問題文
道路をはじめとする社会インフラについて、その機能を時間的・空間的に最大限に発揮させるよう、「賢く使う」ことが重要となっている。特にネットワークの形成が進んでいる高速道路を「賢く使う」ことについて、以下の問いに答えよ。
(1)高速道路を「賢く使う」ことが重要となっている社会背景を述べよ。
(2)高速道路の使い方の観点から、その機能が十分に発揮されていないために発生している課題について、多面的に述べよ。
(3)(2)で掲げた課題のうち1つについて、これを解決するために高速道路を「賢く使う」方策を挙げ説明せよ。また、その方策を進める上での留意点を述べよ。
模範解答
(1)高速道路を「賢く使う」ことが重要な社会的背景
都市部の高速道路では、高速道路のネットワークが概成しているが、特定の経路や特定の時間帯に交通量が集中し、ネットワーク全体で効率的な使われ方となっていない。そのためICT技術による適切な経路選択を行い、交通流全体の平準化を図り、既存の高速道路ネットワークを最大限活用する。
これにより、人とモノの移動コストを下げ、生産力を拡大し、我が国の国内総生産の増加を図ることが求められている。
(2)高速道路の使い方により不十分な機能発揮の課題
①広域的な最適ルート選択による速度向上
ITS(高度道路情報システム)の一環であるVICS を活用し、渋滞や事故などの道路交通問題を解決する。
これは、広域範囲(約1,000km)で区間毎の所要時間データ受信を行い、カーナビ画面で最適ルートを選択し、広域的な交通流全体の速度向上を図るものである。具体的な情報提供方法は、以下のとおりである。
イ)FM多重放送
全国に設置したVICS-FM放送局からのFM放送波により県単位の広域情報を一括して提供する。なお、受信している県の情報と近隣県境付近の情報を提供する。
ロ)電波ビーコン(ITSスポット)
全国の高速道路ネットワーク上に設置された約1600箇所の電波ビーコンからの交通渋滞・リンク旅行時間・通行規制・通行障害等の情報について、高速・大容量、双方向通信によりリアルタイムに情報提供する。なお、電波ビーコン通過時にカーナビに蓄積された道路プローブ情報(基本情報、走行・挙動履歴)をアップリングする。
ハ)光ビーコン
主要な一般道路に設置した光ビーコン(近赤外線)により、30km程度先までの一般道路情報を中心に提供する。情報の内容は、渋滞・リンク旅行時間・規制・駐車場情報・区間旅行時間などである。
(3)広域的最適ルート選択し速度向上策及び留意点
①方策
VICS システムの上記3方式によりカーナビ搭載車へ交通情報を発信し、次の情報提供を行う。
イ)渋滞回避支援
広域的(約1,000km)な交通渋滞情報をFM多重放送、電波・光ビーコンから受信し、カーナビ画面へ簡易図形・画像・音声により表示を行う。
これにより、リアルタイムに最適ルートを選択し渋滞回避支援を行う。
ロ)安全運転支援
渋滞箇所について、追突事故防止のため渋滞末尾の位置、及び視距の悪い急カーブの手前で電光表示・警戒標識等により注意喚起する。
また、道路状況(落下物・交通事故発生・路面凍結・積雪箇所等)を事前に情報提供し、注意喚起を行い安全運転の支援を行う。
ハ)災害時の支援
災害発生と同時に災害内容(場所、規模、通行規制等)をカーナビに情報提供する。
地震発生時(震度5以上)の場合は、発生と同時にアラートを鳴らし、緊急地震速報を提供する。地震発生時は緊急を要するため、カーナビ画面表示と同時に音声で警告する。
音声内容は、地震概要(震源地、発生時間、マグニチュード)等の他、ハザードランプを点灯し減速させ、ただちに路肩部への停車を促し、安全運転を支援する。
②留意点
渋滞要因を排除し、速度向上を図るため、カーナビ画面・音声で以下について注意喚起する。
・IC合流部付近では、追越し車線に交通量が偏る傾向があり、交通平準化のため、合流部の約2km手前から、キープレフトを促す。
・サグ部では、勾配の変化に気づかず速度低下を起こし、また追越し車線に交通量が偏る傾向がある。交通の平準化及び適正速度の確保のため、サグ部手前でキープレフトの遵守と加速を促す。
解説
模範解答2
(1)高速道路を「賢く使う」社会背景
我が国は、人口減少・少子高齢化の進行、災害の激甚化、社会資本の老朽化、国際競争の激化等、厳しい社会情勢下に置かれている。道路は、社会経済活動を支える重要な役割を担っている。近年、都市環状道路の整備により、複数ルートを選択可能な高速道路ネットワークが進展している。
さらに、情報通信技術が飛躍的な進歩を挙げており、道路分野でもICTの取組みとして、全国の高速道路上を中心にITSスポットを設置しサービスが開始されている。ITSスポットとETC2.0を用いて、道路交通情報を効率的に収集・提供が可能となっている。
一方、物流は、労働者が不足しており、特に長距離トラックドライバー不足が深刻である。さらに、インターネット通販の普及で、配送が小口化・多頻度化する等多様化している。また、長距離高速バス利用も飛躍的に伸びており、渋滞がドライバーの過労の原因ともなっている。
このため、ヒトやモノが安全・快適に移動することができるように、ICT技術を用いて高速道路を「賢く使う」社会が求められている。
(2)機能が発揮されていないために発生している課題
①高速道路は、高規格であるものの、高速走行を確保するため、地震・降雨・風雪による通行止めや速度規制が発生している。このため、自然災害時においても交通確保が可能なネットワーク整備に課題がある。
②高速道路は、一般道に比べて死傷事故率が低いものの重大事故が多発している。そこで、人と車と道路を結ぶ安全な高速道路空間確保が課題である。
③高速道路の出入りは、インターチェンジであり、間隔が広く不自由であることから、一般道での渋滞回避のため、大型車が生活道路へ流れ、生活環境悪化や事故が発生している。高速道路利用率向上が課題である。
④料金所渋滞は、ETCによりほぼ解消したものの、本線渋滞が発生しており、定時制・信頼性が損なわれている。そのため、円滑な交通確保が課題である。
(3)円滑な交通を確保するための方策
①渋滞回避:サグ部での速度低下を防ぐため、簡易LED情報板やエスコートラインと連動させ速度回復を図る。上流側では、車間距離確保を促して、ブレーキ抑制を図り、交通の整流化に取り組む。また、トンネル入口部では、天候による照度調整に加え、交通量に応じた視環境改善を図る。
②交通事故削減:画像により、進行方向前方の道路状況を事前に知らせる事で事故回避を図る。ETC2.0は、大容量通信が可能であり、渋滞後尾、落下物、車線規制、降雪・降雨状況等の情報提供が考えられる。さらに、休憩施設駐車場利用状況を知らせる事で、満車の場合は、事前に休憩を促す。また、災害回避情報(地震発生・降雨規制予告)提供により、地震時の安全な停車と通行止め事前情報を提供し安全・安心に繋げる。
③道路整備:プローブ情報を元に、交通状況の把握が可能となる。そこで、本線渋滞解消を目的に、データーを元にシミュレーション技術を用いて、付加車線設置、車線増設、加減速車線・付加車線の延伸、視環境改善等を効率的に決定して整備を図る。
(4)円滑な交通を確保するための留意点
①渋滞回避:ETC2.0から得られるプローブ情報を元に走行時間、渋滞状況、渋滞原因、迂回経路を導き出しETC2.0を用いて迂回路へドライバーを誘導する。料金が割高だと迂回されないため、渋滞回避に寄与したインセンティブの付与が可能な料金施策に繋げる。
②交通事故削減:高速道路での重大事故の多くは、逆走と追突事故である。逆走は、車線毎にGIS情報を持たせることで、通行車線情報の把握ができ、カーナビを用いて逆走防止支援を行う。追突事故防止は、ドライバーの安全運転を支援する先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及により解消を図る。
③道路整備:一般道も含めた安全・安心を確保するため、交通量、事故発生状況、ネットワーク整備状況を勘案しながら、費用対効果の高いスマートIC整備により、高速道路利用率向上に繋げる。なお、交通量増加に伴い、渋滞発生が懸念されるため、暫定車線の解消や付加車線整備時期に留意する。
解説
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