問題文
Ⅲ-2 合成高分子はその基本的な材料特性を生かして、さまざまな製品あるいは部材に用いられ市場を拡大してきた。一方、競合する材料としては、天然高分子、金属、セラミックスなどがあり、合成高分子とこれらの材料はそれぞれ独自の市場を形成してきた。このような材料間の競争関係を考慮して以下の問いに答えよ。
(1)高度成長期を挟んで、昭和30年代初頭から現在に至るまでの我が国における市場ニーズの変化に対応して、合成高分子がどのように他材料を代替して市場に拡大してきたかについて概略を述べよ。
(2)現在我が国の社会を支えている重要分野の代表例として、自動車分野、ライフライン分野及び医療・ヘルスケア分野が考えられる。それぞれの分野において合成高分子が果たしている役割について、材料特性の観点を踏まえて、具体的に述べよ。
模範解答1 (答案形式) 添削履歴 1回 2019.6.27 専門事項 成形加工技術・加工
(1)合成高分子の他材料代替過程概略
①天然高分子
置き換わった理由は「高機能」「大量生産」である。例えば木綿に代わってナイロンが衣服に使われる。この特徴は①吸湿性が低く早い乾燥・洗濯簡単②弾力性に富み、しわになりにくい③形くずれすることがない④薬品、油、海水に強い⑤カビ、虫の害がない。染色しやすく、安定大量生産できる。ポリエステル・アクリルなども使われ、今や繊維の7割以上が合成繊維である。そのほか、ゴムタイヤ・生活雑貨など合成高分子主役の世界は広がっている。
②金属
最大の理由は「比重」である。例えば航空機は当初鋼板プレス(比重7.86)で形作られていたが、軽量化のためアルミ材(比重2.7)に置き換わった。さらに現在は合成高分子構造体である炭素繊維樹脂(比重1.5)に代替していくことで、市場を拡大している。
③セラミックス
「割れない」ことが第一の理由である。例えば食器。茶碗は落とせば破損してその場で使い物でなくなる。メラミンなどの合成高分子でできた樹脂食器は、落としても亀裂すら入らない。
(2)3分野にて合成高分子が果たしている役割
①自動車分野
燃費向上・省エネルギー・化石燃料の節約に役立っている。例えばインストルメントパネル回り、バンパーなどである。バンパーは当初鋼材(比重7.86)であったが、二液反応性樹脂のポリウレタン(比重1.5)に変わった。次に熱可塑性樹脂のPP(比重0.9)に置き換わり、リサイクルによる資源循環も可能になった。
②ライフライン分野
日本では主にエネルギー施設、水供給施設、交通施設、情報施設を「ライフライン」という。ライフラインで合成高分子が使われているものは、ポリエチレン水道管がある。一度設置すると100年の寿命と言われている。また電線には「耐熱絶縁性」が必要である。碍子はもちろんその性能があるが、破損しやすい。すべての電力と道となっている「電線」は合成高分子で被覆されているので安全・安定して電力配分している。
合成高分子は今のライフラインを目立たないところでしっかりと支えている存在である。
③医療・ヘルスケア分野
医療機器は一般分野では、シリンジ・採血管・輸液バッグ/セット各種チューブがある。冠状動脈や脳血管など治療を目的としたもの、人工心肺装置やダイアライザーのように臓器機能を代替するもの、ペースメーカー・人工血管,ステントのように埋込型人工臓器まで,非常に広範囲にわたる。この分野でも合成高分子はなくてはならないものである。デイスポーザブル化を支えてきたのはPE/PP/PVCに代表される熱可塑性樹脂の大量生産である。
(3)合成高分子を生かせる分野と技術課題
選んだのは自動車分野である。理由は地球温暖化防止にもっとも必要な「二酸化炭素削減」に直結しているからである。
高分子製品としての技術課題は第1に「車体軽量化」、第2に「電気自動車電池の開発」である。
現在図1のように1㎞移動に必要なエネルギーは自動車が断然大きい。排出二酸化炭素を削減するために、ガソリン車から電気自動車へと変換が加速している。しかしながら、問題点をつぶしていき、変換してゆくには年月が必要である。
第一に合成高分子で車体軽量化すれば、動力源と関連性なく二酸化炭素排出量は抑えられる。航空機で実績を挙げている高分子製品を一般自動車に適応する。例えば、ボデーの炭素繊維樹脂化が挙げられる。
第二に優秀な合成高分子固体充填剤が開発されれば、電気自動車用電池充電時間は飛躍的に縮まる。かつ、1回の充電による走行距離は伸び、予備バッテリーを併用することで、長距離ドライブが可能となる。物流
による二酸化炭素も削減する。