H29/2017年 機械・情報精密 Ⅲ−2 問題 模範解答と解説
問題文:製品の信頼性は性能・価格と同様に製品の価値を定める重要な要素であり、信頼性の低い製品は市場から継続的な支持を得られない。そのため、製品開発に従事する者は信頼性向上を常に念頭に置いて設計変更や新材料の採用などを行っているが、新原理に基づいた革新的な技術の採用により飛躍的に信頼性を高めることができる場合も多い。このような状況を考慮して情報・精密機器の開発責任者として以下の問いに答えよ。
(1)対象とする情報・精密機器を1つ選択し、その機器の信頼性を決定する主な要因を多面的な観点から3つ記述せよ。
(2)(1)で挙げた3つの要因の中から、最も重要と考える要因を1つ選び、それに関する革新的な技術的提案とその効果を示せ。
(3)(2)の提案により生じるリスクについて説明し、その対処法を述べよ。
模範解答1 (簡易形式1) 添削履歴 1回 2019/06/21 専門事項 精密機械技術開発
1.レーザ走査顕微鏡の信頼性を決定する要因
(1)スキャナの走査角度の正確性
走査角度と被写体から反射したレーザ光強度の関係からゆがみのないX-Y平面画像を得るため。
(2)対物レンズのZ方向移動量の正確性
Z方向の寸法が正確なX-Y平面画像を重ねた立体画像を得るため。
(3)防振性
顕微鏡の測定に係る駆動振動で試料が動くと正確な画像を得られないから。
2.スキャナの走査角度の正確性に関する革新的な技術的提案と効果
提案:スキャナをシリコンマイクロマシン化する。マイクロマシン化するのは共振駆動のスキャナの固有振動数はミラー質量の0.5乗に反比例する。よってX=Y平面の画像取得速度を上げるため高共振周波数を維持しつつ、コイルを設けるにはミラーの超小型化が不可欠だからである。また半導体製法で小型軽量に形成されたコイルをレーザ光反射ミラーに設けることができる。
ミラー近傍に配した永久磁石との相互作用によりコイルで発生する誘導起電力をミラーの動きのフィードバック信号として活用する。そして閉ループ駆動させる。
効果:スキャナの走査角度が正確となり、画像のゆがみがなくなる。
3.リスクの説明と対処法
リスク説明:シリコンマイクロマシンに用いるシリコン基板に格子欠陥があると脆性破壊を引き起こす。
対処法:スキャナの可動部であり脆性破壊箇所と成り得るばね部分について赤外線透過法による格子欠陥検査を行う。
模範解答2 (簡易形式1) 添削履歴 5回 2019/03/21 専門事項 精密機械開発設計
(1)内視鏡診療システムの信頼性を決定する主要因
内視鏡はカメラと処置具チャネルを搭載したスコープ部が口等から挿入され、消化管疾患の観察、診断、処置等の診療に使われる。照明制御や画像表示による観察・診断支援や、診療時の動画など診療データ記録の入力支援のシステム機能がある。
①診療しやすさ: ユーザーの医師は疾患を正確に診断し、症状に応じた最適処置を行いたい。機器操作の労力を減らし、診断と処置に注力できる機構が必要。
②故障しない: 患者の命にかかわる臨床現場において、医療機器の故障はあってはならない。故障を未然に防ぐ設計・製造が必要。
③清潔さ: スコープ部は検査後に洗浄・滅菌・乾燥を経て次の患者に使用される。患者間の感染を防ぐため、メンテナンス容易で清潔さを保ちやすい設計が必要。
(2)「診療しやすさ」に対する革新的技術提案と効果
深層学習の人工知能(AI)技術により、内視鏡の診療プロセスの一部を自動化し、診療を支援するAI内視鏡診療支援システムを提案する。予め医師所見を教示した学習データで訓練したAIとGPGPUをシステムに搭載し、実時間で支援する。
具体的には、下記の3つを提案する。
1.内視鏡の自動挿入: スコープ部挿入時の歪や応力と内視鏡画像から、湾曲角度や挿入方向、推進力を制御する。効果は、医師労力の低減、患者安全性の確保。
2.患部の自動診断: 内視鏡の画像上で疾患部を強調表示し、可能性の高い症状を提示する。効果は、疾患部の見落とし防止、医師による最適な処置への移行。
3.患部処置の成否予測: 細胞レベルの超拡大顕微画像から、切除すべき患 部の残渣を強調表示する。効果は、再発リスクの低減。
(3)リスクとその対処法
①AIが当たり前になり開発費用を回収できない: 練医師スキルの学習データセット販売のライセンスビジネスによって、AI開発のコストアップを回収する。
②情報不足でAI誤診断が医療インシデントにつながる: AIの診断精度を確保するため、病変全体を様々な角度から撮影する等のアドバイス機能を搭載する。
模範解答2 (簡易形式2) 添削履歴 0回 2019/03/22 専門事項 精密機械開発設計
(1)内視鏡診療システムの信頼性を決定する主要因
内視鏡とは、カメラと処置具チャネルを搭載したスコープ部が口等から挿入され、消化管疾患の観察、診断、処置等の診療に使われる医療機器である。内視鏡診療システムは、照明制御や画像表示による観察・診断支援の機能や、診療時の動画など診療データ記録の入力支援のシステム機能をユーザである医師に提供する。
①診療しやすさ: 医師は疾患を正確に診断し、症状に応じた最適な処置を行いたい。機器操作の労力を減らし、診断と処置に注力できる機構が必要とされる。
②故障しない: 患者の生命にかかわる臨床現場において、医療機器の故障はあってはならない。故障を未然に防ぐ設計・製造が必要である。
③清潔さ: スコープ部は検査後に洗浄・滅菌・乾燥を経て、次の患者に使用される。患者間の感染を防ぐため、メンテナンスが容易で、且つ、清潔さを保ちやすい設計が必要となる。
(2)「診療しやすさ」に対する革新的技術提案と効果
深層学習の人工知能(AI)技術により、内視鏡の診療プロセスの一部を自動化し、診療を支援するAI内視鏡診療支援システムを提案する。予め熟練医師による所見や手技を教示した学習データで訓練したAIと、高速処理を行うためのGPGPUを本システムに搭載し、リアルタイムに診療を支援する。
具体的には、下記の3つを提案する。
1.内視鏡の自動挿入: スコープ部を患者の消化管に挿入する時のスコープ部の歪や応力をセンシングし、そのときの内視鏡画像の情報と合わせることで、学習済みAIが湾曲角度や挿入方向、推進力を制御する。これにより、臨床における医師の労力を低減するとともに、患者の安全性を確保する効果がある。
2.患部の自動診断: 消化管の中を内視鏡が移動する際の動きのある内視鏡画像上であっても、疾患部を強調表示し、可能性の高い症状を提示する。これにより、疾患部の見落としを防止でき、疾患に対して医師が最適な処置を行える効果がある。
3.患部処置の成否予測: 悪性腫瘍の疾患部を処置した後、細胞レベルの超拡大顕微画像上で、追加切除すべき残渣を強調表示する。悪性腫瘍の再発や転移のリスクを低減する効果がある。
(3)リスクとその対処法
①AIが当たり前になり、開発費用を回収できない: 熟練医師のスキルを学習データセットとして販売するライセンスビジネスによって、AI開発のコストアップを回収する。
②情報不足でAI誤診断が医療インシデントにつながる: AIの診断精度を確保するため、病変全体を様々な角度から撮影する等のアドバイス機能を搭載する。
模範解答2 (答案形式) 添削履歴 0回 2019/03/23 専門事項 精密機械開発設計
(1)内視鏡診療システムの信頼性を決定する主要因
内視鏡とは、カメラと処置具チャネルを搭載したスコープ部が口等から挿入され、消化管疾患の観察、診断、処置等の診療に使われる医療機器である。内視鏡診療システムは、照明制御や画像表示による観察・診断支援の機能や、診療時の動画など診療データを記録する際の入力支援の機能などを搭載し、ユーザである医師が内視鏡診療をしやすくなるよう支援を行う。
①診療しやすさ
医師は疾患を正確に診断し、症状に応じた最適な処置を行いたい。スコープ部の挿入や、ハンドル部やボタンなどの機器操作に要する労力を極力減らし、患者の診断と処置に注力できる機構が必要とされる。
②故障しない
患者の生命にかかわる臨床現場において、医療機器の故障はあってはならない。故障を未然に防ぐ設計・製造が必要である。
③清潔さ
スコープ部は、一人の患者を検査した後に、洗浄・滅菌・乾燥を経て、次の患者に使用される。患者間の感染を防ぐため、メンテナンスが容易で、且つ、清潔さを保ちやすい設計が必要となる。
(2)「診療しやすさ」に対する革新的技術提案とその効果
深層学習の人工知能(AI)技術により、内視鏡の診療プロセスの一部を自動化し、診療を支援するAI内視鏡診療支援システムを提案する。予め熟練医師による所見や手技を教示した学習データで訓練したAIと、高速処理を行うためのGPGPUを本システムに搭載し、リアルタイムに診療を支援する。
具体的には、下記の3つを提案する。
1.内視鏡の自動挿入
スコープ部を患者の消化管に挿入する時のスコープ部の歪や応力をセンシングし、そのときの内視鏡画像の情報と合わせることで、学習済みAIが湾曲角度や挿入方向、推進力を制御する。これにより、臨床における医師の機器操作の労力を低減するとともに、患者の安全性を確保する効果がある。
2.患部の自動診断
消化管の中を内視鏡が移動する際の動きのある内視鏡画像上であっても、疾患部をリアルタイムに強調表示し、可能性の高い症状を提示する。これにより、疾患部の見落としを防止でき、疾患に対して医師が即座に最適な処置に移行できるといった効果がある。
3.患部処置の成否予測
医師が悪性腫瘍の疾患部を処置した後、細胞レベルの超拡大顕微画像上で、追加切除すべき残渣部分を強調表示する。即時に残渣を取り除けるので、悪性腫瘍の再発や転移のリスクや再手術を低減する効果がある。
(3)リスクとその対処法
① AI開発費の回収に関するリスク
医療機器おいても、AIを搭載した機器のスマート化が当たり前となり、たとえ、医療向けに独自開発したAI技術であっても、その開発費用を回収できなくなるリスクがある。
AI開発のコストアップを回収ための対処法として、これまでに構築した医師とのネットワークを生かして、信頼できる著名な熟練医師のスキルを独自に収集し、索引付けした学習データセットとして販売するライセンスビジネスを開始する。
②AIの誤診断による医療インシデントのリスク
AIは、センサや画像から収集した情報に基づいて総合的に判断を行うため、臨床情報が不足する場合には、AIが誤診断し、その結果として医療インシデントにつながるリスクがある。
AIの診断精度を確保するための対処法として、AIが判断を下す際必要な情報の種類や情報量を予め設定しておく。診療中の臨床情報が不足する場合には、病変全体を様々な角度から撮影する等の追加すべき情報を医師に知らせるといったアドバイス機能を搭載する。