)-2-3.データ流出防止
設備メーカー等と設備の接続により、加工条件を含めたノウハウの流出が課題となる。加工条件のようなノウハウに直結する物だけでなく、稼働時間と生産個数等の加工条件を推定できるデータについても、流出防止が必要である。
(2)設備は劣化していくため、日々の保全活動を行うことによって状態を維持することが、製造プロセスを正常に稼働するカギとなる。そのため、保全活動に必要な多種・多形式データ取得対応が、最重要課題と考える。
(2)-1.測定項目の選定、及び自動判定設定実施
加工対象ワークの使用目的や寸法公差、及び設備の構造から影響度の高い軸を選定する。選定した軸に対し、解析目的や手順を検討の上、位置偏差やセミフル誤差等の複数サーボデータを取得する。多品種少量生産を行う設備では、加工条件変更に対し、自動判定する閾値やフィルターの設定周波数域についても、自動変更する設定が必要である。
(2)-2.目的別設備判定モードの設定
不良品の流出防止目的と予知保全目的では、同一の設備であっても、測定項目は異なる。不良品流出防止目的では、主軸位置偏差を取得し、主軸回転異常の常時監視を行う。予知保全目的では、刃具送り軸早送りを折り返し運転を行い、セミフル誤差過大にてガタを測定するモードを設定し、定期測定にてデータを取得する。取得したデータをサーバー側で自動判別し、アラーム発報するシステムも同時導入を行えば、相乗効果が得られる。
(3)-1.各解決策にて、共通して新たに生じるリスク
(3)-1-1.フィルター設定域の近傍振動の見落とし
主軸回転数の一次、及び高次周波数は振動ピークが発生する為、フィルター設定を行うことが多い。主軸補器の振動周波数が、フィルター領域に発生した場合は、フィルターでカットされてしまう。この状態では、アラーム発報がなく、振動不具合の見落としが発生するリスクが生じる。
(3)-1-2.詳細知識不足による長時間停止発生
自動判定システムの導入により、通常運転時は詳細知識が無くても、稼働可能である。しかし、不具合が発生した際には、対応能力が低下しているため、原因判断や復旧作業に時間がかかり、長時間停止発生のリスクが生じる。
(3)-2.新たに生じたリスクの解決策
(3)-2-1.ピーク値の推移確認
各フィルター設定域に対し、ピーク値を取得し、一定期間毎のピーク値の平均値を算出するプログラムを導入する。導入初期時のピーク値平均、及び1週間、1か月前のピーク値平均に対し、2割等の一定量以上増加した際にも、アラーム発報する設定を行う。
(3)-2-2.詳細知識低下に対する技術体系化実施
対象設備に対する詳細知識については、保全や生産技術等各部門のベテラン担当者によって、技術体系化を実施する。体系化した上で、教育を実施することで、不具合発生時において、暫定流動可否判断や復旧工事時間の短縮が可能となる。
解説
(1)課題の分析のしかたについて
前段の問いについては、後に続く問題を解くためのヒントとして活用ように。
(今回の問題では、PLMとIoTなどの関係については、あまり述べないことです)
(2) 解決策の提案、方策の考え方、書き方などについて
客観的な視点で記載することに努めてください。
消極的なことを書かないことです。(できないことを書くのではなく、これが解決したら課題が推進できるような書き方に徹することです。)
結論に至るまでの前段を書くように。(いきなり結論に行ってはいけません)
機械技術士にふさわしい内容を書くこと。(×でなければよい という否定的な話ではなく、積極的な客先提案みたいにとらえること)
問題文に沿って回答すること。(共通して発生したリスクであれば、共通した点を考えて、記述することです。)
一般論(一般人の常識)ではなく、機械技術士としての工学的技術応用を含む解答とすること。
(作業に優先付けすることなんて当たり前のこと。どのような基準で優先付けを行うかを記載することです。)
(3)リスクの導き方、書き方などについて
3については、2で推進したことに対するリスクを書くこと。
別な事項に由来するリスク(働きがい改革)に差し替えてられる場合は、本質をついていないので、差し替えられないかセルフチェックするように。
リスクは提案内容によって新たに生じた物で、滅多に発生しないが、発生すると損害が大きいものを選択することです。
複数のリスク・・・と問題にある場合は、それぞれのリスクを挙げ、その対策案を記述すること。
まとめ
技術士答案の合格の要件は何か、とよく問われますが、はっきりしたものはありません。
いただいた上記の論文作成法として解説したこと、すなわち技術士論文のナレッジを地道に実行していくしかありません。
まずは正しく設問の趣旨を解釈して解答することです。
今回の試験問題Ⅲ-1では、最初の問い「「ものづくり」とは、単なる製造プロセスを示すものではないことを具体的に説明せよ」は、後に続く問いのヒントであると解釈して活用できたかどうかが合否の分かれ道でした。
そして、問題文に沿って、当たり前ではなく、独創的に機械技術士にふさわしい内容を書くことです。
リスクについても、論理的に正しい分析ができれば楽勝で合格できます。