R2年、2020年 衛生・廃棄物・資源循環 Ⅲ−1 問題 模範解答と解説

Ⅲ-1 環境と成長の好循環に結びつく環境課題の解決策(ソリューション)をビジネスチャンスになるような廃棄物処理が求められている。このような状況を考慮して、以下の問いに答えよ。

(1)あなたが専門とする分野における廃棄物処理上の今日的な環境課題について、技術者としての立場で多面的な観点から抽出し、その内容を観点とともに示せ。

(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を一つ挙げ、その課題に対してビジネスチャンスに結びつくような廃棄物処理上の複数の解決策(ソリューション)を示せ。

(3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。

模範解答1簡易答案形式1衛生、廃棄物 専門:処理施設計画  2021/4/18

1.環境と成長を結ぶ環境課題解決策とその観点

1)  廃棄物燃焼での熱電併給による産業構築

廃棄物燃焼での熱を有効利用できず排出している。廃棄物発電で回収しているが現状発電効率20%程度。発電と熱供給で回収を徹底する。焼却性能向上での公害問題を解決により廃棄物焼却設備を需要先近傍に設置し、電気と熱を供給するシステムを構築する。熱供給は、利用可能な工場・農業に販売し収益を得る。

工場へ今まで熱販売がなかった理由は何か。それを克服すること。

⇒湾岸限定を外します。ダイオキシン問題等でNIMBY施設であり、熱を利用しやすい農地や工業地帯の需要先近傍に立地していなかった。大規模化で安定連続運転、焼却性能もあがり公害問題もなくなった。

2)  マテリアルリサイクルでの情報化による廃棄物安定調達

廃棄物は、分別が悪く安定供給できないため、リサイクル品質・量が悪いため売値が安価であった。

廃棄物は品質が悪く安定した供給が見込めず、リサイクル品質が悪く量を供給できない。リサイクルは、安定した廃棄物量と高い再生品質が必要。

このためには排出源の工場等の各製造段階で回収する。排出重量を遠隔管理し必要時に素材と量を収集が可能となる。これにより高い再生品質により製品価格・採算性の向上が見込める。

3)廃棄物のメタネーション等による燃料化

廃棄物は化石燃料由来も含まれ燃焼により排出され炭素循環できていない。廃棄物をガス化し、H、CO、CO2としメタネーションでメタン化、FT反応でナフサ・軽油等の燃料化する。有効利用後CCU等でCO2回収し循環構築する。炭素循環と廃棄物処理を両立できる。

2.重要課題「上記1」の解決策

2.1 解決策 

1)工場ボイラの代替エネルギーとして収益化

焼却性能向上により廃棄物発電施設を製造工場近傍に設置可能となった。電気と熱を供給し収益化する。化石燃料を使用した産業用ボイラの代替として供給する。産業ボイラの代替であり、設置場所は問わない。廃棄物100tでC重油130万円の代替エネルギーになる。安定した価格でCO2削減になるメリットがある。

2)農業温室ハウスの代替エネルギーと光合成CO2供給よる収益化

農業温室ハウスに熱供給する。光合成に必要なCO2供給も行うことで農産物育成にも活用でき収益化できる。温室ハウスは、化石燃料ボイラを個別に設置で熱とCO2を供給している。この代替で設置場所は問わない。

3)水冷コンデンサ・ヒートポンプにより地域熱供給し暖房の代替

国内では、低温排熱を廃棄していた。これを水冷コンデンサやヒートポンプ採用により低温排熱を回収する。回収した熱を温水で供給することで、地域の暖房や給湯に使用できる。コペンハーゲンでは、熱供給会社が市中の大部分を廃棄物処理施設の熱エネルギーで供給(最大247MJ)している。

3.リスクとその対策

リスク:熱供給先の喪失

産業用に供給する場合は、安定した需要と収益を見込めるが景気変動等で需要先を喪失する場合がある。その対策として地域の冷暖房用として熱供給を実施する

安定した販売とCO2削減に貢献できる。また電気と熱の需要・市場価格に応じて送付先を選択化する。

模範解答1 簡易答案形式2 衛生、廃棄物 専門:処理施設計画  2021/5/3

(1) 廃棄物処理での環境と成長を結ぶ環境課題解決策

1) 廃棄物燃焼での熱電併給によるビジネス:

廃棄物処理は、NIMBYで立地が悪く廃熱を有効利用できず、発電効率20%程度で効率が悪かった。発電と熱回収を両方徹底する。焼却性能向上で公害問題解決により、焼却施設を需要先近傍に設置し電気と熱を併給する。電気は電線網へ、熱供給は利用可能な需要先に販売し収益を得る。

2) マテリアルリサイクルビジネスでの廃棄物安定調達の情報化:

廃棄物分別が悪く安定供給できないため、リサイクル品の品質が悪く、供給量に依存するため売値が安価になる課題がある。排出源の工場の各製造段階で回収する。排出重量を遠隔管理し必要時に高品質で量も回収できる。これによりリサイクルで高い品質で高価格により採算を向上する。

3) 廃棄物のメタネーション等による燃料化ビジネス:

廃棄物発電は、燃焼により一部回収するが大部分は大気へ放出され有効利用できない。化石燃料はGHG発生源として課題がある。廃棄物をガス化でH、CO、CO2に分離し、メタネーションでメタン化等で燃料化する。発生するCO2も有効利用し、バイオ燃料として新たなビジネス展開する。

(2) 最も重要な課題と、その解決策・ソリューション

廃棄物燃焼での熱電併給によるビジネス

1)   工場ボイラの代替エネルギーとして収益化

公害問題があったが、焼却性能向上により廃棄物発電施設を製造工場近傍に設置可能となった。電気と熱を供給し収益化する。工場の化石燃料ボイラの代替として供給する。安定した価格でCO2削減になるメリットがある。

2) 農業温室ハウスの代替エネルギーと光合成CO2供給での収益化

上記1)と同様に農地近傍での設置可能となった。農業用温室ハウスに供給する。また光合成に必要なCO2供給も行うことで農産物育成にも活用でき収益化する。

3) 低温排熱を利用した地域熱供給による収益化

これまで廃棄していた低温排熱を水冷コンデンサやヒートポンプを採用し80℃温水等で暖房や給湯に活用する。上記1)と同様に都市部に設置可能となった。安定した収益源となる。

(3) 新たに生じうるリスクとその対策

1)リスク : 温室効果ガス発生源として廃棄物発電への制限が入る。廃棄物中には、化石燃料由来のプラスチック等が含まれており、炭素税や焼却への制限が想定される。炭素税で利益が出ない。さらにプラ類の焼却不可の場合、プラ選別コスト、熱回収量半減により運営が不透明となる。

2)対策 : ①廃棄物処理施設にCCU導入による燃料化:排ガス処理後にCCUで排ガス中のCO2を回収により運転を継続できる。ただし運転コストが、3割上昇し採算性が悪化する。余剰電力での水素製造と連携しメタン化やメタノール化の燃料化で収益を得る。

②メタン発酵導入による燃料化:焼却が不可となった場合、選別装置でプラを選別する。有機物はメタン発酵でCH4とCO2を生成し、同様にメタン化やメタノール化の燃料化で収益を得る。

模範解答1  答案形式 衛生、廃棄物 専門:処理施設計画  2021/5/7

(1)廃棄物処理での環境と成長を結ぶ環境課題解決策

1)廃棄物燃焼での熱電併給によるビジネス

廃棄物処理は、NIMBYのため立地が悪く廃熱を有効利用できず、発電効率20%程度で効率が悪かった。発電と熱回収を両方徹底により総合効率100%弱達成できる。焼却施設を需要先近傍に設置し電気と熱を併給する。電気は電線網へ売電し、熱供給は蒸気や温水で利用可能な需要先に販売し、徹底した熱回収により収益を得て新たなビジネスとする。性能向上による環境問題解決により都市部で新たなビジネスが可能である。

2)DXによるリサイクルビジネスの発展

廃棄物は分別が悪く、廃棄物の供給が安定しない。そのためリサイクル品の品質が悪く、供給量に依存するため売値が安価になる課題がある。排出源である工場の各製造段階で回収、その排出重量を遠隔管理により必要時に高品質で必要量を回収するDX化を推進する。これによりリサイクルビジネスで、高い品質で高価格により採算性を向上できる。

3)廃棄物メタネーションによる燃料化 

廃棄物発電は、燃焼しその一部の熱を回収するが大部分は大気放出され有効利用できていない。廃棄物中にはプラも含まれ温室効果ガス発生源として課題がある。廃棄物をガス化でH2、CO、CO2に分離し、メタネーションでメタン化し燃料化する。発生するCO2も有効利用しバイオ燃料として新たなビジネスを展開し収益を得る。

(2)最も重要な課題と、その解決策

廃棄物燃焼での熱電併給によるビジネス

1)工場ボイラの熱電併給によるビジネス

廃棄物燃焼は、ダイオキシン等の公害問題があった。焼却性能向上により廃棄物発電施設を製造工場近傍に設置可能である。工場に電気と熱を供給し収益を得る。その工場で使用していた化石燃料ボイラの代替として供給する。さらにバイオマスエネルギー分をJ-クレジット等で削減量をクレジット化し、追加収益を得る、

2)農業ハウスエネルギーでの収益化

廃棄物燃焼性能の改善により農地近傍での設置も可能となった。熱を農業用温室ハウスに供給する。また排気ガス中のCO2もCCU設備で回収し供給する。光合成に必要なCO2供給も行うことで農産物育成にも活用でき収益化できる。売電・熱供給・CO2供給で収益を複数で得る。

3)低温排熱を利用した地域熱供給による収益化

これまで利用せず、排気していた低温排熱を水冷コンデンサやヒートポンプを採用し、80℃温水等で暖房や給湯に活用する。高温排熱は発電、低温は熱供給で徹底した熱回収を行う。インフラエネルギーとして安定した収益源となる。供給先が複数化により収益の安定化が図れる。

(3)新たに生じうるリスクとその対策

1)リスク:さらなるCO2削減でカーボンマイナス目標により排出規制強化が予想される。バイオマスを含む廃棄物燃焼排ガスも該当する。

CO2排出ゼロまたはマイナスでは、廃棄物の焼却処理できない。処理インセンティブや売電・熱販売を得ることができず運営が困難となる。

2)対策:①CCU+燃料化でカーボンリサイクル

CCU+燃料化でカーボンの循環を構築でき、カーボンマイナスを実現し運営を継続できる。解決策として再エネ余剰電力でH2を製造し、回収CO2とH2でメタン化やメタノールで燃料化、販売し収益を得る。既存の廃棄物発電も本施設を追加により継続運営できる。

②メタン発酵設備導入による燃料化

燃焼を伴わない廃棄物処理方法で燃焼不可時も対応可能である。廃棄物のメタン発酵である。廃棄物を選別装置で、有機物とその他を選別する。有機物はメタン発酵の嫌気消化によりCH4とCO2を生成できる。これを用いてメタン化やメタノール化で燃料化し、これを販売し新たな収益を得る。カーボンニュートラルと収益化を両立できる。

解説

 テーマにないことを記入しても、試験官から高く評価してもらえません。課題解決策では、メインの事項を明確に記入するようにしましょう。副次的なものを最初にもってこないとか、今までになかったビジネスは何かを明確にするようにしてください。「燃焼効率を上げて最大限熱回収→公害防止で街中に建設できる。そして熱供給→熱供給がメインで行く」など。

 見出しの書き方は、簡潔に短く、コロンとかは無くて構いません。

 留意点としては、ランニングコスト削減などではなく、経済性の高まること、例えばビジネス化などで新たに儲かることを記入するのが良いでしょう。ここではカーボンプライシングで排出権を肩代わりし収入にかえるなどの提案です。解決策の主題であるビジネス提案として解答する。副次的なものは不要です。単なる低炭素など提案しても仕方ありません。それはテーマ違いです。カーボンプライシングで収入を得ることを知友芯に考えるように。

R2年、2020年 情報・情報基盤 Ⅰ−2 問題 模範解答と解説

Ⅰ-2  小売業の会社において、キャッシュレス決済のシステム導入を検討している。利用者提示型のコード決済であり(顧客がスマホでQRコードやバーコードを提示し、それをスキャンすることで決済する)、自社が独自に顧客に提供するシステムである(他社のコード決済事業者を利用しない)。システム構成としては、顧客が所有する市販のスマートフォン、小売業の店舗に設置するキャッシュレス端末、キャッシュレス端末の決済データに基づき決済処理を行う決済システムとする。この会社の情報システム部門の立場から、このシステムの非機能要件(NFR : Non Functional Requirements)に関して、次の問いに応えよ。

(1) 技術者としての立場で、多面的な観点から重要と考えられる非機能要件を抽出し、その内容を示せ。

(2) 抽出した要件のうち最も重要と考えられる要件を1つ挙げ、その要件に対する複数の解決策を示せ。

(3) 上記(2)で挙げた解決策が要件を十分に満たしているか否かを評価する方法を示せ。

(4) 業務遂行に当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から述べよ。

模範解答1答案形式 情報工学、情報基盤  専門:ウェブシステム 2021.1.17 

( 1 )重要と考えられる非機能要件

1)セキュリティ

 他人によるなりすましを防ぐ為、スマホを使ってキャッシュレス決済を行う顧客の本人性を認証する必要がある。また、個人情報やプライバシーその他機密データを保護する為、店舗の端末−決済システム間の通信経路および決済システムのバックエンドに保持する決済データの暗号化が必要である。更に、サーバとデータのアクセス権の設定と制御を厳密に行う必要がる。

2)可用性

 決済インフラとしての本サービスの位置づけ踏まえ、サービス停止を起こすことのないようソフト、ハード、通信経路を多重化し、可用性の向上を図る必要がある。

3)パフォーマンス(性能)

 店舗のレジ業務を円滑にし、顧客の利便性を高める為、決済アプリ、店舗端末、通信回線、決済システムの性能に配慮する必要がある。

4)スケーラビリティ(拡張性)

 キャンペーンの実施や年末の繁忙期等、特別な時期の急激な利用の増減に耐えられるようにスケールの調整を可能とする必要がある。

5)保守性

 決済インフラとして長期期間利用され、継続して保守と運用を行っていく為、プログラムの理解やテスト実施を容易にする等、保守性を高める必要がある。

( 2 )最重要の非機能要件と解決策

1)最重要の非機能要件

 最重要の非機能要件は「セキュリティ」であると考える。理由は、セキュリティ面の脆弱性が存在することにより、悪意ある攻撃者に顧客の財産が奪われたり個人情報等が盗まれたりする恐れがあるからである。

2)解決策

①利用者認証:パスワード認証とショートメッセージサービス( SMS )認証を組み合わせた多要素認証により本人を確認する。パスワードのみの認証に比べて認証強度を高め、攻撃者によるなりすましを防ぐ。また、顔や指紋等の生体情報を組み合わせたFIDO (Fast Identity Online)____認証の今後の導入も検討する。

②通信の暗号化:店舗の端末と決済システムを結ぶ通信経路をTLS 1.3_で暗号化し保護する。共通かぎ暗号方式として認証付き暗号アルゴリズムを利用することで、通信の安全性を確保する。

③バックエンドのデータ暗号化:バックエンドに保持する決済データを機密性レベルで分類し、レベル高のデータを暗号化した上で特定の権限を持つものしかアクセスできないようするにする。

④アクセス制御:サーバとデータそれぞれにロールベースのアクセス権を設定する。予めユーザに紐づけたパスワードとデバイスで多要素認証し、ユーザのロールに応じてサーバ・データへのアクセスを制御する。

( 3 )要件を満たしているかを評価する方法

1)開発チームによるテスト

 スマホアプリ、店舗の端末、決済システムを開発した設計者と実装者が、設計のとおりにセキュリティが担保されているかを内部からの視点で試験する。

2)外部セキュリティベンダによるテスト

外部のセキュリティベンダに委託し、セキュリティを専門とするコンサルタントがシステムに脆弱性がないかを外部からの視点で試験する。

3 ) パイロットテスト

 一般へのサービス開始前に、地域および人を限定した小さな範囲で、一定期間先行してサービスを開始する。限られた期間と範囲の中で、不正利用が可能でないか、意図しない使われ方がされてないかを確認する。

( 4 )業務遂行において求められる観点

1)技術者倫理の観点

①秘密保持:キャッシュレス決済の設計情報、技術情報に含まれる機密情報を外部に漏えい、転用しない。

②公益確保:一般消費顧客の個人情報、プライバシー、財産の保護を最優先に考えた設計・運用を徹底する。

2 )社会持続可能性の観点

①社会還元:この業務で身に付けた知見を、機密情報を除いた上で、論文発表や技術者育成に活用する。

②環境保護:地球温暖化防止やCO2排出量低減への期待が持てるパブリッククラウドの採用を検討する。

R2年、2020年 情報・情報基盤 Ⅱ−1−2 問題 模範解答と解説

Ⅱ−1−2 パブリック・クラウドのエラスティックな特徴を活用したクラウドネイティブ・アーキテクチャによるアプリケーション基盤の機能・構造とその活用方法について述べよ。

模範解答1 答案形式  情報工学、情報基盤   専門:ウェブシステム   2021.1.17

( 1 )クラウドネイティブ・アーキテクチャ

 パブリッククラウドのモダンでダイナミックな環境において、スケーラブルなアプリケーションを構築、実行する為のアーキテクチャである。回復性、管理性、可観測性のある疎結合システムを実現できる。

( 2 )アプリケーション基盤の機能・構造

①コンテナ:アプリケーションコードと、Linux OS_を含む全ての依存関係をパッケージ化したソフトウェア一式である。OSレベルで仮想化した環境上で動作する。

②イミュータブルインフラストラクチャ:インフラを不変にする。環境を変更する際は古い環境を廃棄して作り直し、一度作られた環境そのものを変更しない。

③マイクロサービス:小さなアプリケーション同士を、疎結合のAPIで連携させ、システム全体として構成するアーキテクチャ的、組織的手法である。

④サービスメッシュ:マイクロサービス間のトラフィックを中継し、分散トレーシング等の様々な横断的関心事の処理を実装するネットワークレイヤである。

⑤宣言型API:どのようにするかを逐一命令して指示するのではなく、どうありたいかや何が欲しいかを宣言して指示する。インフラ構成やAPI合成等に使う。

( 3 )活用方法

 大規模なインターネット通販サイトや動画配信サイトのようなSoEで活用されている。一方、企業の基幹システムのようなSoRでも採用されてきている。

解説

 最初に書かれている「( 1 )クラウドネイティブ・アーキテクチャ パブリッククラウド・・・実現できる。」はなくても構いません。大事なこと、要求されていることだけ書きましょう。

R2年、2020年 情報・情報基盤 Ⅱ−2−1 問題 模範解答と解説

Ⅱ−2−1 テレワークは、従来の企業の働き方改革を推進するだけでなく、新型コロナウイルス感染拡大を契機に、導入を加速させる企業が増えている。従業員300名の一般消費者向け電子機器製造業の企業において、以前から10名弱の営業職を中心にモバイルワークに対応していたが、感染対策のため、急遽、本社の100名の正社員事務職を中心に在宅勤務制度を導入することになった。あなたは社内の情報システム基盤、及び、情報セキュリティ対策の責任者としてテレワーク推進プロジェクトを支援するに当たり、下記の内容について記述せよ。対象者が利用するシステムには、本社内サーバ室に設置された業務システムと労務管理システム、及び、クラウドサービスを利用している電子メールやファイルサーバ等の情報共有ツールを含むものとする。なお、経営幹部からは、固定を圧縮し、柔軟な経営施策が打てるよう貢献して欲しい旨の指示が出ている。

(1) 調査、検討すべき事項とその内容について説明せよ。

(2) 業務を進める手順とその際に留意すべき点、工夫を要する点を含めて述べよ。

(3) 業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。

模範解答1 答案形式  情報工学、情報基盤   専門:ウェブシステム   2021.1.15

( 1 )調査、検討すべき事項とその内容

1 )現状の業務分析と現行システムの調査

 テレワーク対象の業務について、業務フロー、業務内容等を表や図にして把握する。業務/労務管理システムの構成、データの機密レベルを調査する。業務用PCで利用しているソフトウェア資産の棚卸を行う。

2 )在宅勤務者の作業環境

 在宅勤務に必要なネットワーク環境を検討する。在宅勤務のPCを会社で貸与するか私物のPCを利用可とするか得失を評価し、検討する。固定費を変動費化する為、Desktop as a Service (DaaS) ____を導入できないか、在宅勤務だけでなく全社的に導入できないか検討する。

3 )新システム・ネットワーク・セキュリティの検討

 在宅勤務用PCと業務/労務管理システムのネットワーク接続方法、認証方法を検討する。また、固定費を変動費化する為、業務/労務管理システムをパブリッククラウドへ移行できないか検討する。

( 2 )業務を進める手順

1 )テレワーク導入に向けた調査・検討と計画

 ( 1 )の結果を踏まえ、導入を計画し体制を整備する。

2 )新システムの設計・実装

 業務/労務管理システムをパブリッククラウドへ移行する為の設計と実装を行う。工夫点は、仮想PC−サーバ間の通信プロトコルをHTTP over TLS__とし、相互認証及び全通信を暗号化して安全性を確保すること。

3 ) DaaSへの移行準備

 貸与するPCにDaaSソフトウェアをインストールする。留意点・工夫点は、①事前に貸与PC内部のデータ・ソフトウェアを消去して情報漏洩を防ぐこと。②全社的にDaaSへ移行し、統一する事で運用不可を抑えること。③在宅勤務者を多要素認証で本人確認すること。④自動化ツールを作成して移行時のエラーを抑えること。

4 )接続試験と移行

 社屋外の在宅勤務用PC及び社屋内のPCから、DaaSのデスクトップにログインし、クラウド上の業務/労務管理システムに接続できるかテストする。留意点は、段階的に移行し、新システムにトラブルが生じた場合は旧システムで業務を継続できるようにしておくこと。

5 )セキュリティポリシー

 現在のポリシーを見直し、規定類を追加・修正する。

( 3 )関係者との調整方策

・経営幹部に、業務/労務管理システムのパブリッククラウドへの移行、DaaSの全社的な採用、セキュリティポリシーの見直しについて説明し、承認を依頼する。

・システム担当者、セキュリティ担当者、テレワーク対象部門の管理者・代表担当者を導入推進チームとして集めて調査・検討段階から迅速な合意形成を図る。

・テレワーク対象者に、テレワークへの移行スケジュール、業務の方法、セキュリティに関するルール等を説明し、混乱なく円滑な移行を図る。

問1の「調査」は「取りあえずくまなく調査する」ではなく、目的ねらいを明らかにして、絞って調べることです。どこにチェックポイントがあるか、経験的知見が問われています。

問1「在宅勤務者の作業環境」として私物のPCを利用可とすることを書かれていますが、専門用語でBYOD と言います。検討事項を増やさないで、答えが出ない問は、仮設で進めるしかありません。

問2の「業務を進める手順」としては、「( 1 )の結果を踏まえて整備する」では、何が留意点かわかりません。「( 1 )の結果を踏まえて・・」という参照は、試験答案としてはふさわしくないでしょう。

「新システムの設計・実装」の通信プロトコルやDaaS移行は、基本的な処置であり留意点とまで言えるかどうか疑問です?

 在宅勤務用PCからDaaS・クラウドへの移行を、「段階的にして、トラブル時は旧システムに戻す」では特別素晴らしい提案とも思えません。付加的作業のようです。留意点の意味はコンピテンシーを図るためのものですので独創提起な提案をお願いします。

 セキュリティポリシーについて、現況の見直し・修正では、単なる作業項目であり、情報工学技術の巧みさが見えないようです。

「関係者との調整方策」はそれぞれ個別に要請することであって、バランスや英断がない作業なので、プロマネの調整とは言えません。

「調整」とはプロマネの取りまとめ力を測る問題です。下記を見てビジネス上の「調整」を探されると知見が深まります。

 調整力とは何か?もしわかりにくければ、下記ページをご覧になって、人を動かす仕事の調整力を身につけるようにしてください。

https://big-mac.jp/column/adjustment-power-of-work/

【現場監督】必要とされる能力や求められていることとは?

https://www.oreyume.com/column/p-cat-03/714/

「調整力を発揮して、『理想の形』に整えよう!」

https://jbmhrd.co.jp/blog/tama/tama21.html

建設プロジェクトマネジャ―の資質と能力に関する基礎的研究

https://www.jstage.jst.go.jp/article/procm1993/12/0/12_0_207/_pdf

ご経験の中から、プロマネとして複数工/業者を調整して、問題解決した例を挙げてください。このリンクを参照するとヒントが得られます。

R2年、2020年 情報・情報基盤 Ⅲ−1 問題 模範解答と解説

Ⅲ−1 クラウド移行や設備更新に伴う情報機器の廃棄を契機とした情報漏えいが問題になっている。機密情報を含む社内情報システムのデータを保存するために、オンプレミスのストレージシステムを利用している。このストレージシステムは、現行のリース契約が満了する3年後に廃棄を予定している。ストレージシステムの記録装置として利用しているハードディスク(磁気ディスクタイプ)の廃棄に関して、社内情報システム基盤の責任者として以下の問いに応えよ。ただし、リース契約には、返却に関して、その期日と返却後の委託先の産業廃棄物処理事業者による記録装置の破壊実施のみ記載されており、作業方法の詳細については別途調整を行うこととなっている。

(1) 磁気ディスクタイプの記録データ消去方法について述べよ。また、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点と共に示せ。

(2) 抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3) 前問(2)で示したすべての解決策を実行した上で生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。

模範解答1 答案形式  情報工学、情報基盤   専門:ウェブシステム   2021.1.17

( 1 )記録データの消去方法と課題

1 )記録データの消去方法

①ハードディスク(以下HDD)を物理的に破壊する

 筐体からHDDを取り出して物理的に破壊する。ハンマー等で強く叩き、内部に損傷を与えて読み取りをできなくする。但し、確実にダメージを与えないと読み取りできてしまう可能性がある。HDDに穴をあけたり破砕したりする専用装置を使う方法もある。

②専用ソフトでデータ消去する

 HDDを筐体内部に取り付けた状態のまま、専用ソフトを使ってオールゼロや乱数など意味のないデータで上書きすることでHDD内部のデータを消去する。但し、電源を入れて動作する機器にしか適用できない。専用ソフトは、フリーまたは有償で入手できる。

③強磁気を当ててデータ消去する

 筐体からHDDを取り出して専用装置に入れて非常に強い磁気を照射することでデータを完全に消去する。一般的には専門の業者が使用する方法である。

2 )課題と観点

①機密データの確実な消去(技術面の観点)

 リース契約の満了時に機密データを確実に消去する必要がある。ハンマーなどを使って人手で破壊する方法や、電源が入らない機器への専用ソフトの使用には、人による判断が介入し、ミスを犯す可能性が伴う。従って、どのような状態であっても確実にHDDのデータを消去する方法と手順を確立する必要がある。

②リース契約の見直しと内容の明確化(契約面の観点)

 2019年にHDD転売による情報漏洩の事件が起こった。今回のリース契約も契約内容があいまいであり、記録データが残ったままHDDが転売され、情報漏洩に繋がる恐れがある。従って、契約内容を明確にし、確実な記録装置の破壊と転売の禁止を義務付ける必要がある。

③クラウドへ移行する

 オンプレミスでの運用を徐々に減らしてパブリッククラウドへ移行する。それにより将来的にリース機器の使用を止め、クラウドベンダとのセキュリティ責任共有モデルに基づき、クラウドベンダの徹底したセキュリティ管理に委ねることができる。

( 2 )最重要課題と解決策

1 )最重要の課題

 最重要の課題は、リース契約の見直しと内容の明確化であると考える。理由は、今の契約内容では自社からリース会社、更にはその先の再委託先業者への統制が働かず、機器を返却した後の機密情報漏えいリスクをコントロールできないからである。

2 )解決策

 リース契約で以下の内容を記載し、明確化する。

①消去方法の明確化:専用装置による物理的破壊か強磁気によるデータ消去を行うこと。

②記録装置の個別(ID)管理の義務付け:返却機器との紐づけをした上でHDDに個別のIDを付与し、消去作業及びその前後を通して個別管理すること。

③データ消去作業への立ち合いを義務付け:リース会社は、再委託先のデータ消去作業に立ち会うこと。

④データ消去作業の記録・撮影・録画の義務付け:データ消去の作業者、日時、場所、HDDのID、消去方法等を記録し、撮影又は録画して作業することを再委託先に義務付けること。

⑤破壊証明書の提出を義務付け:データ消去の証明書を再委託先に提出させ、それを当社に提出すること。

⑥転売禁止を義務付け:機器の転売をしないこと。

( 3 )解決策の波及効果と懸念事項への対応策

1 )解決策の波及効果

①プラスの効果:自社のセキュリティ水準が向上する。

②マイナスの効果:a)再委託先に統制圧力が過剰にかかる可能性がある。b)  HDDを再利用できない。c)機密情報を窃取する方法がより巧妙化する可能性がある。

2 )懸念事項への対応策

 ここではc)情報窃取の巧妙化への対応策を取り上げる。対応策は、自社の業務で機密情報を扱う際、データを暗号化してHDDに保存することをルール化する。暗号鍵は暗号化したHDDとは別の安全な場所に保存するようにする。リース返却時は当該暗号鍵を消去することで内容の読み取りを不可能にする。結果、HDDが万一外部に流出しても情報漏洩を防ぐことができる。

解説

 問1では、「HDDに穴をあけたり破砕したりする専用装置を使う方法・・」などは方法論の説明を簡潔にするようにしてください。ここは2)や(2)の前提事項の確認にすぎず、採点対象ではありませんので、力まないことです。

 「電源を入れて動作する機器にしか適用できない。専用ソフトは、フリーまたは有償で入手できる。・・確実にHDDのデータを消去する方法と手順を確立する必要がある。」というところは、それが何か(課題)が問われているのに答えが見えません。

 リース契約の問題を取り上げていらっしゃいますが、そういうことではないでしょう。機器の転売問題は明らかに犯罪であって、問題外のことです。ここでは情報工学的に解決する方法をお考え下さい。そして、おっしゃるように、クラウドにすれば問題は切り離せます。しかし、これは記録データ消去方法についての課題であって、そのように問題がすり替わってはいけません。

 「暗号鍵は暗号化したHDDとは別の安全な場所に保存するようにする。リース返却時は当該暗号鍵を消去する」と書かれていますが、これが課題、解決策だったのではありませんか。単刀直入に初めからここについてプレゼンすると良いでしょう。

R2年、2020年 生物・生物機能 Ⅰ−1 問題 模範解答と解説

Ⅰ−1 2019年6月に統合イノベーション戦略推進会議から発表された、「バイオ戦略2019」では、全体目標として「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現」を掲げ、バイオ生産システム(バイオファウンドリ)<工業・食料生産関連(生物機能を利用した生産)>をその目標達成時の1つの姿として提示している。

生物工学の技術者として、従来の化学合成や、生物からの抽出による生産システムに代えて、スマートセル(生物細胞が持つ物質生産能力を人工的に最大限まで引き出し最適化した細胞)によるバイオ生産システムを社会実装していくための課題を多面的な観点から抽出し、その内容を観点とともに示せ。

抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

すべての解決策を実行した上で生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。

前問の業務遂行に当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。

模範解答1簡易答案形式1 生物、生物機能 専門:細胞工学  2021/5/13

(1)スマートセルを用いたバイオファウンドリ社会実装における課題

①In silico における有用物質の設計

 医薬品などの有用物質を構築する上で、より効果が高く安価な化合物が好ましい。このため、In silico においてバイオインフォマティックスにより有効性が高く安価な化合物の設計が課題として挙げられる。

②有用物質の合成経路を構築したスマートセル発現系

 有用物質をスマートセルにより生産するには、有用物質合成に係る発現系を構築する必要がある。そこで、メタボロームにより得られた代謝経路から有効物質生産にかかる酵素遺伝子を選択し、その遺伝子用いた発現系の構築が課題となる。

③有用物質の分解を誘導する内在遺伝子の破壊

 有用物質を効率的に生産するには、スマートセル由来の酵素等による有用物質分解を防止する必要がある。そこで、スマートセル内在性の有用物質分解に係る遺伝子をゲノム編集により破壊することが課題となる。

最重要と考える課題及びその解決策

 最重要課題:②「有用物質の合成経路を構築したスマートセル発現系」

①  代謝経路を解明するためのオミックス解析

 有用物質をスマートセルで合成するため、その代謝経路及び係る遺伝子を解明する必要がある。そこで、キャピラリー電気泳動及び質量分析による代謝物質の網羅的解析を行う。併せて代謝に係る遺伝子を同定するため、次世代シーケンサーを用いたRNA-seqを行う。

②酵素のポリシストロニックな発現

 有用物質合成経路に係る酵素は、発現レベルを同調させた上で複数同時に発現させる必要がある。そこで、2Aペプチドを用いたポリシストロニックな発現を提案。

③トランスポーターの発現

 有用物質を大量に発現させたとしても、細胞内に有用物質がとどまる場合、抽出工程が必要となる。そこでトランスポーターを発現し、有用物質の分泌を提案。

波及効果及び専門技術を用いた懸念事項への対応策

波及効果としては、医薬品や食品添加物の候補物質が大量に得られることとなる。従って新しい治療法の開発や、より有用な機能性食品の創出が期待できる。

懸念事項としては、継代培養等により培養条件が徐々に変更されてくることにより、有用物質の生産量が低下する懸念がある。

対応策として、転写抑制因子が結合できない人工プロモーターの構築を提案し、有用物質生産量を安定化させることを挙げる。

技術者としての倫理、社会の持続性の観点からの必要となる要件、留意点

①技術者としての倫理:スマートセルの使用は遺伝子組み換え体の使用となりうる。だが、公衆には遺伝子組み換え体の使用に懸念を示す方も多い。技術者として公衆を含む利害関係者に対し適切に説明を果たす必要がある。これは技術士倫理綱領「真実性の確保」に適合。

②社会の持続可能性:発展途上国では未だに医薬品の供給が不十分な国が存在。本提案で得られたスマートセル及び開発された化合物により、これまでよりも安価かつ大量に医薬品を製造可能となることも期待できる。これはSDGsの「すべての人に健康と福祉を」に適合。

模範解答1簡易答案形式2 生物、生物機能 専門:   2021/5/25

スマートセルを用いたバイオファウンドリ社会実装における課題

①  In silico における有用物質の設計

有用物質を構築する上で、より効果が高く安全な化合物が好ましい。そこでIn silico におけるバイオインフォマティックスにより目的の受容体に高親和性、高選択性な物質を設計する。  

②  有用物質の合成経路を構築したスマートセル発現系

有用物質生産には有用物質合成経路を満たした発現系を構築する必要がある。このためメタボローム解析から有効物質生産に係る酵素遺伝子を選択し、この酵素による発現系を構築する。

③有用物質を分解する内在遺伝子の破壊

有用物質の効率的生産には、スマートセル由来の酵素等による有用物質分解を防止する必要がある。そこで、有用物質分解に係る遺伝子をゲノム編集により破壊する。

最重要と考える課題及びその解決策

最重要課題:②「有用物質の合成経路を構築したスマートセル発現系」

①  代謝経路を解明するためのオミックス解析

スマートセルで有用物質を合成するため、代謝経路及び係る遺伝子を解明する必要がある。そこでキャピラリー電気泳動及び質量分析によるメタボロミクスを行う。併せて代謝に係る遺伝子を同定するため、RNA-seqおよびホモロジー解析を行う。これより合成経路に係る酵素を同定する。

②酵素のポリシストロニックな発現

有用物質合成経路に係る酵素は、発現レベルを同調させた上で複数同時に発現させる必要がある。

解決策として複数の有用物質合成酵素遺伝子の間にウイルス由来の2Aペプチド遺伝子を挿入する。

③トランスポーターの発現

有用物質を大量に発現させたとしても細胞内に有用物質がとどまる場合、抽出工程が必要となる。スマートセルに有用物質選択的なトランスポーターを発現し、有用物質を分泌させる。

波及効果及び専門技術を用いた懸念事項への対応策

波及効果として多品種化、生産の省力化、低コスト化、労働者不足懸念への対応を挙げる。

懸念事項としてバイオエコノミーの発展より遺伝子組換体の環境中への漏出頻度が上昇し、環境汚染が発生する懸念がある。対応策としてrecA遺伝子をゲノム編集により破壊し、紫外線に感受性を示す細胞を作成する。この結果、日光で遺伝子組換体が死滅し、自動的に環境汚染が回復する。

技術者としての倫理、社会の持続性の観点からの必要となる要件、留意点

①  技術者としての倫理:スマートセルの使用は遺伝子組み換え体の使用となりうる。技術者として公衆を含む利害関係者に対し適切に説明を果たす。これは技術士倫理綱領「真実性の確保」に適合する。

②  社会の持続可能性:発展途上国では未だに医薬品の供給が不十分な国が存在する。本提案で得られたスマートセル及び開発された化合物により、安価かつ大量に医薬品を製造可能となる。このため、これまで高価で医薬品にアクセスできなかった方々への供給も可能となる。これはSDGsの「すべての人に健康と福祉を」に適合する。

模範解答1答案形式 生物、生物機能   専門:   2021/5/29

スマートセル使用バイオファウンドリ実装への課題

①In silico における有用物質の設計

有用物質を構築する上で、より効果が高く安全な化合物が好ましい。そこでIn silico におけるバイオインフォマティックスにより、目的の受容体に高い親和性を示し、かつ、高い選択性を示す物質を設計する。

②スマートセル発現系の構築

有用物質生産には有用物質合成経路を満たした発現系を構築する必要がある。このためメタボローム解析から得られた有効物質生産に係る代謝経路の同定を行う。更に、この結果から有効物質生産に係る酵素遺伝子を選択し、この遺伝子を用いた発現系を構築する。

③有用物質を分解する内在遺伝子の破壊

有用物質の効率的生産には、スマートセル由来の酵素等による有用物質分解を防止する必要がある。そこで、スマートセル内在性の有用物質分解に係る遺伝子をゲノム編集により破壊する。

最重要と考える課題及びその解決策

最重要課題:②「スマートセル発現系の構築」

①代謝経路を同定するためのオミックス解析

スマートセルで有用物質を合成するため、代謝経路及び係る遺伝子を同定する必要がある。そこでキャピラリー電気泳動及び質量分析によるメタボロミクス解析を行う。併せて代謝に係る遺伝子を同定するため、RNA-seq およびホモロジー解析を行う。これより合成経路に係る酵素遺伝子を同定する。同定された遺伝子をスマートセルで発現させることにより、効率的な有用物質生産が可能となる。

②酵素のポリシストロニックな発現

有用物質合成経路に係る酵素は、発現レベルを同調させた上で複数同時に発現させる必要がある。解決策として、複数の有用物質合成酵素遺伝子の間にウイルス由来の2Aペプチド遺伝子を挿入する。これより、一種類のmRNAから、発現レベルが同調した複数の遺伝子の発現が可能となる。

③トランスポーターの発現

有用物質を大量に発現させたとしても細胞内に有用物質がとどまる場合、抽出工程が必要となる。そこで、スマートセルに有用物質選択的なトランスポーターを発現し、有用物質を分泌させる。これより抽出工程が不要となる。また、細胞内に有用物質が留まり毒性を示す場合に、毒性を回避する方法としても有用である。

波及効果及び専門技術を用いた懸念事項への対応策

①波及効果

解決策で構築したスマートセルにより有用物質の多品種化、有用物質生産の省力化、低コスト化、将来的に生じうる労働者不足懸念への対応が可能になる。また、本提案で得られたスマートセル及び開発された化合物により、これまで高価で有用物質にアクセスできなかった発展途上国等の方々への供給も可能となる。

②懸念事項

懸念事項としてバイオファウンドリの発展より遺伝子組換体の環境中への漏出頻度が上昇し、環境汚染が発生する懸念がある。対応策としてrecA遺伝子をゲノム編集により破壊し、紫外線に感受性を示す細胞を作成する。この結果、日光で遺伝子組換体が死滅し、自動的に環境汚染が回復する。

技術者倫理、社会持続性からの必要要件・留意点

①技術者倫理

スマートセルの使用は遺伝子組換え体の使用となりうる。技術者として公衆を含む利害関係者に対し、データに基づいたスマートセルの有用性及び安全性について、理解を得られるよう適切に説明責任を果たす。これは技術士倫理綱領「真実性の確保」に適合する。

②社会の持続可能性

発展途上国にスマートセルで生産した医薬品を供給する場合、迅速な供給が困難となる場合がある。

技術者として、当該国の方々に対しスマートセルで生産した医薬品の有用性及び安全性をデータに基づき適切に説明を行う。また、医薬品普及促進のために広報、広告やソーシャルネットワークサービスを活用した啓発活動を行う。これらはSDGsの「すべての人に健康と福祉を」に適合する。

R2年、2020年 生物・生物機能 Ⅱ-1-1 問題 模範解答と解説

Ⅱ-1-1 トランスクリプトームの定義及びトランスクリプトーム解析に用いられる一連の技術についてその原理及び応用について述べよ。

模範解答1簡易答案形式1 生物、生物機能 専門:細胞工学  2021/6/10

定義

 トランスクリプトームとはDNAから転写されたRNAの総体。細胞外からの環境因子によりRNA転写量の増減、またはスプライシングによるRNA配列の変化がもたらされる。

○解析技術の原理

 次世代シーケンサーを用いたペアエンド解析を挙げる。

  ペアエンド解析とは精製したmRNAから逆転写によりcDNAを合成し、そのcDNAを両端から二回配列を解読する手法。この配列の解読には、蛍光物質を付加した塩基の取り込みを次世代シーケンサーにより検出。

ペアエンド解析は二回に分け両端からcDNAを解読し、解読精度を向上させる。

○解析技術の応用

トランスクリプトーム解析はがん遺伝子パネル検査に用いられる。遺伝子パネル検査では、がん原因遺伝子として知られる約百種類の遺伝子について、一度の検査がんの原因となる変異の発生の有無を検出。これより遺伝子変異の種類によって医薬品を選択可能となるテーラーメイド医療への応用が期待できる。

R2年、2020年 生物・生物機能 Ⅱ-1-3 問題 模範解答と解説

Ⅱ-1-3 ユビキチン・プロテアソームシステムの定義を述べ、その生物学的意義について例を挙げつつ述べよ。

模範解答1簡易答案形式1 生物、生物機能 専門:細胞工学  2021/3/2

1.ユビキチン・プロテアソームシステムの定義

・生命現象に関与するタンパク質にユビキチンと呼ばれる標識が付加され、プロテアソームを介してタンパク質を分解するメカニズム。

・ユビキチン・プロテアソームシステムは細胞内シグナル伝達のオン・オフや、不要となったタンパク質の除去に使用。

2.ユビキチンプロテアソームの生物学的意義

・ユビキチン・プロテアソームシステムは細胞周期や免疫応答、転写制御等様々な生命現象に関与

・がん抑制遺伝子であるp53のユビキチン・プロテアソームシステムによる分解について例示

・がん抑制遺伝子であるp53は約80種の細胞のがん化の抑制に関与

・がん化した細胞ではp53がユビキチン・プロテアソームシステムにより分解

・従って、がん化を防止にはユビキチン・プロテアソームシステムによりp53の分解を抑制すると効果が期待

模範解答1簡易答案形式2 生物、生物機能 専門:   2021/3/6

1.ユビキチン・プロテアソームシステムの定義

 生命現象に関わるタンパク質にユビキチンと呼ばれる標識を付加し、プロテアソームを介してタンパク質を分解するメカニズムである。タンパク質の分解を要する生命現象として細胞内シグナル伝達のオン・オフや、不要となったタンパク質の除去が挙げられる。これらの生命現象にユビキチン・プロテアソームシステム(以下Ubシステム)は必須の制御メカニズムである。

2.Ubシステムの生物学的意義及び例

 がん治療ではUbシステムは重要な治療標的である。この治療標的として、がん抑制機能を有するp53タンパク質の分解について例示する。

 がん抑制遺伝子p53は約80種類の細胞のがん化抑制に関与し、がん細胞ではp53タンパク質の分解が亢進している。この治療の際にはp53の分解を抑制する必要があり、プロテアソーム阻害剤ボルテゾミブが使用される。だが正常細胞にもボルテゾミブが機能し副反応を誘発するため、ユビキチン付加阻害剤の開発や、がん細胞特異的な薬物送達法の開発が必要である。

R2年、2020年 生物・生物機能 Ⅱ-2-2 問題 模範解答と解説

Ⅱ-2-2 ある有用蛋白質の生産技術の担当責任者として業務を進めるに当たり、下記の内容について記述せよ。

調査、検討すべき事項とその内容について、説明せよ。

業務を進める手順について、留意すべき点、工夫を要する点、を含めて述べよ。

業務を効率的・効果的に進めるための、関係者との調整方策について述べよ。

模範解答1簡易答案形式1 生物、生物機能 専門:細胞工学  2021/3/27

  用蛋白質の生産技術における調査、検討事項

①ベクター:コードするDNA配列を調査し、発現に適したプラスミドを検討

②発現系:必要とする発現量や機能について調査し、発現に適した細胞種を検討

③機能解析方法:蛋白質が有する機能について調査し、その活性測定法を検討

業務を進める手順  

①プラスミドにコードするDNAの挿入

 プラスミドが有するプロモーターの下流にDNAの挿入。蛋白質の発現量を向上させるため、cDNAにコードされる利用率が低いコドンを点突然変異を導入し変更

②発現系へのプラスミドの導入及び発現

 発現系に遺伝子を導入。大腸菌細胞内の還元状態による蛋白質不溶化を回避するため、レダクターゼが欠損しているOrigami株を使用。

③機能解析

 蛋白質の活性を測定。発現系に内在するプロテアーゼにより蛋白質の活性が得られない可能性があるため、測定時にプロテアーゼインヒビターを使用。

業務を効率的・効果的に進めるための調整方策

○有用蛋白質発現系構築の効率化

 プラスミドへのcDNA挿入には制限酵素部位に依存しないシームレスクローニング法を提案。発現系へのプラスミド導入には20kbまで導入可能なエレクトロポレーション法を提案。また機能解析には実験計画法及びELISA法による実験数を低減した同時測定により、活性測定法検討にかかる工程数の減少を提案。

模範解答1簡易答案形式2 生物、生物機能 専門:   2021/4/6

生産技術における調査・検討事項

①cDNAを挿入するプラスミド

 有用蛋白質の発現にはcDNAをプラスミドに挿入する必要がある。そこで発現系に適したプラスミドを検討し、cDNA挿入方法も併せて検討する。

②有用蛋白質を発現させる発現系

有用蛋白質が機能するには適切な修飾がなされる必要がある。そこでドメイン構造や、蛋白質修飾による機能の発揮の有無を調査する。これより蛋白質が機能発揮する発現系を検討する。

③有用蛋白質の機能解析方法

 生産された蛋白質は適切な機能を発揮する必要がある。そこで、②で得られたドメイン構造に基づき蛋白質の機能を調査する。これより蛋白質の機能解析方法について検討を行う。

業務を進める手順  

①cDNAの挿入

 プロモーターの下流にcDNAを挿入する。cDNA配列によってはコドンにより目的の発現量が得られない場合がある。そこで点突然変異法により利用率が高いコドンに変更し、発現量を向上させる。

②プラスミドの導入及び発現

 発現系にcDNAを含むプラスミドを導入する。出芽酵母を発現系として用いた場合、ポリマンノシル化により蛋白質が活性を発揮できない可能性を有する。そこで、マンノース転移に関与するOCH1遺伝子欠損株を使用する。

③機能解析

 生産した蛋白質の活性を確認する必要がある。だが、発現系由来のプロテアーゼにより蛋白質が分解する可能性がある。蛋白質の分解を回避するため、プロテアーゼ阻害剤を添加し測定を行う。

業務を効率的・効果的に進めるための調整方策

①シームレスクローニング法によるcDNAの挿入

cDNA挿入時に制限酵素切断部位により挿入が困難な場合がある。そこでcDNA挿入困難性の回避による効率化を開発者に説明し、仔細な方法を示した制限酵素切断部位に依存しないシームレスクローニング法を示す。

②実験計画法による測定回数削減

 蛋白質の機能測定条件が得られていない場合、測定条件を見出す必要がある。そこで測定条件導出の効率化を説明し、品質管理者に対して実験計画法を用いた測定回数の低減による機能解析方法の早期構築を促す。尚、実験計画の構築にはエクセルシートによる構築法を教示する。

模範解答1答案形式 生物、生物機能   専門:   2021/4/9

蛋白質生産技術における調査・検討事項

①cDNAを挿入するプラスミド

 有用蛋白質の発現にはcDNAをプラスミドに挿入する必要がある。そこで目標とする発現量や発現系に適したプラスミドの検討を行う。尚、プラスミドへのcDNA挿入方法も併せて検討する。

②有用蛋白質を発現させる発現系

有用蛋白質が機能するには適切な修飾がなされる必要がある。そこで蛋白質修飾がなされるドメイン構造や、修飾による蛋白質の機能の発揮の有無を調査する。これより蛋白質が機能発揮する発現系を検討する。

③有用蛋白質の機能解析方法

 生産された蛋白質は品質上適切な機能を発揮する必要がある。そこで、②で得られたドメイン構造に基づき蛋白質の機能を調査する。これより蛋白質の機能解析方法について検討を行う。

業務を進める手順  

①cDNAの挿入

 プロモーターの下流に存在するマルチクローニングサイトにcDNAを挿入する。cDNA配列によってはコドンにより目的の生産量が得られない場合がある。そこで点突然変異法により利用率が高いコドンに変更し、蛋白質生産量を向上させる。

②プラスミドの導入及び発現

 発現系にcDNAを含むプラスミドを導入する。出芽酵母を発現系として用いた場合、ポリマンノシル化により蛋白質が活性を発揮できない可能性を有する。そこで、マンノース転移に関与するOCH1遺伝子欠損株を使用する。

③機能解析

 品質管理上生産した蛋白質の活性を確認する必要がある。だが、発現系由来のプロテアーゼにより蛋白質が分解する可能性がある。そこで蛋白質の分解を回避するため、プロテアーゼ阻害剤を添加し測定を行う。

業務を効率的・効果的に進めるための調整方策

①シームレスクローニング法によるcDNAの挿入

cDNA挿入時に制限酵素切断部位により挿入が困難な場合がある。そこでcDNA挿入困難性の回避による効率化を私が開発者に説明する。更に私が制限酵素切断部位に依存しないシームレスクローニング法の仔細な方法を開発者に教示する。

②実験計画法による測定回数削減

 蛋白質の機能測定条件が得られていない場合、測定条件を見出す必要がある。そこで測定条件導出の効率化の必要性を品質管理者に対して私が説明する。更に、効率化には実験計画法を用いた測定回数の低減が有効であることも説明する。尚、具体的な方法として私がエクセルシートを用いた実験計画構築法を品質管理担当者に教示する。

R2年、2020年 生物・生物機能 Ⅲ-2 問題 模範解答と解説

Ⅲ-2 生殖工学技術は、動物の生殖過程を人為的に改変し、有用動物の生産性の向上、遺伝資源の保存・保護等において重要な役割を果たしている。

生殖工学に関する複数の生物機能工学技術を挙げ、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。

抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ上げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。

解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。

模範解答1簡易答案形式1 生物、生物機能 専門:細胞工学  2021/4/25

  物機能工学技術を用いた生殖工学における課題

①  ノックアウト効率の向上

相同組み換えによる遺伝子ノックアウトは効率が悪く、対応困難な種が存在する。そこでノックアウト効率が高く、従来のノックアウト技術よりも短期間で対応可能なゲノム編集の使用が、対応種を拡大する上で課題となる。

②導入遺伝子の発現量の変動の抑制

トランスジェニック動物では、エピジェネティックスな影響により遺伝子発現量が変動する。そこでプロモーターのエピゲノム編集により発現量のコントロールが課題となる。これより有用動物の品質の安定確保が可能となる。

③生殖細胞系列の発生不全の回避

 有用動物の遺伝子を改変した場合、生殖細胞系列の発生に影響を及ぼす場合がある。そこで安定的に遺伝子改変動物を繁殖させるため、初期化した体細胞による生殖細胞系列の分化及び、試験管内受精が課題となる。

最重要と考える課題及びその解決策

有用生物の対象種を増加させる上で①を最重要課題と考える。

①Cas9によるゲノム編集

ゲノム編集技術のうちDNA切断活性を有するCas9蛋白質をエレクトロポレーション法により導入する、生殖細胞のゲノム編集を提案する。

②アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)によるgRNAの導入

 アデノ随伴ウイルスは病原性が無いこと及び、ゲノム上の導入箇所が限定されていることが利点。そこで、生殖細胞系列にAAVを用いてgRNAの導入を提案する。

③トリコスタチンA(TSA)処理によるヘテロクロマチンの回避

 目的遺伝子がヘテロクロマチン化されていると、Cas9及びgRNAがゲノムDNAに結合できない。そこでTSA処理によりヘテロクロマチン化を解除する。

解決策に共通するリスク及びその対応策

 解決策に共通するリスクとして目的のゲノム領域以外でゲノム編集が起こるオフターゲットが起こりうる。その対策としてダブルニッキング法を挙げる。DNA二本鎖切断活性を有するCas9蛋白質に変異を導入し、一本鎖切断活性しか発生させないようにする。またgRNAを目的の切断箇所に近接する二種類を設定する。これより目的の位置でゲノム編集が誘導され、意図しない形質の発生を回避する。

模範解答1簡易答案形式2 生物、生物機能 専門:   2021/4/30

生物機能工学技術を用いた生殖工学における課題

①ノックアウト効率の向上

相同組み換えによる遺伝子ノックアウトは効率が悪く、有用動物の生産性の向上を行う上で対応困難な種が存在する。そこで従来の相同組み換えによるノックアウト技術よりも遺伝子破壊効率が高く、短期間で対応可能であるゲノム編集の使用が、対応種を拡大する上で課題となる。

②導入遺伝子の発現量の変動の抑制

トランスジェニック動物ではエピジェネティックスな影響により遺伝子発現量が変動し、品質に影響を及ぼす。そこでエピゲノム編集により、導入遺伝子のプロモーターのエピジェネティックな状態を制御し、遺伝子発現量を調節することが課題となる。この方法により有用動物の品質の安定確保が可能となる。

③生殖細胞系列の発生不全の回避

有用動物の遺伝子を改変した場合、生殖細胞系列の発生に影響を及ぼし繁殖が困難になる場合がある。そこで有用動物を安定的に繁殖させるため、初期化した体細胞による生殖細胞系列の分化及び、試験管内受精が課題となる。これより遺伝資源の保存・保護が可能となる。

課題②「導入遺伝子の発現量の変動の抑制」の解決策

①  CRISPRaによる遺伝子発現量の向上

プロモーターがヘテロクロマチン化し遺伝子発現量が低下している場合、その遺伝子の発現量を向上させる必要がある。そこで、DNA切断活性を欠損したCas9蛋白質(dCas9)に対し、ヒストンアセチル化酵素CBPを融合する(dCas9-CBP)。このdCas9-CBP及びgRNAを導入することで目的の遺伝子発現量が向上し、遺伝子発現量の安定化に寄与する。    

②  CRISPRiによる遺伝子発現量の抑制

目的の遺伝子が過剰に発現している場合、その遺伝子の発現量を抑制させる必要がある。そこで、dCas9に対し転写抑制因子KRABを融合する(dCas9-KRAB)。このdCas9-KRAB及びgRNAを導入することで転写が抑制され、遺伝子発現量の安定化に寄与する。

③  RNAiによる遺伝子発現量の抑制

発現したmRNAが安定的である場合、発現量を抑制するためにmRNAを分解する必要がある。そこで、RNAiにより既に発現しているmRNAを分解する。また、RNAiはゲノムのヘテロクロマチン化を誘導するため、目的遺伝子の発現量の更なる抑制が期待できる。

解決策に共通するリスク及びその対応策

目的外のゲノム領域でのエピゲノム編集や、目的外のmRNAの分解起こるオフターゲットが起こりうる。これは導入したgRNAやdsRNAのわずかなミスマッチでも活性が保持されるためである。この対策として、塩基配列検索エンジンGGGenomeによるオフターゲットの予測によるgRNAやdsRNAの選別を行う。これより特異性が高いgRNA及びdsRNAの設計が可能となり、オフターゲットが抑制される。以上の対応策により、有用動物の更なる品質の安定確保が期待できる。

模範解答1答案形式 生物、生物機能   専門:   2021/5/6

生物機能工学技術を用いた生殖工学における課題

①ノックアウト効率の向上

相同組み換えによる遺伝子ノックアウトは効率が悪く、有用動物の生産性の向上を行う上で対応困難な種が存在する。

そのため従来の相同組み換えによるノックアウト技術よりも遺伝子破壊効率が高く、短期間で対応可能であるゲノム編集の使用が課題として挙げられる。この課題の実行により、対応種の拡大が期待できる。

②導入遺伝子の発現量の変動の抑制

トランスジェニック動物ではエピジェネティックスな影響により遺伝子発現量が変動し、作成された遺伝資源の品質に影響を及ぼす。

したがってエピゲノム編集により、導入遺伝子のプロモーターのエピジェネティックな状態を制御し、遺伝子発現量を調節することが課題となる。この課題の実行により、有用動物の品質の安定確保が可能となる。

③生殖細胞系列の発生不全の回避

有用動物の遺伝子を改変した場合、生殖細胞系列の発生に影響を及ぼし繁殖が困難になる場合がある。

有用動物を安定的に繁殖させるため、初期化した体細胞による生殖細胞系列への分化及び、試験管内受精が課題となる。この課題を実行することにより、遺伝資源の安定的な保存・保護が可能となる。

最重要と考える課題及びその解決策

②「導入遺伝子の発現量の変動の抑制」の解決策

①CRISPRaによる遺伝子発現量の向上

導入遺伝子の発現を制御するプロモーターがヘテロクロマチン化し発現量が低下している場合、そのプロモーター特異的にヘテロクロマチン化を解除する必要がある。

解決策として変異を導入しDNA二本鎖切断活性を欠損した Cas9蛋白質(dCas9)に対し、ヒストンアセチル化活性を有するCBP を融合する(dCas9-CBP)。このdCas9-CBP及び目的のプロモーターへのgRNAを個体に導入することにより、遺伝子発現量が向上する。以上の解決策を実行することにより、導入遺伝子発現量の安定化に寄与する。

②CRISPRiによる遺伝子発現量の抑制

導入遺伝子を制御するプロモーターにおいてヒストンアセチル化等の修飾により導入遺伝子発現量の異常な亢進が認められる場合、その発現量を抑制する必要がある。

解決策として、dCas9に対し転写抑制因子KRABを融合する(dCas9-KRAB)。このdCas9-KRAB及び目的のプロモーターへのgRNAを個体に導入することにより転写が抑制され、導入遺伝子の発現量が低下する。以上の解決策により、導入遺伝子発現量の安定化に寄与する。

③RNAiによる遺伝子発現量の抑制

導入遺伝子から発現したmRNAが安定である場合、発現量を抑制するためにmRNAを分解する必要がある。

解決策として、mRNAと相補性を有するdsRNAを導入し、RNAiを誘導することによりmRNAを分解する。また、RNAiはゲノムのヘテロクロマチン化を誘導するため、目的遺伝子の発現量の更なる抑制が期待でき、導入遺伝子発現量の安定化に寄与する。

解決策に共通するリスク及びその対応策

①解決策に共通するリスク

CRISPRiやCRISPRaで使用したgRNAは類似するプロモーター配列に結合する可能性を有し、目的外のプロモーターでエピゲノム編集が起こりうる。また、RNAiで使用したdsRNAも目的外のmRNAに対し分解を誘導する可能性がある。

これらは導入したgRNAやdsRNAがプロモーターやmRNAとのわずかなミスマッチやギャップが生じている場合でも、エピゲノム編集やRNAiが誘導されるためである(オフターゲット)。

②対策

塩基配列検索エンジンGGGenomeによるオフターゲットの予測によるgRNAやdsRNAの選別を行う。gRNAやsiRNAの選別に際しては、GGGenome上で塩基のミスマッチやギャップを許容しないという設定にする。この設定により特異性が高いgRNA及びdsRNAの設計が可能となり、オフターゲットが抑制される。

R2年、2020年 環境・環境保全 Ⅰ−1 問題 模範解答と解説

Ⅰ−1  第五次環境基本計画では,「環境・経済・社会の統合的向上」の実現のために特定の施策が複数の異なる課題を統合的に解決するような,相互に連関しあう分野横断的な6つの重点戦略が示されている。それぞれの戦略は,

①      グリーンな経済システム、② ストックとしての国土の価値

③ 持続可能な地域、④ 健康で心豊かな暮らし

⑤ 持続可能性を支える技術、⑥ 国際貢献

 の施策群である。これら重点戦略について,以下の問いに答えよ。

(1)重点戦略のうち3つについて,技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し,その内容を観点とともに示せ。

(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)すべての解決策を実行した上で生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。

(4)業務遂行に当たり,技術者としての倫理,社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。

模範解答1簡易答案形式1 環境・環境保全 専門:土壌汚染  2021/4/30

(1)課題及び内容

①グリーンな経済システム:GHG排出量が、気候、水環境、生態系などが本来持つレジリエンスの限界を超えると、不可逆的変化が起こる可能性がある。以降に如何なる対策を講じても改善不可能になり、プラネタリーバウンダリーに達するおそれがある。製造企業、消費者が環境費用を適正負担する標記システムを主流化することが課題。LCAによる発生GHG定量化・環境費用算定公開が技術開発を促進し、同費用を低減する好循環をトップランナー制度等を用いて実現することが課題。

②ストックとしての国土の価値:コンパクトシティ化を促進する。施設集約により地域冷暖房等の環境技術適用が容易になりGHG排出削減に資する。GHG排出削減等の効果がコンパクトシティ事業に見合うものである旨の啓発が課題である。

③持続可能な区域:過疎による森林、耕作地放棄等が発生している。また、過疎地に再エネ適地が多いが、事業拡大が不十分である。林業、農業の継続は生物多様性の保全等に資する旨、エネルギーの地産地消や都市部での需要拡大によるGHG削減が再エネ導入投資に見合う旨を環境技術説明により啓発することが課題である。

(2)最も重要と考える課題③に対する複数の解決策

解決策①:地域を象徴する生物の住環境を保全した林業、農業を行ない、生産物をブランド化して事業採算性を高め、都市からの移住を促すような雇用を確保する。

解決策②:再エネを自治体が率先して地産地消し、PHVを用いたVPPを構成する。被災時停電対策となり、再エネ導入投資に見合う行政サービス向上が見込まれる。

解決策③:再エネ導入投資が企業イメージ向上に資する。当該投資を明らかにしたGHG削減認証を広報し、都市部の企業等の顧客を獲得する。

(3)すべての解決策を実行した上で生じる波及効果と懸念事項への対応策

生物多様性、GHG削減への関心が高まり、環境保全意識が高まる波及効果が期待される。一方、風力発電、太陽光発電等による乱開発、環境破壊が懸念される。環境影響評価、ゾーニング等で生活環境への影響を最小限にすることが対策となる。

(4)業務遂行上,倫理,社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点

技術者倫理を高めて業務遂行するには、環境費用負担による効果を正しく説明し普及を促す。これは技術士倫理綱領の真実性の確保に相当する。社会持続可能性を高めて業務遂行するには、LCA評価を促進する。これはSDGsの№12「つくる責任つかう責任」に相当し、つくる者、つかう者両者に責任感を喚起させるのに資する。

模範解答1簡易答案形式2 環境・環境保全 専門:土壌汚染   2021/5/22

1)課題及び内容

①グリーンな経済システム:生産者や消費者他が適正な環境費用を負担せずに埋立、焼却等された廃棄物による海洋プラスチック、GHG発生などの環境破壊が生じている。製品のライフサイクルの環境費用を公開し、同費用外部化を排除する経済システムを実現する。

②ストックとしての国土の価値:居住分散による上下水道、ごみ収集、公共交通機関維持、災害防止対応等の社会コスト増大の抑制が課題である。コンパクトシティ促進を提案し、同コスト合理化によりストックとしての国土の価値を高める。

③持続可能な地域:生物多様性喪失による生態系破壊リスクの回避やGHG削減等のために、農林業継続、再エネ導入をし、地域が自立しての持続が可能な地域創生を図る。

(2)最も重要と考える課題③に対する複数の解決策

①生物多様性保全をアピールする:地域を象徴する生物の住環境を保全した農林業をブランド化して事業採算性を高める。都市からの移住が増す。生物多様性保全の必要性を正しく広報するよう留意する。今後、当該保全に認証を与えて、グリーン購入の対象とする。

②再エネを地産地消する:再エネを自治体が率先して地産地消し、PHVを用いたVPPを構成する。被災時停電対策となり、投資に見合う行政サービス向上ができる。PHVは公用車導入例が多い。公共交通への導入や優遇税制の拡大等による民間普及を促進する。

③再エネを促進し費用を低減する:地産地消のみでは発電余剰が生じ需給調整が困難な場合がある。再エネ導入投資のGHG削減認証をし、都市部企業等の導入を獲得する。LCAによる発生GHG定量化・環境費用算定公開等で導入を促進し、促進が事業費用を低減する好循環を実現する。

(3)波及効果と懸念事項への対応策

地域では、農林業の雇用増加で移住が増えて若年化する。都市部では、地域固有の自然や生物多様性への関心がエコツーリズムを促進し、GHG削減等の環境保全意識が高まる。

懸念事項は、再エネ促進による乱開発や過剰な来訪者によるオーバーツーリズムがある。前者はゾーニングによる適正立地等で対応する。後者には参加時の環境教育、マナー改善で対応する。

(4)倫理,社会の持続可能性の観点からの要件・留意点

技術者倫理を高めて業務遂行するには、住民の健康及び福利に影響を及ぼすような里山川海の変容がないように、景観設計等を提案する。地域の雇用を促進する継続的な設備メンテナンスで里山川海を保護する。これは技術士倫理綱領の公衆の利益の優先に相当する。

社会持続可能性を高めて業務遂行するには、女性や障害者を研究員に採用する。できれば地域、都市部双方の研究員の意見を吸収し、生物多様性ブランドの発信手法による購入モチベーションの変化等、多様な視点からのアイディアを取り入れる。これは、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」に相当する。

R2年、2020年 環境・環境保全 Ⅱ-2-2 問題 模範解答と解説

Ⅱ-2-2 近年,気候変動の影響もあって豪雨,洪水といった災害が多発している。発生した災害廃棄物を適正かつ円滑・迅速に処理するための市町村の災害廃棄物処理計画の策定を担当責任者として進めるに当たり,下記の内容について記述せよ。

(1)調査,検討すべき事項とその内容について説明せよ。

(2)業務を進める手順とその際に留意すべき点,工夫を要する点を含めて述べよ。

(3)業務を効率的,効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。

模範解答1簡易答案形式1 環境・環境保全 専門:土壌汚染  2021/4/14

(1)調査,検討すべき事項とその内容

①仮置場:環境調査等し、2ha以上(二次仮置場12ha以上)土地の適用性検討。

②運搬経路:優先啓開ルートを調査し、早急に啓開を開始できる体制を検討。

③処分方法等の検討:地域内処理能力を調査し、最適な処理フローを検討。

(2)手順と留意点

1 災害廃棄物の発生量の算定し、仮置場の必要面積を推計する。

・環境省算定式〔建物被害棟数×原単位×種類別の割合〕から面積を推計する。

・仮置場面積が不足する場合、環境モニタリング実施等により私有地借用を検討。2 仮設置場設置

・災害廃棄物による汚染水が河川等へ流出する可能性がある河川敷を避ける。

・激甚災害では家屋解体割合が高い。激甚度により品目ごとの仮置面積を決定

3 災害廃棄物の収集運搬方法を決定する。

・自家用車搬入による渋滞が発生する場合、搬入時間帯限定や持込物限定等で回避。

・自治体一括収集の場合、収集効率を高める中間ごみステーション設置等をはかる。

(3)業務を効率的,効果的に進めるための関係者との調整方策

既存の堰堤等災害防止施設は再現期間を30年等に定めて改良を行なっている。昨今の気象災害激甚化を鑑みて、当該再現期間を上回る災害予測が必要である。環境担当コンサルタントとして、再現期間を適切に定め、災害防止施設が無力化した場合も想定して、廃棄物発生量に応じた処分ができる仮置場の整備を行政関係部署と調整して平時から進める。

お問合せ・ご相談はこちら

受付時間
9:00~18:00
定休日
不定期

ご不明点などございましたら、
お問合せフォームかもしくはメールよりお気軽にご相談ください。

お電話でのお問合せはこちら

03-6661-2356

マンツーマン個別指導で驚異的合格率!
技術士二次試験対策ならお任せ!
面談、電話、音声ガイド・コーチングで100%納得
添削回数は無制限、夜間・休日も相談可能

お電話でのお問合せ

03-6661-2356

<受付時間>
10:00~17:00

  • 試験対策講座のご案内

株式会社
技術士合格への道研究所

住所

〒103-0008
東京都中央区日本橋中洲2-3 サンヴェール日本橋水天宮605

営業時間

10:00~17:00

定休日

不定期