H27年 機械部門_機械設計 Ⅲ-2 問題 模範解答と解説
問題文
経済産業省と厚生労働省によって提案された「ロボット介護機器開発5ヵ年計画」においては、介護者の負担を低減するための介護機器、歩行等をアシストする介護機器、認知症の人を見守るための介護機器などが提案されている。今後の社会において、このような介護機器の役割はますます重要になっていくと考えられる。このような現在の日本の社会背景から、以下の問いに答えよ。
(1) 具体的な介護機器の例を1つ挙げて、その機器の開発・設計・導入・普及のために発生するであろう課題はどのようなものがあるかを、機械設計者の観点から多面的に述べよ。
(2) (1)で述べた課題に対し、あなたが最も大きな課題と考える項目を1つ挙げ、その課題を解決するための具体的方策を提案せよ。
(3) (2)で述べた提案がもたらす効果やメリットを示すとともに、そこに潜むリスクやデメリットについて述べよ。
模範解答
介護機器の一つであるパワーアシストスーツを例に挙げ以下を述べる。
1.開発、設計、導入、普及のための課題
①安全確保
パワーアシストスーツは身体に直接装着するものであり、スーツの誤作動により関節を損傷する危険性があるため人体を保護する方策は重要である。
②身体的負担の軽減
このスーツは高齢者の使用も考慮しているため、フレームをハニカム構造にするなど強度を保ちつつスーツの小型化、軽量化を行い使用者の負担軽減を実施する必要がある。
③稼働時間の延長
介護の現場で使用するため電池を大容量化し稼働時間を可能な限り延長する必要がある。また、急速充電を実現し、充電が完了した電池を交換することでスーツの稼働を止めないよう設計を行う。
④信頼性
スーツを使用中にアシスト機能が停止した場合、全荷重が人体に掛かるため品質を向上し不具合を起こさない製品にすることが大事である。
2.安全確保のための具体的方策
①FMEA(故障モード影響解析)
FMEAにて構造部品に起こりうる故障を予測し、予測した故障に発生確率、影響度を定量的に評価し優先度を設定する。優先度が高い故障から対策を行うことで、考えられる不具合を事前に改善することが出来る手法である。例えばスーツのメインモータの軸受について解析を行い、考えられる故障モードを列挙する。摩耗、発熱、損傷などの故障モードを評価し、総合した評価値の高いモノから優先に設計上の改善、対策を検討する。
②危険除去設計
製品事故の原因となるものを取り除く、または低減するよう設計を行う。スーツの不具合により関節が損傷するリスクがあるため、スーツの関節部に角度検出センサを設け、人体の関節の可動域を超えたことを検出した場合モータを停止させる措置を取る。同時に、関節の可動域外ではモータを起動できないよう設定し人体を保護する。
また、万一角度検出センサが故障した場合に備え、物理的に関節を保護するストッパーを設置することで予想外の不具合にも備える必要がある。
③フォルトトレランス設計
フォルトトランス設計により、製品に不具合が生じても予備の系統に切り替えて運転を継続する設計を行う。万一スーツの全電源を突如喪失した場合、アシスト機能が停止し、持ち上げている荷重が急激に使用者に掛かり使用者や介護者が怪我をする可能性がある。そのため、アシスト機能を急に失った場合でも本体側に設けた予備の電池にてアシスト機能を継続させる二重防護をとる。
3.上記提案の効果や潜むリスク
①効果
FMEAや危険除去設計を行ったことにより、問題が発生する前に潜在的な故障や不具合を予防したことにより品質向上が見込まれる。さらに製品開発の初期段階に大きな作業負荷を掛けることにより、製造工程での事故発生予防や製造工程の効率化に向けた改善などに結びつき、初期工程にて品質を作り込むことができるフロントローディングも実現できる。
②潜むリスク
安全設計を行うが不具合の予測や対策の検討により開発期間に遅れが生じ、市場に投入する時期が遅れるリスクがある。市場への投入が遅れた場合、納期の延滞により顧客の信頼を損なう恐れや、他の競合企業などに市場を占領されることがある。対処法としてコンカレントエンジニアリングを適用し、複数の工程を同時並行で進め、各部門間での情報共有や共同作業を行う事で、工程の短縮を実現させ納期短縮を実現する。
解説
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